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夜も遅いのでオークションが終わってからの解散で長い一日は終了。
とはいかなかった。
「なんであれを買ったの?」
疑問を放置できないLが部屋に押しかけて来た。
「見たい?」
「見たい!」
「霧は?」
「見せたいんでしょう?」
霧はやれやれと言った態度だ。俺もずっと我慢していたニヤニヤが顔に出ていて頬が痛いぐらいだしな。
「ふふふ、ならば見せてやろう!」
清々しく宣言し、アイテムボックスから村雨改を取り出す。
「Lの【鑑定】でもわからなかったみたいだが、俺の【鑑定】ではこいつの銘は村雨改!」
「村雨改?」
「里見八犬伝の?」
Lには伝わらず、霧にはわかったようだ。さすが読書家。
正確にはあっちじゃなくて実在の鍛冶師が作った方だな。どっかに保管されているそうだが、こっちはそれではない。
練習用だったのか、それとも最初から二振り作ってこっちは失われたのか。ともあれなんの因果か異世界にまで流れて向こうの鍛冶師に鍛え直された。
「そしてなんと……と、ここからは俺の実力の見せどころか」
「え? なになに⁉」
「まずは結果を御覧じあれってな」
食事中にアイテムボックス内に収めたこいつを精査していたから起こし方はもうわかっている。
召喚魔法の師匠ハイリーンに教わった【魂魄励起】でアイテム内に封入されて冬眠状態となっている魂を呼び起こす。
死霊となっていたら死霊軍団入りだったんだが、バリエーションを増やしたかったのでよかった。
「……出でよ」
俺の言葉に応えて鞘から抜いた刀身に光が宿り、紋様が浮かび上がる。俱利伽羅竜王だ。
「え? これって火属性?」
どういうことだとLが目を丸くしている。
村雨という文字は「群れた雨」という意味なのだが、刀身に掘られているのは俱利伽羅竜王の紋様。
これは不動明王の持つ俱利伽羅剣に燃え盛る炎を纏って巻き付いている竜王の姿を現したものだ。つまりは火属性に近い位置にいることがわかる。
雨という名前を持ちながら火属性の紋様を刻まれているというのも面白い。
そして、この刀に異世界の鍛冶師は水龍の魂を封入した。
その結果、この刀にはどんな奇跡が起きたか?
いや、その奇跡をもしかしたら錆び刀から打ち直した鍛冶師自身も理解していなかったのかもしれない。異世界の鍛冶師が錆び刀の銘や俱利伽羅竜王の紋様を理解していたとは思えない。
とにかく、そういうわけでこいつは水と炎の両属性を宿した稀有な存在となりつつも、その真価を発揮できない状態のままでいたわけだ。
それを、俺が起こした。
「抜けば玉散る氷の刃~~だったか? 氷じゃなくて氷炎理だな」
もちろんテキトー当て字である。
刀身の俱利伽羅竜王の紋様から龍がふわりと抜け出てくる。ドラゴンではなく龍だ。竜でもいいけど気分的に龍だ。
水と火の両方の属性のオーラを纏う半透明の龍は俺を見た。
(あなたは?)
精神波の言葉が俺に届いた。ダイレクトな意思の疎通だから言語なんて関係ない。力のある獣や精霊なんかが良くやる意思疎通方法だ。
「お前の新しい主人だ。わかっているか?」
(わからない。我はどうしてここにいる? ここはどこだ? 我は……)
「ふむ。記憶がないか? 経緯は知らんがね。お前はこの刀の一部となっている」
(刀)
龍の意識が俺の手にある刀に向いた。
「そうだ。思い出せないならその必要もないが、すでに俺とお前の間には刀を通して主従の契約が交わされている。それは感じるはずだ」
(わかる。この鎖だな。なるほど……)
「不服なら一戦やるか?」
(いや、永の眠りから解放してくれたこと、感謝する)
「ん」
(思い出せないが望まぬ形で押し込まれていたような窮屈さの名残がある。いまはそれがない。あなた……主様が解放してくれたのだとわかる)
喜んでいるようなのだが、どうも淡々としている。元よりこういう性格なのか、それとも個性を忘れてしまったのか。
「まっ、ゆっくり馴染んでくれ」
(そうさせていただく)
そう言うと龍は再び刀身に戻った。
鞘に納めてテーブルに置く。
「……と、こういうわけだ」
二人を見る。
霧は少しだけ驚いたように目を見開いている。が、それだけだ。やはり「俺のやることは非常識」とでも思っている様子だ。お前の夜の技の方が非常識だと強く言いたい。
で、Lの方だが。
「…………」
プルプルと震えている。
「Lさんや?」
「ふ、ふふふふふ……」
「?」
「ドラゴン? しかも霊体になっても活動可能。神獣クラスのドラゴンってことよね? それが武器に封じられている? それって神剣級ってことじゃない。しかも氷と炎の二属性? ふふふ……なんなのそれ?」
おお、混乱しておる。
「そんなものたかが二千万円で買えるものじゃないわよ。何十億……いえ、何百億したっておかしくない」
「瞬間的な破壊力ならおまえさんのムスペルヘイムの方が上だぞ?」
「使う場所が違うでしょ? 接近戦でムスペルヘイムを振り回そうなんて考える馬鹿がいたら馬鹿よ馬鹿」
馬鹿を何回重ねる気だ。
「こちらの世界の名と紋様があちらの世界で現実的な力を有する? つまり言霊ってこと? しかもそこに水属性の龍が打ち直しで使われた? 氷炎の共存はどちらが原因? なにそれなにそれ、研究の価値があるじゃない」
そこまで言ったところでLが目をキラキラ……いやさギラギラさせてこちらを見た。
「その剣、ちょうだい!」
「大却下」
「ええ!」
「むしろ、そこでいいよと言われると思っている方が謎だ」
「ええ! ちょうだいちょうだいちょうだい!」
駄々こねるなよ。
子供か。
「無理だっての。ほらっ、これやるから大人しくしろ」
「へ?」
と、小ぶりの異世界宝石をやる。小指の先ぐらいのちっちゃいの。
それでも使いようは色々とある。
機嫌を直したLを部屋から追い出してようやく一日目が終了したのだった。
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