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死の勇者TS陰子は異世界帰還者である  作者: ぎあまん


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 追加注文の極厚ステーキを食べ終わってもその男はいた。最後の一切れにワサビソースをたっぷりと付けて口の中をさっぱりとさせる。

 ドリンクはコーラから葡萄ジュースにチェンジしている。ワインのような気分でそれをゴッキュゴッキュ飲み干したときには複数の視線が俺に突き刺さっていた。

 うむ、満足。


「よく食べるね」


 男は呆れた様子で言う。


「まだデザートが終わっていない」

「では、それは奢らせてもらえないかな? いいものを見せてもらったし」

「そりゃどうも」


 大人しく待っていたしこちらも腹八分目で気分が落ち着いた。男が対面に座るのを許す。


「では自己紹介を。僕はホーリー・ギルバーランド。アメリカ人だ」

「封月織羽。日本人だ」

「僕は会社経営をしていてね。ここにはとあるものを手に入れるためにやって来た」

「それで?」

「欲しいのは情報なんだ。あなたの祖父は何の目的でこの船に?」

「俺をこの船に乗せるのが目的。滞在は一週間。その後はまた別の場所に移動。これでよろし?」

「いや……」

「俺関係だと爺さんの目的はそれだよ。ついでで何かやるかもしれないが、そんなことは知らん」

「し、知らないのかい」

「だって興味ないし」


 本当に興味がない。

 俺にとって面白いことなら後からいくらでも教えてくれるだろうし。俺に関係ないことを一々根掘り葉掘り聞くほど無粋ではないつもりだ。

 もっと祖父に興味を持て? 知らん知らん。

 あんなエロ爺の動向をチェックするぐらいなら実の弟妹の心配をしたい。泰羽のことじゃないぞ。


「そうか……困ったな」

「困るなよ」

「いや、彼と目的の物が被っていると本当に困るんだ。だからもしもそうなっていたとしたら君の方からそれを辞退するようにお願いしてもらいたかった」

「ふうん。でも、なんで俺の願いなら聞くって思うんだ?」

「それは……プールにいた君を見守る彼を見ていればね」


 ああ。そういえば遠くから見ていたな。


「直接交渉したら?」

「知らないのかい? 彼は他人の弱みを握ると、変わるよ」

「ふうん」


 なんかわかる気もするな。


「ていうか、それってオークションの話なのか?」

「うん? ああ、そうだよ」

「そっか。そんな面白そうなものが売られるのか」


 今回は自分が売るつもりで来ていたから買うことにについてはなにも考えてなかったな。


「まさか君が欲しくなったとか言わないでくれよ」

「物がなにかもわからないのに欲しがるほど節操なしでもないよ」


 だけど、やけにもったいぶるな。


「で、なにを買うんだ?」

「それは言えないよ」

「むう」


 デザートが来た。ブラックのコーヒーにケーキ。ケーキは三種類がきれいに並んで飾り付けられている。

 ホーリーはコーヒーだけだ。


「なら、なんでまだここにいるんだ?」


 俺が爺さんの目的を知らないこともわかったし、もうここにいる意味もなさそうなもんだが。


「なに、取引ができないなら駆け引きさ。僕がなにかを狙っている。その情報でミスター封月がどう動くか? それを読み合うね」

「そういう遊びは直接して欲しいね」

「ははは。美人の食事風景を眺めさせてもらうだけでも十分に価値のある時間だったよ」


 そう言うと、ホーリーはまだ熱いコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。


「では。良い船旅を、お嬢さん」

「ありがとう。おっさん」


 俺が答えるとホーリーは甘いマスクに苦笑を滲ませて去っていく。その先で彼を待っていたエロそうな秘書っぽい女性が俺を一睨みしてその後に続いていく。


「俺が爺さんに伝えないって選択肢もあると思うんだけどな」


 それもまた駆け引きの一つ……か?


「って、いうわけなんだが?」


 ケーキを食べ終わってからエロ爺の部屋を訊ねてホーリーのことを伝える。

 船旅なんてじっとしていたら暇になること間違いないとすでに察しているので、掻き回されるのなら自分から回ってやろうという方針だ。


「ギルバーランドさんか。ほう、オークションで欲しいものがあるのう」


 エロ爺は俺の報告を嬉しそうに聞いている。

 ホーリー云々というよりは俺が尋ねたのが嬉しいという様子だ。


「まっ、この船に来とる時点でなんぞ目当てがあるのはわかりきっとるが」

「そりゃそうだ」


 エロ爺は特に気にした様子もなかった。

 それからホーリー・ギルバーランドの説明をアーロンが始めた。

 この船にいる時点でお察しの異世界帰還者。

 彼は自身が名乗っていたように経営者であり、そして、なんと新興宗教団体の教祖様でもあった。

『探究会』というおよそ宗教っぽくない名前の集団を率いて癒しの奇跡を使っているのだという。

 おおう。現代社会における魔法の正しい利用方法やもしれないな。

 で、経営者というのは現在はボランティア団体ということになっているそうだけど、その実態は異世界帰還者たちの集団。

 つまりはダンジョン攻略部隊である。

 亮平よ。すでにアメリカに先を越されてるぞ。

 で、ホーリーは病に苦しむ人々を回復魔法で癒して尊敬と信仰とお金を集めつつ、ダンジョンに挑戦して腕を磨き続けているのだそうだ。


「じゃあ、金持ちじゃん」


 成功してる新興宗教ってめっちゃ金持ってそうだもんな。それに病気に苦しむ金持ちとかいたら搾り放題だし。


「なんのなんの。あんな若造にマネー・パワーで負けるわけないぞい!」


 俺が褒めるもんだからエロ爺がちょっと対抗心を燃やしたみたいだ。

 鼻息がうざい。


「なら、どうするんだ?」


 別に命にかかわる話でもない。

 放っておくなら放っておくでもいい問題だ。

 だが、エロ爺になにか目当てがあったのだとしたら、それとかち合っている可能性もある。


「ふうむ」


 そこら辺の真意はまるで見せず、エロ爺は顎を撫でた。


「そうじゃな。ならこれからオークションの受付に行くかの? 織羽の売りたい物の手続きもせにゃならんし」

「ういうい。じゃ、霧たちも呼ぶか」

「たまにはじいじと二人でデートでもいいんじゃよ?」

「却下~」

「むう」


 しょぼくれる老人など見る気もなく、俺はスマホで霧とLを誘った。






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