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【奇策万里に通ず】
軍師将軍アーロン・ホルスナーのスキルが発動する。
瞬間、彼の指揮下に存在する人物たちとの間に特殊な情報共有が発生する。
「では、状況を開始しよう」
アーロンの声は山を囲み、あるいは山中に潜入した部下たちに届く。
「包囲部隊は認識阻害結界の維持と結界を通り抜ける存在のモニターを続けるように。潜入部隊は対抗勢力の排除を優先的に行う。R部隊は目標発見まで待機。今回は姫様が見ておられるぞ。いいところを見せろ」
「「「サー!!」」」
「チホ」
「はい!」
「君には空から目標を探してもらいたい。場合によっては君単独で目標の捕獲に動いてもらう場合もありうるが……」
「わかりました!」
「では、あちらで装備を受け取ってくれ」
「はい!」
千鳳が嬉々とした様子で動き出す。
「ずいぶんと懐かれているようで?」
「はは……彼女の祖父から修行を頼まれましてね。数年、うちで預かっていた時期がありました」
「戦場へ?」
「はい」
「それはなかなかハードだ」
「彼女の素性はすでに知っていましたが、確かにそう思いますよ。だが、その途中で異世界を経験することになりましたから、少し考え方も変わりましたがね」
「ふうん」
アーロンの経験談を聞き流し、俺は準備の終えた千鳳が空を飛ぶところを見た。
背中から光の翼が生えて浮いていく。
「リアルな翼じゃないんだな」
「魔法的な飛行装置のように見えますね」
背中から少し離れたところに紋様的な翼が発生している。
「あれが天然物か」
「不可思議な話ですが珍しくないのでしょう?」
「まっ、同じ状況の再現は可能だけどな」
「ほう……」
アーロンが好奇心を向けてきたが放っておき、俺は少し離れた場所でスマホを取り出して時間を潰すことにした。
タンタンと音が聞こえてきたのはそれからすぐのことだった。
†††††
消音器越しの銃声が山中に響く。
クソックソックソッ。
五井華崇は自らのスキル【土遁】で姿を隠し、心の中で毒づき続けた。
戦闘が始まった。
崇を追う組織とそれを阻む別の組織。
どちらも崇が目的ではなく、崇が持っている物が狙いなのだ。
チクショウ。なんでこんなことになってしまったのか。
いや、わかってる。わかってるんだ。
自分が悪かった。やり方を間違えた。自分には合わないことをやってしまった。だけどあいつらを見たときに思ったのだ。あの世界を見たこともない奴らがどうして崇に対して上に立とうとするのかって。
あの異世界を共に生き残った連中は違う。同じ地獄で自分にはできないことをした。だからあいつらの序列を示して来れば従う。なぜならあいつらはちゃんと崇の能力も尊重してくれるし、その活かし方も考えてくれる。
だけどあいつらは違う。
自分たちだってたいしたことがないくせに、ただ自分よりもちょっとだけ暴力事に慣れているというだけで身勝手に踏み潰して来ようとする。
そんなことが許されるはずがない。
そんなことを許しておけるはずがない。
だってあいつらは戦闘に腰が引けてしまった崇よりも弱かったのだから。人だって殺したことがないくせに、どうして崇よりも上にいると考えてしまえているのか。
わけがわからない。
弱い奴に他人を踏み潰して笑う資格なんてない!
そして、そんな奴らを擁護するような連中にだって存在価値はない!
タタタン。
消音器越しの銃声がすぐ近くの木を叩いた。心の声さえも潜めさせて気配を殺す。連中は崇の居場所はわかっていない。
いまはただお互いの敵を倒すために引き金を引いているだけだ。
だけどそれなら、いまの崇はどうなのか?
いまの崇に存在価値はあるのか?
崇には運び屋としての価値があった。
しかしいまはその存在価値を放棄してこんなところに隠れている。
ここで戦っている奴らが欲しいのは崇が持っているモノであって、崇本人ではない。
「僕は……無価値だ」
タタタン!
「がっ!」
すぐ側で銃撃を受けた誰かが倒れる。装備の様子では崇がいた組織の武装部隊のようだ。戦況は不明集団の方が有利に進んでいるのだろうか?
だとしたら隙を見て不明集団の方に逃げた方がいいのか。
それとも一時的に混乱するだろう組織側にいた方がいいのだろうか?
「ゴー。聞こえるか?」
ザリザリとした音が崇を呼んだ。
五井華崇なのだが、ゴーと呼ばれる。
五井華とも崇とも呼ぶのが難しいからとゴイケでゴーという呼び方になった。海外の名前の略し方は意味が分からない。
だが、ゴー。
GO(行け)だ。少し前の崇にはお似合いの名前だった。
倒れた兵士の通信機から声が聞こえてくる。
「ゴー聞こえるか? どうせお前のことだからどこかで盗み聞いているんだろう? だから警告しておいてやる。お前が潜伏しているこの山は三十分後にガタガタにぶっ壊す。どこぞの敵が鬱陶しいからな。元仲間のよしみの警告だ。三十分以内に俺たちの所に来い。来なければ……どうなるかわかるだろ?」
この声には覚えがある。
組織の幹部。武装部隊の隊長ガイルの声だ。
崇と同じ異世界帰還者。だが彼は戦いや人殺しから逃げることない、武闘派だった。元の世界でもそういうことをしていた彼は瞬く間に素人の異世界転移者たちをまとめ上げて一大勢力を作った。
崇はその勢力の隅っこにいた。
そして勝者勢力となって帰って来た。
ガイルは元の世界に戻れるとわかったときからこちらの世界でも強力な組織を作れることを確信したようだ。
そして彼の目は崇の有用性も見逃しはしなかった。
戻ったばかりの崇が見せてしまった事件という隙も見逃さず、あっさりと取り込まれてしまった。
「俺から逃げられるなんて思わないことだ。いまなら許してやる。すぐに出てこい」
「うう……」
「覚えているだろう? 俺は約束を守るぞ。良いにしろ、悪いにしろな」
「うう……」
ガイルの脅しは本物だ。彼は断言したことは必ず実行する。
彼がこの山をガタガタにするというのなら、それは事実なのだろう。
だとしたらここに隠れているだけでは生き残れない。
どうしたら?
「うう……」
戻るしかないのか?
逃げ出しても、こうして山の中に隠れるしかない自分は誰かの言葉に従うしかないのか。自分の判断で動こうとしたらあんなことになったんだ。
考えない方がいいのか?
どんなことでも、誰かの判断に従っている方が簡単で楽で正しいのではないのか?
「うう……」
もうだめなのかもしれない。
崇が集中力を鈍らせた結果、彼の【土遁】が揺らぎ、姿が現れた。
「見つけた!」
その声が空から降り注ぎ、そして……事態が激しく動き出す。
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