170 神が死ぬのはめんどくさい
「ちーっす、魔神王さん、ちーっす」
「やめろ」
緊迫した空気を誤魔化そうとしたら嫌な顔をされた。
「ていうか、色々おかしいんだけど質問してもオーケー?」
「わかっている。そのために姿を見せたのだからな」
美青年はふんと仰け反った。
「まず、死んだんじゃないの?」
俺の神殺しっていう特性で魔神王は死ぬのではなかったのか?
そうでなければ、そもそもの俺が召喚された前提が崩れるのだが?
「もちろん、死んだ」
と、死んだ神が頷いた。
「私の魂のほとんどは切り崩され、お前が持っているはずだ」
「んだんだ」
「……ふざけるならもう話はしないぞ」
「わかったよ。それで?」
「……あれに私の力のほとんどが込められている。そうやって肉体を介した殺害で三次元よりも上に存在するはずの神の魂と力を削ぎ落し奪う力、それが神殺しというものだ」
「ふうん」
「そもそも、神が人間のように肉体に縛られているのがおかしいとは思わなかったのか?」
「ああ、まぁそれはね」
俺だって心臓と脳さえ無事なら白魔法で完全復活は簡単にできる。
いや、事前に手さえ打っておけば完全消滅からだって復帰できる。
そもそも、俺が【昇神】に手間取っているのは肉体が魂の力に追いつけなくなるからだ。
つまり、神というのは肉体に縛られない存在……っていうことになるのだろう。
「魔神王ぐらい強いとあんな肉体じゃないと本気を出せない?」
とはいえあんな化け物チックな姿になるのは嫌だな。
「愚か者が」
「んな」
「あんなものが本気なわけがなかろう。我らは世界を作るのだぞ。ならばその逆とて簡単にこなす」
「はは~ん? 負け惜しみ?」
「ふん、貴様も一度その肉体を捨てて神の視点に立ってみろ。私にそんな口を利けなくなるぞ」
「さすがは魔神王様」
「……もう話すのが嫌になってきた」
「すいません、続けてください」
ラインはじろりと睨んだ後で盛大にため息を吐いた。
ノリが悪いなぁ。
「……つまりだ。お前に負けたからってそう簡単に死ぬと思うなよってことだ!」
びしっと指をさしてきた。
やっぱり負け惜しみじゃないか。
「……で、わざわざ出てきたのはそれを言いたかったからか?」
「違う」
違うのか。
「貴様は現状の流れを理解していないだろう。まずはそれを説明してやろうと思ってな」
「ん? 神の自分探しじゃなかったのか?」
「もちろんそれもある。だが、それに貴様は巻き込まれている」
「うん?」
「そもそもが、私とあの女とが敵対したのは、貴様を見つけて利用するというからだ」
おや話の流れが違うな。
「お前らが敵対したから俺を投入したんじゃないのか?」
「違う」
「おおう」
違うのか。
「神殺しというのは人間の中で超希少な特性だ。あの女はそれを使って超越神を作ろうと言ってきた。現在我らが認知する全ての神を超えた存在を作ろうというのだ」
「へぇ」
「だが、神殺しを使ってそれを為すということは、つまりは多くの神から力を奪い、場合によっては真に殺すということだ。故に私はそれに反対し、そのためにあの世界での戦いが発生した」
その結果、俺はブラックな勇者扱いで戦争投入されて魔神王を倒すってことになるわけか。
「んで、あの女? つまりは師匠たちの野望は止まらず、いまもそれは進行中ってことか」
「そうだろうな。当面の目標はお前を神の力に耐えられる肉体を与えることだろう」
「イングか……に、しては素直に俺を元の世界に返したよな」
「すぐにイングの体に戻りたがると思ったのだろう」
まぁたしかに、織羽の肉体も最初は弱かったし、いまも不自由してるけど。
「死んだから肉体が欲しいと慌てるところが、貴様がまだ神の視点に立てていない証拠だな」
「うるせぇ……あっ!」
ってことは、俺の元の体が死んでるのって、師匠連中の仕業か。
わざとかよ。
ちくしょうめぇ。
「くくく……自分が操り人形だと気付かされる気分はどうだ?」
「うるせぇ。人形なことはだいたいわかってるよ」
そもそも、召喚したから言うこと聞けって時点ですでに操り人形扱いなわけだしな。
「だけどな、だからっていつまでも操られるつもりがないからこんなところまで来てるんだろうが」
「ふむ……そうだな」
ラインは満足したように何度か頷く。
こいつはこいつでなにか企んでいそうだよな。
「で、お前はどういうつもりなんだよ?」
俺はラインを睨む。
「お前はどういうつもりで接触して来た?」
何か一言言いたくて出てきたっていうだけじゃないだろう。
「もちろん、貴様に協力してやろうと思ってな」
「はん?」
「私から奪った魂。まだ取り込んでいないだろう?」
「む……」
「どうだ、持て余しているのだろう?」
挑発的に笑うラインは怪しい。
あからさまに罠臭い。
だが……行き詰まっているのは確かか。
「いいぜ。乗ってやるよ」
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