160 不幸なのは剣聖君だけじゃないかもしれない
††亮平視点††
織羽ちゃんに了承をもらって僕たちは水竜王ダンジョンに向かった。
すでに『王国』がゲートを確保しているので本部からの転移ゲートですぐに移動できる。
うちだけが持っているこの特殊技術のおかげでどんな地方からでもすぐに戻ることができるし、また応援や補給も簡単に行える。
とはいえこの技術も大元は織羽ちゃんが開発したもので、うちの開発部門でもコピーはできても応用した物は完成できていない。
織羽ちゃんあっての『王国』ではあるのだけど、これでは一人の神様をありがたがる宗教団体の様相を呈しているのではないかと心配になってくる。
まっ、心配したところでなにをどうすることもできない。
この国が一代の泡沫の夢となるか千年王国となるかは僕たち以後の話と思考停止してしまうことだってできる。
ていうかほぼ思考停止しているけどね。
なにしろ彼女がやりたいことをやっているのを見るのが楽しいからね。
「やあやあお待たせしたかな?」
ダンジョンに入ってすぐの広間に彼らはいた。
『鉤爪騎士団』の亜良良亜とその配下たちの五人。
「佐神亮平!」
「やあ、名前を憶えていてもらえるなんて光栄だな」
「どうして貴様が?」
「おやおや? まさか我らが女王様と直接交渉できると思っていたのかな?」
「……俺はクランマスターだぞ!!」
「だからなんだい?」
僕は平然と受け流す。
後ろで綺羅たちがクスクス笑ってる。
「どうやら勘違いをしているようだ」
「なんだと!?」
「どうして騎士団如きが、我らが女王陛下に会えると思ったのやら」
「くっ!」
苛立ちのまま動こうとした彼らだが、僕の威圧を受けて足を止めた。
「名前というのは君たちが思うよりも重要なものだよ。特に人が集う組織の名前となれば、ね」
名は体を表すっていうだろう?
個人の名前には希望が詰まっているかもしれない。
ならば集団の名前には意思が詰まっているべきだ。
だからこそ、彼女がクランの名前にこれを提案した時には心底痺れたのだから。
「僕たちのクランの名は『王国』だ。僕たちの組織は誕生したその瞬間から自分たちの意思を外に表している。騎士団などという言葉でお茶を濁す君たちと一緒の存在だと思わないでもらいたいね。反吐が出る」
挑発と本心を混ぜ合わせ、せいぜい芝居っ気たっぷりに見下した顔をする。
「貴様っ!」
効果は十分。
挑発に乗った亜良とその仲間たちが襲いかかって来る。
その後の戦闘に関しては特に語るべきことでもない。
うん。
僕はちゃんと強い。
織羽ちゃんにもらった剣もとてもいい。
「いいな」
「ああもう、そのうっとり顔は私たちでしなさいよね」
「そうねぇ」
「亮平の剣好きは異常。仕方ない」
刃こぼれも汚れもない剣身にうっとりしていると綺羅たちに呆れられた。
僕たちの側には亜良たちが倒れている。
賢者である春の魔法で拘束され、さらに纏の結界魔法で封印空間に収めてあるから逃げることはできない。
あ、僕の剣なら切れるだろうけどね。
「それより、このおっさんたちの処分ってこれでよかったの?」
綺羅が指先で炎を弄びながら聞いてくる。
「織羽はなにも言わなかったけど、敵なんでしょ? 殺しちゃってもよかったんじゃない?」
「そうね、ここはダンジョンだし」
「いまなら処理はとても簡単」
「ふむ……」
そういえば、おかしいな?
綺羅たちに言われてはじめてその違和感に気付いた。
僕はどうして、彼らを生かそうとした?
織羽ちゃんの性格的に敵を無条件に生かしておくということはありえないし、僕が出ようと言った時も彼らに求めることを言わなかった。
言わなかったということは、彼らに求めるものはなにもないということで、それはつまり殺していいということだったはずだ。
彼女は大雑把に見えるけれど意外に細かい。
特殊な勝利条件があったのなら、それを言い忘れるということはないはずだ。
そして僕たちにしても、必要な場面で人を殺すことに躊躇するほど安い経験は積んでいない。
それなのにどうして、生かした?
「……これはなにか……いや、おかしくはないぞ」
††???視点††
「おかしくはないぞ」
「……そうね。おかしくないか」
「ええ、そうね」
「……うん」
なんとかぎりぎりで寄生に成功した。
佐神亮平の体でほっと息を吐く。
依頼に従ってタケバエネルギーの会長、竹葉朝継に接近しようとしているときにあの女を見た。
封月織羽だ。
遠くで一目見た瞬間に、あれに寄生するのは無理だと理解した。
精神に取り憑くためのとっかかりが何も感じられないのだ。
あれは普通の人間ではない。
おそらくは、初めて出会う天敵というものだろう。近づくのは危険だ。
だが、それはそれとして、依頼はこなさなければならない。
石油に代わってエネルギー世界での覇権を握ろうとする青水晶発電。
いままでのどんな発電方式よりも安価で大量の電力を供給することのできるこの方式の前に、以前から進んでいた電力化はさらに加速した。
依頼人は、新たな時代のエネルギー事業に乗り遅れた一人の石油王にしてとある新興国の権力者。
自身の財力に陰りが見えたことを恐れ、なんとかタケバエネルギーが手にした永続的で莫大な富を奪い取ろうとしている。
青水晶発電の特許を握る彼と彼の会社は、すでにして次代のエネルギー王だ。
その王の首を狩るというのはやりがいのある依頼だとは思ったが、まさかこんな高い壁が立ちはだかることになるとは思わなかった。
だが、この壁を登り切ることはひどく蠱惑的な魅力もあった。
私はスペクターと呼ばれる者だ。
最近話題になっている異世界帰還者というものだ。
私がそうなったのは話題になるよりもはるか以前だ。
だが、傾向は同じだ。
戦に乱れた異世界。放たれた無数の転移者たち。スキルの使い方もわからない。世界の覇権を取れという啓示に従うしか元に世界に戻る道はなかった。
その中で私はなにをしたか?
私は臆病者だ。
弱虫だ。
それを認める冷静さがあることだけが私の取り柄だろう。
そう、私の武器は冷静さしかなかった。
力で誰かに勝てるとは思えなかった。
知恵で誰かに勝てるとは思えなかった。
人との繋がりで誰かに勝てるとは思えなかった。
人の上に立てるとは思えない。
人の下で居続けるには私には不必要なプライドが邪魔をした。
ならばどうする?
どうやって生き残る?
私が私であることをやめることなく私であり続けるにはどうすればいい?
そうだ。
私自身が軍団となるしかない。
こうして、私は異世界を生き残った。
覇権を取った者には選択肢が与えられる。
その世界に残るか?
元の世界に戻るか?
迷わず、私は元の世界に戻った。
誰もがそうだろう?
異世界はあまりに退屈だ。
「さて……」
亮平の口で呟く。
過去に思いを馳せるのはほどほどにしておくとして、さて、この後はどうするか?
封月織羽をどう攻略するか?
彼女は完璧だ。
腹が立つほどに、完璧だ。
個人の武勇ではこの佐神亮平を上回り、軍団を召喚するスキルも持つ。
あらゆる状況に対応する技術と機知に富み、困難を嬉々として受け入れる精神性を持つ。
私とは真反対の英雄だ。
「……どうやって勝つか。いや、勝たなくていい。私の邪魔さえしなければいいんだ」
彼女の弱点を掴む。
戦いの弱点でなくてもいい。
とにかく、彼女の動きを制限できる弱点を見つけることができればいい。
竹葉朝継の護衛から手を引かせるだけの交渉材料を手に入れるのだ。
「このダンジョンには、なにか秘密があるようだな」
佐神亮平や赤城綺羅、咲矢春、遠江纏たちの記憶には、このダンジョン、水竜王の寝殿は封月織羽が個人的に見つけ出し、冒険者ギルドに発見と攻略を偽装して保持し続けている秘密の場所であるらしい。
表向きはクラン員の戦闘訓練、新兵器のテスト場として、今いるこの広い場所が適しているからというものだが、それだけだとダンジョン・フローの危険を冒してまで保持する理由とは思えない。
「この奥になにかがあるのか?」
見る価値がある。
いや、見るべきだろう。
封月織羽の弱点を見つけるのだ。
「この、奥か……」
大丈夫だ。
いまの私には『王国』の中核戦力である佐神亮平とその仲間。そして『鉤爪騎士団』のクランマスターとその部下がいる。
これだけの戦力があれば、ダンジョンの攻略も容易いだろう。
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