141 カクヨム☆1000突破記念短編
知らない振りをするというのは大変だ。
織羽がちょこまかと動き回っている。
ダンジョン攻略とかなにかの企画の会議とか……なにかの移動のタイミングですっといなくなってすっと戻って来る。
そして素知らぬ顔で好き放題、勝手なことを言う。
そっちの方はどうでもいいい。それが封月織羽だ。それも含めてあの人の魅力だ。
とはいえ、なにが起こるかわかっていて知らない振りをするというのは辛い。
以前はここまでではなかった。
ただの占い師。
異世界に行ってまで手に入れる能力なのかと自問自答することが多かった。
そんな能力が織羽と知り合うことで花開いた。
魔眼導師というクラス、未来視というスキル。
そして……。
瑞原霧という少女は変化した。
なにをしてもどこかで満足できない少女はいなくなってしまった。
いや、それはいなくなっていないかもしれない。
愛する人がいる。それに勝るものはないと思っているし、その点で不満を覚えたことはない。
彼女の自由さは見ていて飽きないし、刺激的だ。
だけど未来視というスキルはとても厄介だ。
どんな奇抜な行動も、ありえないと思うような事件も、霧の目が捉えている。
予測の範囲内という言葉では足りない。
全て決定事項として退屈な未来からやって来る。
どんな隠し事もいずれ自分に明かされるという事実が存在するのであれば、それはもう隠し事ではない。
ああもう……何も考えず、手放しで幸福を甘受する。
どうして自分にはそういう人生が待っていてくれないのだろうか?
未来を知ることのできない自分がいれば……でも、そんなのは本当に夢で……。
「お前のことがどうでもよくなった」
いきなり、織羽にそんなことを言われた。
「……え? なに?」
考えがまとまらない。
どうして突然そんなことを言われてしまったのか?
そんな未来、見てはいないのに。
ああ、そうか。
これは夢だ。
それにしても唐突な夢だ。
なぜならいま、霧はクラン本部の一室にいるはずだし、織羽はダンジョン攻略に出かけている。
ここで顔を合わせるはずがない。
そもそも、ここはどこだ?
いや、夢なんだからどこでもいいのか。
「別れてくれ」
「……そう」
いきなりの言葉が胸に刺さる。
夢だとわかっていても、その言葉を聞きたい日なんてない。
だけど、霧は動揺を表に出すことを嫌った。
無表情の仮面を被り、やり過ごす。
以前の学校ではそれなりに表情を出すように努めてきたが、最近はそういう仮面を被ることをやめていた。
なので、いまのお嬢様学校では、少しとっつきにくく思われているところがある。
「わかったわ」
本当の自分ってなんなのだろう?
そう思わなくもない。
ここで自分がどうすればいいのか?
それがわからない。
いつかこの未来が見えてしまうかもしれない。
そのときに霧はどうすればいいのか、その答えがわからない。
黙って去る彼女を見送ればいいのか?
それとも……。
「どった?」
気が付くと、織羽が見下ろしていた。
知っている部屋だ。
クラン本部のマスタールームの隣にある霧の部屋。
そこでたしか、報告書を書いている途中だった。
「居眠りとは珍しい」
「そう……ね。ちょっと考え事をしていたから」
「ふうん。どった?」
「なにが?」
「なんか泣きそうな顔をしてね?」
「そんなこと……あるわけないじゃない」
「そうかぁ?」
「なんでもないわ。ちょっと嫌な夢を見ただけ」
「嫌な夢を見て泣いちゃったか。よしよし」
「だから違うって……」
「わかったから。霧は心配性だからな」
頭を抱え込まれて、霧は彼女の胸の内でむうと唸る。
額の奥でぐるりとうねる不確かなものが、その温かみで押し出され、瞳を裏側から圧していくのがわかる。
あっ、これはだめだと思ってももう遅い。
霧は織羽の背中に手を回した。
「……私は未来が見えるわ」
「そうだな」
「だから、なんの心配もない。どんな不幸だって起こる前に潰してしまえる。本当よ」
「ああ、わかってる」
「あなたが楽しく生きていられるのは、私のおかげなのよ」
「頼りにしてるよ」
「でも、不安なのよ。私が見えている未来のその先からどうにもならない災厄がやってきたどうなるの? 私は、それがやってくるその時まで、ずっと震えていなければならないの?」
いいえ、そんなことじゃない。
災害なんてどうでもいい。
災厄なんてどうでもいい。
もしもこの先の未来で、織羽と別れる未来が見えたとき、瑞原霧はどうやって生きていけばいいのか?
それがわからない。
「まったく。霧はさびしんぼだなぁ」
「だから……違うって」
反抗する霧の手を織羽が取った。背中に回していた左手を取ってなにかを嵌める。
小指だ。
「これは?」
「すごいぞ。超超超高圧縮した魔力だ」
「魔力?」
「そ。青水晶を自分で生産するシステムができたら面白いなと思って、色々実験してる途中なんだけど、で、その過程で作った奴。霧の指にピッタリだろ?」
「ええ……これ、織羽の魔力?」
「そういうこと。で、これ」
と、織羽も自分の左手を見せる。
その小指にも同じ指輪があった。
水晶の指輪のような透明感を感じさせる石だ。
夜のように濃い青。あるいは宇宙のような深い青。
だけど光の加減によっては晴天の空ぐらいにまで薄まる青い指輪。
「同質の魔力体だから近づけば反応するし、離れれば引き合う。これぞリアル運命の赤い糸発生器だ」
「ネーミングセンス」
「ははは。で、どうだ?」
「いいわね。それで、急にどうしてこんなものを?」
「ん? ん~いや、そろそろ一年ぐらい経ってるかなって」
「なにが?」
「付き合って?」
「とっくに過ぎてるわ」
「あらら」
「でもいい。許してあげる」
「それはどうも」
「あ、で、この後、食事を用意してるんだけど?」
「あなたが作ったの?」
「挑戦したけど失敗した。鷹島息子夫婦が用意してくれたんだけど、美味いぞ?」
「知ってるわよ」
こうなることはわかっていた。
全ては霧の瞳の内のこと。
だけど、もし……瞳の外からどうにもならないものが現れたら……。
大丈夫、その時でもきっと織羽は霧の側にいてくれる。
たとえ離れることになっても、この指輪が引き寄せてくれる。
いまは、そう信じることができるから。
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