122 深淵狂騒曲 09
出来上がった出口の光球は達成感の具現化だ。
そんな俺の後ろでC国人たちがなにやらごちゃごちゃと母国語で言い合っている。
「リー将軍。このままでよろしいのですか?」
「なにが言いたいんだ?」
「将軍がここに来たのは日本人の攻略完了を見届けるためではないはずです」
「そうかもしれない。だがだとしても、それを君に指図されることではないはずだ」
「しかしこのままでは、我が国の富をこの日本人に……」
「約束した物を払えないという方が、国としては恥ではないか?」
「それは……」
なにを話しているのか知らんが、どうせ勝手な物言いだろう。
まぁ、金を払わなかったら嫌がらせをしていい大義名分を得たと思うだけなんだが……。
「ほら、出るぞ」
と、声をかけてから光球を抜ける。
「あん?」
視界が赤かった。
あ、これまずいな。
と思った時には衝撃に襲われた。
†††††
「やった!」
と、叫んだルーが次の瞬間には吹き飛んだ。
いや、砕け散ったのだと気付いた時にはゾンの【気功結界】とグゥオの【飛剣盾】がリーたちを守った。
穴の外が火に呑まれている。
悲鳴も銃声も聞こえてこないことからすでに趨勢が決していることは明白だ。
「ダンジョンを攻略したか、手ごたえがありそうだな」
その声は炎を背景にリーたちを見下ろす。
「イヴァン・イグナート」
「灰帝!?」
リーの呟きに仲間たちが驚きの声を上げる。
中東で恐れられている凶悪な傭兵が炎の中に立っていた。
「R国に雇われたか」
「まぁ、そういうことだ」
リーの英語にイグナートも応じる。
「C国の英雄様がここにいるとは思わなかったな。攻略を日本人に依頼したと聞いていたんだが」
イグナートの声を聞きながら、リーは周囲を確認する。
穴の周辺はほぼ炎で覆われているが、一ヶ所だけそうではない場所がある。
灰帝が噂通りの能力であるのなら、この状況は非常に不利だ。なんとか有利な展開に持って行かなくては。
「雇われ日本人なら大人しく逃げ出すかと思ったが、その必要もなかったな。厄介なお隣さんがいるものだ」
「なに?」
イグナートの言葉は誰のことを指している?
いや、織羽やルーを殺したのは、本当にイグナートなのか?
彼の能力なのだとしたら、もっとこの辺りは熱くなっていたのではないか?
「ぐあっ!」
「ぐうっ!」
結界を張ったゾンとグゥォが悲鳴を上げる。
正体不明の攻撃で結界が揺らいでいる。
イグナートとは別な方向から飛んできた攻撃が織羽とルーを葬った正体か。
「くっ……まさか」
攻撃者の姿を見てリーは呻いた。
そこには先ほどまでなかった他国の国旗が翻り、一人の人物に目が留まる。
隣国、N国の国旗。
そして、特徴的な黒の衣装の小太りの男。
間違いない。
N国のトップ。金世音だ。
「国境を接した勢力がまさか揃うことになるとは」
「貴国が事態の解決を遅らせたために被害は我が国にまで達した。よって、解決のために私がやってきた」
「詭弁を」
金世音の背後から無数の気配が感じられる。
ここからでは見えないが大量の兵が待機しているようだ。
それはイグナートにしてもそうだろう。
炎で周辺が埋め尽くされているが、その向こう、R国側には兵力が待機しているに違いない。
「これを機に、国境線を侵す気か」
「違うな」
「C国の怠慢によって侵された我が国の平穏を守るだけだ」
「そうそう。そのために、この危険地帯の管理を二国が行うことになる……という筋書きだそうだ」
もちろん、その二国の中にC国は入っていない。
軍を居座らせての実効支配。
しかもいまは深淵被害で周辺住民は避難しているので空白地帯。移住し放題だ。
「将軍、ここは危険です。撤退を」
「…………」
ゾンの進言は適格だ。
「灰帝だけならともかく、金世音の相手までは無理です」
「わかっている」
どちらも状況次第で手が付けられなくなる類のスキルを持つ者であり、そしてその状況は整っている。
対するリーはダンジョン攻略のために部隊の中核メンバーだけを連れて来ており、集団戦は想定していなかった。
「だが、逃げるのも困難だぞ」
ここでリーたちを倒せばC国の異世界帰還者戦力は大幅に減少する。
それを見逃す二人だとは思えない。
「アタシたちが囮になります」
「ああ、その間に将軍は下がってくれ」
「そうだな。将軍さえ生きていれば、立て直しは可能だ」
仲間たちの熱い覚悟を氷の感触と共に飲み下す。
「わかった」
そう言いかけた時だ。
金世音の後ろに誰かが立っている。
少し煤けた様子のそれは……まさか。
次の瞬間、金世音が膝を崩して穴に落ちてきた。
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