119 深淵狂騒曲 06
目を覚ます。
寝ていたのは一時間ぐらいか。
「リポップするぞ、荷物を片付けろ」
「え?」
「ほれほれ、急げ」
慌てて片づけ始めるルーの背後で次々と鋼鉄巨人が現れる。
【魔甲戦車】でのレーザーブレスで現れた端から潰していき、青水晶やなにかの素材みたいなもの、宝箱などのドロップ品が現われ、それらを【念動】でかき集めてまとめてアイテムボックスに放り込む。
うん、本当に、気分は横スクロールアクションだ。点数がそのままリアルマネーに繋がるところがこのゲームのいいところなのかもしれない。
「どうして再出現するとわかったのですか?」
「こんだけダンジョン攻略してたら空気の変化くらいわかるようになるだろ」
実際には【瞑想】で吸い込んでいた外の魔力の濃度やら量やらの変化も含んでの経験則で、そういうのを全部ひっくるめて『空気の変化』だ。詳しく説明する義理もない。
「そういうものですか」
「なんだ? ダンジョン攻略はやっていなかったのか?」
「あまりやっていなかったですね」
「なんで?」
「国に能力を売り込みましたから」
「ふうん」
「そういう者はたくさんいましたから」
「おお、怖い怖い」
つまりみんな兵士になっていたってことか。
うちとも領土で揉めてるしな。そこら中で国境線を接しているこの国は外部に向けた兵力の確保に力を入れすぎた結果、ダンジョン・フローを三か所で起こしてしまったっていうことなのかもしれないな。
問題は国土の広さだけじゃなかったってことか。
うちには攻略請負人の佐神亮平様がいたからアキバドルアーガだけでなんとなかったのかもしれない。
「怖いから俺はダンジョンを攻略する」
「なぜですか? 自分たちはあちらの世界で兵士として鍛えられました。それならダンジョンに潜ることがそもそもイレギュラーではありませんか?」
「そうかもなぁ」
ルーの言い分も正しいような気がする。
全ての現象に意味があるのだとすれば、異世界でシミュレーションRPGをやってきた彼らはこちらの世界でその能力を自国のために活かすのが正しい道のように思える。
しかしもしそうだったのだとしたら、この状況を仕組んだナニモノかは地球がファンタジー風味な第三次大戦となることを望んでいたということなのか?
ではダンジョン・フローは?
異世界帰還者たちに二つの道を示した意味はなんだ?
そもそもそんなことをしてナニモノかにどんなうまみがあるのやら。
「わけがわからんなぁ」
「わからないのはあなたの方です」
「わかった。じゃあ今度から日本の国境は俺が守る。超えてくる敵は全力で薙ぎ払うな」
「あ、すいません。間違えました。あなたはダンジョンにいてください」
なんだか発言に遠慮がなくなってきたルーを引き連れてダンジョンを進んでいく。
あいかわらず道はまっすぐ続いていく。
だが【魔甲戦車】に敵うモンスターは現れず、次々とレーザーブレスで薙ぎ払われていく。
ときどき【魔甲戦車】が入れない狭いエリアになるが、そういう時は村雨改とレイピアで対応できる。
うーん、新武器を思いつくような面白いギミックを出してこないものか。
あ、なんて思ってたら回収した鋼鉄巨人の解析が終わったな。
ふむ……。
なるほど、そもそも融合精霊はこの鋼鉄巨人とかその他のゴーレム系兵器の人工知能として開発されていたのか。うちの人造精霊の発展と同じ考え方だな。
で、その過程で混沌精霊を量産するようなのが誕生してしまったと。
ふうむ?
あ、なんかこの先の展開が読めたかも。
どうかな、違うかな?
とか考えながら鋼鉄兵士を両断し、ときどきアイテムボックスに放り込む。素材を得るか青水晶とかのドロップ品にするかの選択は気分だ。
どっちにしてももう十分に手に入れたような気がする。
「あ、そうれグレネード」
なんて言いながら待ち構えている鋼鉄兵士の集団にぽいぽいと【雷球】放り込む。硬い外装を貫通して内部の融合精霊のみを焼き払うことに成功した。
「よし、じゃあこいつにこのまま」
エキアスに人造精霊を作らせてインストール。
よし成功。
ガシャゴンと立ち上がった鋼鉄兵士たちに先行させる。
「よし、どんどん楽していこう」
「信じられない」
「信じなくていいよ」
気楽に行こう。気楽に。
広いエリアでは鋼鉄巨人に同じことをしていく。
モンスターのバリエーションが少ないから対抗策が完成してしまった。【雷球】もこいつらへの特攻を付与できているから簡単に人工知能だけを焼ける。
こちらの数はどんどん増えてあっというまに百を超えた。
わちゃわちゃしすぎて先頭の戦いが見えない。
そんな感じで二日目が終わり、休憩タイムに入る。
数が多すぎるから次のエリアではもう戦いが始まっているが、無視してルーに休憩セットを出させる。
今回は各種牛丼屋の食べ比べ。
結論、みんな違ってみんないい。
ただ付いて来ているだけとはいえ二日間まともに休憩していないルーの疲労はピークに達している。
イスに座ったとほぼ同時に寝てしまったので、そのまま寝かせておく。
その間にリポップして来たモンスターを片付けたり、仮眠をとったりといろいろする。
「しかし、どれくらい進んだのやら?」
一つのエリアを一つの階層だと考えると五十ぐらいはもうクリアしているはずだ。アキバドルアーガと同じぐらいの難易度なら後二十~三十ぐらいでお終いだな。
アキバドルアーガは移動に時間を取られたが、深淵はひたすら戦闘に時間がかかる。レベル上げにはこっちの方が向いていただろうな。
とはいえ一戦ごとの難易度が高すぎるか。
面白みのないダンジョンだったから強行軍で進んだが、拘束料のことを考えるともう少しのんびりしても良かったかもしれないな。
うーん、でもめんどい。
いや、めんどいで思考を放棄するのは俺の悪いところだな。
アイテムボックスのこととかも考えたら、何度か出たり入ったり休憩を繰り返したりとかしてもよかったんだよな。
そうすれば、少しは俺も普通の異世界帰還者の振りをすることができたかもしれない。
うん……でも、めんどい。
それをすることで手に入るメリットがあまりに少ない気がする。
「うん?」
実りのない思考で時間を潰していると二度目のリポップがやってきた。
とはいえ声を出したのはそれが原因ではない。
手下化した鋼鉄巨人や鋼鉄兵士で十分に対応できている。OSとこちらの魔力補助で単体での戦力もこちらが上だ。たいして苦労もしない。
声を出したのは、そんな戦闘音の向こうで、よりやかましい音が近づいて来ているからだ。
「…………ふが」
ルーは呑気にいびきを漏らしている。
放っておいてそちらを確認すべくアイズバットを飛ばす。
俺たちが通り過ぎたエリアで戦闘音がしている。
誰かがやって来たみたいだな。
鋼鉄兵士の間をなにかが搔い潜って姿を見せる。
もしかして戦闘を全部回避して直進してきたのか?
やってきたのは四人の男女。鋼鉄兵士や巨人はエリアを超えて追いかけてきている。
「ああ、なんて言うんだっけ? トレインだったか?」
MMOの用語だ。
迷惑行為だな。
「他のプレイヤーの迷惑を考えろ」
手下化したのに被害が及ぶのもいやなのでそいつらの前に出る。
「っ!」
俺の姿を見てリーダーっぽい男が反応を見せた。
【魔甲戦車】を通路いっぱいに並べて、薙ぎ払え。
背後で起きた大爆発の連続に男女は俺の側で足を止めた。
「~~~~~っ!」
甲高いC国語が響く。
わからね。
仕方ないのでルーを起こすことにした。
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