113 ここは天国か? 02 ※籠池剛視点
天国のような時間は終了して僕たちは千歳空港に到着した。
ここからは僕の運転で三か所を巡ることになる。
車は僕のアイテムボックスに入っている。織羽がLと呼ぶ魔導技師、ルーサー・テンダロスが改造した4WD車だ。雪原もいけると豪語しているそうだけど、さすがに初夏の北海道で豪雪に出会うことはないと思う。
思いたい。
大丈夫だよね?
札幌にある冒険者ギルドに電話で連絡し、改めてこちらの攻略スケジュールを伝える。
向かうのは三か所。順番は小樽、旭川、網走だ。宿泊地がそこにあって、ダンジョンはそこからもう少し移動した場所にある。
現在も地元の異世界帰還者たちが攻略中ということだが、僕たちが到着するまでに攻略できるかどうかは微妙だそうだ。
北海道といえば海の幸とジンギスカン、六花亭と白い恋人ぐらいのイメージしかない僕だけど、フェブリヤーナはもっと知らなかった。
休憩で札幌に寄るのだし、市場で食事でもと思ったけど彼女はそういうことに興味を示さなかった。
「北海道はお寿司とか海鮮丼とか美味しいですよ?」
「生ものを食べるというのが好かん」
ということだそうだ。
それだけじゃなくて、食事全般に興味がなさそうだった。
そんなわけで途中にある店で適当に食事休憩をして小樽に到着。
「さて、行くぞ」
ホテルにチェックインして部屋に荷物を置いて「さて……」と思っているとフェブリヤーナが僕の部屋にやって来てそう言った。
「え? どこに?」
「ダンジョンに決まっておろう」
「え? まだ着いたばかりだけど」
「下らん仕事をいつまでも後回しにするものでもない。今夜中に終わらせて、明日は一日ここでゴロゴロする」
たしかに、スケジュールでは小樽に滞在は三日ということになっている。
北海道内のダンジョンは攻略が終わっていないものの、ある程度の難易度は調査済みとなっている。織羽なら一日で攻略できる程度のダンジョンだと判断したのだろう。
だけど、それが彼女にも可能なのか?
「問題ない。行くぞ」
言葉にしていない杞憂を読み取って彼女は言う。
その手にはいまだにスウィッチが握られているわけだけど。
もしかして、ダンジョンの中でまでプレイしないよ……ね?
しました。
スウィッチしてます。
目を放してくれません。
「剛、妾の前に出るでないぞ」
いや、あなたはそれで前が見えてるんですか?
ずっとそれで歩いていたから大丈夫なんだろうけど、心配だ。
いやいや、それ以前の問題だ。
それで本当に戦えるのか?
ダンジョン内部は洋館のような雰囲気がある。初代バイオを彷彿させる雰囲気だ。だとしたらゾンビが出てくるのだろうかと思った。
残念ながらゾンビではなかった。
ただ、じゃあなんなのかというとよくわからない。ねじくれた黒い人型のようなものがふわりと影から現れては襲いかかってくる。
【クリスタライズ・ガードナー】
フェブリヤーナが口ずさむようにそう言った。
途端に、彼女の周囲に丸や菱形の形をした拳大の水晶が現れたかと思うと光条を発してそれらを焼き払った。
ちなみに彼女はスウィッチから目を離していない。
【クリスタライズ・レギオン】
次に唱えた言葉と共に、今度は様々な形の立方体で構成された人型が出現した。
それもたくさん。
「片づけよ」
フェブリヤーナの命令によってそれらが動き出し、洋館の奥へと向かっていく。
たちまち無数の戦闘音が聞こえて来た。
「では、ゆるゆると落ちている物を回収しながら向かうとしよう」
「あ、は、はい」
わかった。
フェブリヤーナは美少女だけど、織羽と同じぐらいに怪物だ。
そして本当に、一晩のうちにダンジョンの攻略が終わった。
僕のアイテムボックスは大量の青水晶やさまざまなドロップ品でいっぱいになった。
ダンジョンを脱出。消滅していく入り口にざわめく見物人たちを背にさっさとホテルに移動する。中に人が残っていたとしても、消滅と同時に外に弾き出されるようになっているから安心だ。
ホテルに戻って彼女が部屋に入るのを確認すると、僕は部屋で収集品の整理が待っている。
取り出したのは折りたたみのコンテナ。ただし『王国』専用のコンテナだ。
それに青水晶をいっぱいになるまで入れて、蓋をしてロック。『王国』のマークが刻印されているところに青水晶を押し付けると、かすかな音とともにコンテナが消える。
【転移】が付与された特殊コンテナだ。
持っていた青水晶が少し小さくなっている。魔力が吸いだされた証拠だ。
移動先はオフィスの地下にある大倉庫。一度見学したけれど、次々と【転移】されてくるコンテナをロボットが整理していた。
同じことを何度も繰り返して今夜の収集品を全て送り終えてから、シャワーを浴びて寝た。
次の日は一日、ホテルでゴロゴロしながらフェブリヤーナとあの村をした。
天国だった。
次の日、遅くにチェックアウトをして旭川に向けて移動を開始。休憩を挟みつつナビに従って移動することおよそ三時間で次なるホテルに到着。
そしてやはりそのままダンジョンに向かった。
「強いですね」
サンゴ礁があちこちに張り付いた海中洞窟……そんな雰囲気の違いだけで後は同じ展開が行われていくのを見ながら、僕は言った。
「うむ。魔王だからな」
当然だと、やはりスウィッチから目を離さずに言う。
封月織羽は僕たちとは違う異世界を体験したのだと、秋葉原の戦いで『王国』のみんなの前に初めて現れた時に言ったそうだ。
僕たちのように殺し合って世界を征服することを強要されるのではなく、それこそ物語にあるような勇者が魔王を倒すことを求められる世界にいたのだと。
では、魔王だとなのるフェブリヤーナはやはり彼女の敵だったのだろうか?
「織羽と同じぐらいに強いんですか?」
「ふん……妾の方が上だと言いたいがな。残念ながら奴の方が上じゃ」
「そ、そうなんですか?」
プライドが高そうなのに素直にそれを口にしたことに僕は驚いた。
「仕方なかろう。起こりが違う。妾は人類を苦しめるために作られた。奴は神を殺すために作られた。その差はいかんともしがたいものよ」
「え?」
作られた?
それは、どういうことなのだろうか?
「いまは衣の違いに苦労しておるようだがな。それでも……。ふっ、よかったな、お前たちの主はこの上なく強いぞ」
「は、はい」
「さあ、こんなつまらぬ仕事はさっさと終わらせて、ホテルに戻るぞ。今日こそヘラクレスを捕まえるのじゃ。そなたも手伝え」
「もちろんです!」
天国キターーーー!
そんな思いが僕の中から疑問を吹き飛ばした。
北海道にいる間、僕は間違いなく天国にいた。
そしてこの天国を帰ってからも持続させるために、僕は『王国』にゲーム部を作る計画を練るのだった。
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