100 バトル・オブ・AKB 04 佐神亮平視点
深夜の空気が雲を突く塔からの波動で揺らぐ。
嫌な予感を覚えない者などいない。
剣聖・佐神亮平だって無視はできない。
「……勘弁してほしいね」
うんざりと亮平は呟いた。
気力体力に余裕があってもしょせんは一人。
個の武勇でできることは兵の士気を挫き、将の首を狩ることだが、今回はその二つが通じない。
モンスターたちにそもそも士気などというものが存在しないし、相手の将は塔の中。
ホーリー・ギルバーランドが色々ぶっちゃけた中で亮平たちにとって有益だったのは、ダンジョン・フローを終わらせるには原因となったダンジョンを攻略するしかないという情報だ。
ホーリー自身がかつてネバダ州で起きたダンジョン・フローをそうやって解決したと言うのなら、それを信用するしかない。
この状況において、世界中の異世界帰還者を犬死させるために嘘を吐いたというなら、彼はとんでもない策士ということになるが。
ともあれ、秋葉原で戦う人々の中で少しでも余裕がある者たちは残らず空を見上げた。
そしてそれを見た。
空を舞う複数の巨大な影。
「参ったな。一番の急所を突いてきた」
苦々しく亮平は顔をしかめる。
そこにいるのは羽を持つ爬虫類。
ドラゴンだ。
すでに地に満ちた地竜ではない。
飛竜だ。
こう書くとワイバーンと思ってしまう者がいるかもしれない。
実際にそれがワイバーンなのかどうかはほとんどの者はすぐに判別はできない。
だが、【鑑定】を使える者たちがそれの名前を確認する。
カラーズ・ドラゴン。
そう出た。
戦場の煙で薄汚れた夜で、しかも空。
色の判別はやや難しかったが、確かにそれらの飛竜はそれぞれに別の色を纏っていた。
赤に青に黄に、それに白に黒。
五種類の竜がどこぞの映画の演出のように空で渦を描いて飛んでいる。
また翼の形がアレによく似ている。
「無数の槍が降ってきたらちょっと泣くかも」
なんてことを思ったが、実際に降ってきたのは様々な竜の吐息だった。
赤。炎の吐息はビル群の表面を撫でて溶かし……。
青。氷の吐息は無数の雹を放って触れたものを切り裂き凍らせ……。
黄。雷の吐息は様々に屈折しながら地面を薙いで轟音を発し……。
白。姿なき吐息は地上で戦闘中のモンスターに新たな力を与え……。
黒。黒霧の吐息は、敵である人間に恐怖を植え付けていく。
「勘弁してほしいね」
様々な吐息から逃げ出し、自分の陣地まで撤退する。
そこなら纏の張った結界があるので安全だ。
「とはいえ、苦手な場所を突いて来られたな。制空権はズルい」
亮平が唇を尖らせて抗議するが、敵がそれを聞き入れてくれるはずもない。
余裕があるような口ぶりをしているが、実際には危機に一挙に二歩三歩と踏み込まれたような状況だった。
こちらは人間であるため、空中に対する備えが弱い。
飛べる者がいないわけではないが、少数だ。
そんな少数を向かわせたところで対抗手段になるとは思えない。
「纏、いつもの対空戦法、あの高さまでできるかな?」
「できないこともないけど、陣地の守りが疎かになるわよ」
「なら却下だねぇ」
いつもの対空戦法とは結界師である遠江纏の結界を足場代わりにして空で戦うというものだ。
連携が必要なだけに纏も亮平のサポートと陣地の守りの両方をこなすのは難しい。
そして、空からの攻撃が追加された状態では陣地を攻められる頻度も増すだろう。
「手が足りない。このままだとダンジョンに潜って騒動の元を断つなんていつになることやら」
愚痴しか出なくなった自分の口に辟易しながら、どうにか一人であの飛竜どもを倒す方法はないかと考える。
マンションの壁を駆けあがるか?
「できないことはないかもしれないけど……」
そんなことを何度もできるわけではないだろう。
ブレスを吐き疲れて高度を下げてくれたりしたら好機はあるのだが……。
そんな亮平の願いもむなしく、飛竜たちは高度という優位を捨てることなく維持し、五種のブレスをそこかしこに吐きまわる。
なにより厄介なのは補助に特化した白竜の吐息と、精神に干渉する黒竜の吐息だ。
異世界帰還者たちはそういうものへの対処など慣れたものだが、自衛隊員たちはそうはいかない。
彼らの担当する区域に乱れが発生する。
乱れた包囲網の修復を隣の区域で戦う異世界帰還者たちが補おうとするが、そうするための人員の移動が自分たちの区域での均衡を揺るがす結果となる。
そしてまたその隣が援助を行おうとして揺らぐ。
そんな悪循環が亮平たちの所にもやって来た。
「このままだと全域崩壊。とはいえここだけ守ったところで結果はまた同じ」
こちらの不利を敵は明確に察知していた。
再び塔が鳴動し、新たなモンスターを吐き出す。
新種ではない。
だが、それはいままでにない地竜の群れだった。
「仕留めに来た」
騎兵の突撃を凌駕する地鳴りが迫って来る。
「固まれ! 急げ!」
こうなっては他の連中の心配なんてしていられない。亮平の仲間たちは陣地内でさらに密集し、春に魔力を供給してもらった纏による全力の結界を張る。
綺羅たち攻撃魔法の使い手は少しでも相手の勢いを削がんと攻撃をひたすらに行う。
だが、多少の被害など無視した狂奔の突進はいささかも衰えることはなかった。
「抜かれる」
これで包囲網は完全瓦解するだろう。
モンスターによる被害はさらに拡大することになる。
そのことに亮平は歯噛みした。
負け戦を知らないわけではないが、負けてはならないタイミングというのは知っている。
ここで負けたら新クランの立ち上げは暗礁に乗り上げるか、難航するかもしれない。
なによりいまだに織羽が来ていない。
「織羽ちゃん、なにをして……」
亮平が呟けたのはそこまでだった。
次の瞬間、さらなる轟音が狂奔の轟きを押し潰した。
津波のように押し寄せる地竜の全てを見えない壁によって防いだ。
そしてもう一つ。
「な、なにこれ?」
呟いたのは綺羅だ。
亮平たちの前に鈍い鉄色の壁が生まれていた。
「いや、悪い悪い。こいつらのドレスチェンジに手間取っててな」
聞いたことのある声が頭上からした。
「知らないだろうけど俺の軍団をそのまま出すと逆に心証が悪くなるって霧に言われて、でも俺のデザインはどうしてもそういう風に寄っちまうから、ここは別のデザイナーがいるよなぁって。Lが担当できたからいいんだけど、物を作るのはまた時間が必要になるわけじゃん? 物はできていたんだけど換装にはまた時間がかかるわけよ。でも、せっかくのお披露目の機会だから妥協もできないわけで、こうして時間がかかっちまった」
つらつらとそんな言葉を吐く姿を皆がぽかんと見上げていた。
「まぁめんごめんご。ギリで間に合ったから許せ」
それは巨大な鉄の竜だった。
そういえば、夏にアキバドルアーガで見た時に骨で出来た多頭竜に乗っていた。もしかしたらあれに装甲を与えたということなのだろうか?
「それで、お前たちが俺の部下になる連中か? 亮平?」
「あ、ああ。そうだよ」
「大義である。封月織羽だ」
鉄の竜の頭上に立つ封月織羽は見慣れない剣を杖のように持ち、亮平たちににやりと笑ってみせた。
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