01-01 成績優良者
名前が呼ばれ、打ち合わせ?のため裏に入るディアナを見送る。
さっきまでディアナが座っていた席に一人の男が滑り込んできた。
「よう、レイト」
「初日から遅刻か?デューク」
「いや、セーフだ」
「まったく。こっちはお前のせいで1年入学が遅れたっていうのに」
「いいだろ、お前も得るものあったんだから。むしろディアナと同学年になれたんだから感謝してほしいくらいだ」
「その点に関してだけは感謝してやる」
「それで、お前の魔力値どうなった?」
「おかげさまで-800ぐらいまで上がったよ」
「もう一人ぐらい契約すればあの測定器でも+を出せるようになるのか」
「まあね。でも、新しい測定器をそろそろ公表するって父さんが言ってたよ」
「うちの親父帰ってこねぇからなぁ……そういや親父がお前に礼をしたいとか言ってたけど」
「なんで?」
「お前のおかげでバカ息子が使いもんになったからだと」
「僕は自分のために研究してるんだけどな……あと、試験勉強見てもらった件でチャラでいいって伝えといて」
「そんなのじゃ引き下がらないと思うけどな……」
『それでは成績優良者の発表を行います』
会場が一気に賑わう。
『5位863点 ローズ・アドルート
4位874点 レイカ・ノースウィンド』
1000点満点の試験だが、今までの最高得点は877点という異常な難易度を誇るテストだ。一説によると300点取れてある程度魔力があれば入学が認められるらしい。レイトには関係のない話だが。
『3位892点 デューク・クラモール』
3位の時点で最高得点を塗り替える。しかも、凡骨とされてきたクラモールの長男がだ。
『2位900点 レイト・ルナフォード』
一部の集まりが一瞬ざわつく。
「北風の副師団長わざわざ休暇とって見に来てるらしいぞ」
「面倒なことにならなきゃいいんだけど」
「いや、なるだろ。まあ、生徒会の方は姉貴が何とかしてくれると思うが」
「ライナさんにお礼言っといて」
「了解。姉貴も喜ぶと思う」
『1位915点 ディアナ・ルナフォード、壇上へお願いします』
ディアナが壇上へ上がってきた。
「というかお前魔力の点数100点分がなくて900点取れるってことは筆記満点?」
「まあ、そういうことになるね」
「お前、オレと一緒の講義親父から受けてたよな?」
「そういうデュークは魔力は100点取れただろうし、108点もどこで落としたの?」
「言うな。既に昨日姉貴から責められ続けてるんだ」
「ソア師団長にも文句言われるんじゃない?」
「うわー……もう親父帰ってこないでくれ」
ディアナが壇上を下りてこちらへ向かっている。やっと肩の荷が下りたという顔だ。あれで緊張していたのかあの子は。後でほめてあげよう。
「お、お帰りディアナ」
「どきなさいデューク、兄様の隣は私の席です」
「相変わらずのブラコンだなぁ……」
「別に血は繋がってないんですからほっておいてください」
「まあ、そうだけださぁ……」
生徒会長の挨拶という事で、デュークの姉ライナ・クラモールが壇上へ上がる。
目が合った時にウィンクを貰った。
「なんかゴメンな、レイト」
「別に嫌じゃないよ?美人じゃんライナさん」
「えー?姉貴なんか見てくれはいいけどほぼオーガじゃん……」
「後でライナさんに密告しますよ?」
「げ、やめてくれディアナ」
その後、式は滞りなく進み各教室へ移動する。
1学年3クラス150名・6年生まであるので900名の生徒がこの学院にいることになる。
「そんな……兄様と違うクラスなんて……」
2年次からは実力で振り分けられるクラス分けだが、1年次はランダムだ。
落ち込むディアナを慰めながら教室へ向かう。
レイトとデュークはBクラス、ディアナはCクラスらしい。
「レイトはオレに任せろ」
「では、兄様を口説く女子は全員処分してください」
「……それはちょっと」
なぜか2人で話し込んでいるのでそっとしておいて、Bクラスの扉を開ける。
「はい、ルナフォード君とクラモール君も早く席についてください」
担任と思われる教師に着席を促される。
まあ、他のクラスメイトは既に席についているようだ。
「それでは自己紹介から、私はシモン・グレアストです。一応、現王の弟の息子という立場ですが、継承権は放棄してますので普通に接してください」
担任が王家の人間。
どんな学級だよ……。いくら国を代表する王立の学園だからってこれはさすがに……。
「このクラスは八聖が3人もいるみたいですね。私も含めれば4人ですか」
ははは、と笑うシモンだが、これで笑えるのは貴方だけじゃないだろうか。
「とりあえず、ルナフォード君から自己紹介をお願いします」
「ええっと、レイト・ルナフォードです。よろしく」
「“レイト”何て名前初めて聞いたけど……ルナフォードにいた?」
「ああ、僕はルナフォード家の養子なので血は繋がってません」
「次、クラモール君」
時間的な問題か、シモンが切り上げてくれた。あのまま質問攻めは辛い。
「クラモール家の凡骨ことデューク・クラモールだ。よろしく」
全く笑えない冗談。一応、学院内では身分差がなくなるとはいえ、普通笑えない。
え?面白くなかった?という顔でこっちを見てるのでため息をついておいた。
「次、ノースウィンドさんお願いします」
「レイカ・ノースウィンドです……」
その後も淡々と自己紹介を終わらせ、いくつかの連絡を受けて今日は解散となった。
教室を出ると既にディアナが待機していた。
「兄様。お疲れ様です」
「いや、大したことしてないから。で、隣の女の子は友達?」
「ローズ・アドルートと申します。以後お見知りおきを、ルナフォード家次期当主様」
アドルード家は八聖の5位。火の家系だ。
「それはディアナに譲るつもりなんだけどなぁ……というかそれ誰に聞いたの?」
ローズはそっと右を見る。右側にいるディアナも右に目を逸らす。
「……ディアナ。あとでお説教ね」
「すみませんでした兄様!つい口が滑って……」
半泣きで赦しを乞うディアナ。
「……はぁ、もういいや。どうせばれることだし。ローズさん、悪いけど極力話さないでね」
「クラモールからも口止めしとく」
「八聖の3位からも圧力かかるって、貴方って何者?」
「ちょっとこんなところでは話せないけど……」
「そうだローズさん、うちに来ますか?」
「え!?いいの!?ルナフォード家って客を呼ばないことで有名だけど」
そんな認識なのかうちの家……。
「呼ばないっていうか、基本的に母は学院に、父は王宮にいるから客を呼んでも仕方ないんだよね」
2人に用があるならそれぞれの場所に行くだろうし、ウチに来ても基本的に僕とディアナと使用人しかいないし。
一時期は週一ぐらいの頻度でソア師団長が出入りしていたけど。
余談だが、名家の序列2位、3位、5位が並んで歩く様子は他の生徒にかなりの緊張を与えたという。




