00-02 バースデイ
レイト・ノースウィンドは6歳の誕生日にレイト・ノースウィンドではなくなった。
彼の生まれたノースウィンド家は、グロリアス王国の8つの魔術師家系……通称・八聖の4位。代々氷魔法を扱う家だった。
彼の兄・トウキは非常に優秀で通常の7倍近くの魔力を保有し、その実力を7歳にして世に認めさせた。
彼の姉・トウカは6歳で中位の精霊との契約を果たした。
ノースウィンドの家系は美しい銀色の髪とアイスブルーの瞳を持って生まれる。しかし、レイトは違った。銀色ではなく白。アイスブルーはなく銀灰色の瞳を持って生まれた。
この時点で彼の能力は疑われ始めた。
彼の“無能”を決定づけたのは5歳の時。
生まれてから数年の子供は、自分と外の世界との“境界”が曖昧なため、正確な魔力を測ることができない。しかし、生まれてから5年ほどできちんと“境界”が作られ、正確に魔力を測ることができる。
レイトの魔力は0だった。魔力を測定するメーターは+方向に振れることはなかった。
最初はまだ“境界”ができていないのではないかという話になったが、1ヶ月、2ヶ月経っても0のままだった。
「お前のような奴は我がノースウィンドにはいらん」
父の口から聞いた最後の言葉だ。
測定器で13回目の0を出した日・彼の誕生日にそういわれた。
その後、いつの間にか薬で眠らされた彼が目を醒ましたのは「魔の森」と呼ばれる魔物の巣窟だった。殺さないのがせめての情けと言いたいらしいが、魔力のない子供をこんなところに放置すれば確実に死ぬ。よく寝ているうちに殺されなかったものだ。
『どうしてこんなところに子供が一人でいるの?』
それは偶然だった。奇跡と言っても過言ではないかもしれない。
レイトはその日ルナと出会った。
「僕は魔力がないから父様に捨てられたんだ」
こうなることがある程度予想できていたので、レイトは取り乱すようなことはなかった。
『?……魔力がないようには見えないけど……』
「え?どういうこと?」
彼女の予想外の返答に動揺するレイト。
『少なくとも莫大な魔力をもってるよ?普通の魔術師の1万倍ぐらい?』
「でも、測定器ではいつも0だったし……というかお姉ちゃんは何者なの?」
『私は聖霊ルナ。この世界で2番目に強い聖霊』
「……精霊?」
『精霊じゃなくて聖霊。下位から上位まですべての精霊を統べるものよ』
「でも聖霊様はめったに人前に現れなくて八聖でも契約はできないって聞いたけど……」
『それは普通の人間は私たち聖霊と契約できるような魔力を持ってないから……でも、君ならできるかも?』
「え?」
『ためしに私と契約してみる?ちょっと君に興味出てきたし、100年ぐらいなら一緒にいてあげてもいいよ。それともここで魔物に食われて死ぬ?』
「え?」
もはや脅迫されているようにしか思えなかったが、レイトは契約することを選んだ。
『そういえば君、名前は?』
「レイト・ノースウィンド……じゃなくて、今はただのレイト」
『じゃあレイト、よろしくね』
ルナは彼の額にそっと口付けを落とした。
『これで契約は成ったわ。私は闇聖霊ルナ、これからよろしくねレイト。私があなたの力になってあげる』
とりあえず、とルナがつぶやくとレイトの目の前が白む。そして次の瞬間、何度か見たことがある王都の風景が広がっていた。
『もう一回飛ぶよ?』
次に目の前に広がったのはどこかの御屋敷の中だった。
「む?何者だ?」
家の中に突然現れた少年に警戒する男。女の方は迷わず迎撃のために呪文を紡ぎ始めた。しかし、発動した魔法は打ち消される。
『今代の当主は対応が迅速ね』
少年の後ろに立つ聖霊の姿に驚く。
『今代とは初めましてかな?200年ほど前に一度来たきりだけど屋敷の場所は変わってなくてよかった』
「……あなたは、まさか……」
『そう、私は闇聖霊。ちょっとお願いがあってきたんだけど、聴いてくれる?ルナフォード家の御2人』
「え?ルナフォード!?」
驚くレイトを無視して会話を続ける。
「……お願いとは?」
グリム・ルナフォードがルナに尋ねる。
「この子を養子にしてほしんだけど」
「……この子いったい何者?」
シンシア・ルナフォードが訝しげな眼でレイトを見る。
『んー……私の契約者なんだけど。ダメ?』
「「は?」」
『あ、一応貴族の出らしいから血統的にはいいんじゃない?たしかノースウィンドの子だったよね?』
いちおう頷くレイト。
「ノースウインドに魔力を持たない子が生まれたとは聞いたが、それがどうしてルナ様と契約を?」
『レイトは魔力持ってるよ?』
「というかノースウィンド家の子を勝手に養子にしては……」
『本日めでたく縁を切られたみたいよ?ちゃんと囲っとけば氷聖霊あたりと契約させれたかもしれないのにね』
「……子供を捨てるなんて信じられないわ。別に断る様な事もないし、むしろメリットもあるし養子にしましょう」
子供好きのシンシアはもう決めたようだ。というか彼女が今代の当主なので、いくら国の宰相でもグリムに拒否権はなかった。
「とりあえずハインツを呼ぼうか。他の使用人と子供たちには明日告げよう。レイトも疲れているだろうし」
さっきまで寝てましたとは言えない。しかし、時刻は真夜中なので素直に従う。
少ししてやってきた老執事に連れられてレイトは客室に通された。
「さて、ルナ様。あの少年……いえレイトについて聞きたいことがあるのですが」
『といっても私もさっき会ったばっかりだから多くは知らないよ?』




