01-05 無能の王
「遅い、デューク。……レイト、久しぶりね、待ってたわ」
弟を適当にあしらい、レイトの方へ向かうライナ。
「おいおい、もっと弟を可愛がれよ」
「悪いけどそんな暇はないわ。そういえばさっき、ローレンスから同盟……というか一時休戦の書状が来たけど」
「それ僕です。勝手なことをしてすみません」
「いや、さすが私のレイト。それに比べて愚弟は……」
ライナはデュークを見てため息をついた。
「みてろよ、絶対その席奪ってやるからな!」
「とりあえず、レイトはデュークと一緒に前へ出てくれる?理事長からの命令なんだけど」
「あー、命令ですか」
「……理事長はレイトを見せびらかしたくて仕方ないんだな……本人の意思は別として」
「まあ、いずれバレるからいいけどね」
それじゃあ、というライナの声と同時にライナの隣に一人の男が現れた。
「久しぶり、ライアン」
『お久しぶりですレイト様』
「なんだライアン貸してくれるのか。じゃあ5分で終わりそうだ」
「ライアン、レイトの指示に従いなさい。私の方は特に戦う予定がないから気を配らなくても問題ないわ」
『了承しました』
「やっと見つけた、兄様」
ディアナに続いてローズも合流した。
「初めましてライナさん。ローズ・アドルートです」
「父様から聞いてるわ。ようこそこちら側へ。あ、でもひとつ言っておくけど、レイトは渡さないわよ?」
「待ちましょうライナさん。兄様は私の物です」
言い争いを始めた二人を放置して、レイトと会話を始めるローズ。
「私の方はディアナと左翼の方を担当するので」
「了解」
「では、そろそろ。準備をしましょうか、ガーネット」
『一晩で結構調整できたし、私たち相性いいみたいね』
2体目の中位精霊に士気が上がる研鑽派と異様なテンションになり始めた精霊派。
「おー、精霊派テンションやべーけど大丈夫かな」
「デューク、そろそろ出ようか」
「おう」
シモンが開始の合図の魔法弾を撃ちあげる。その背後には楽しげな表情のシンシアが控えている。
「マジか!?」
「うわわわわわ……」
「ちょっ、いきなり!?」
「え!?え!?」
「待って待って、え!?待って!」
上級生たちの容赦ない攻撃に逃げ惑う新入生。
どうしてこんな野蛮な行事を未だに執り行っているのかを疑問に思いながらレイトはグラウンドを進んだ。
「思ってたよりひどいね?」
「毎年5人ぐらいは生死の境をさまようらしいぜ」
「……やめてしまえばいいのに」
余裕の表情の二人を放っておいて戦場は進む。
特に、魔法派と精霊派の衝突が激化している。
「くそっ、精霊なんて使いやがって」
「卑怯だぞテメーら!」
「実力で戦え!」
「精霊がいなけりゃ戦えない腰抜けどもが!」
「うるさい!精霊に認められるだけの能もないバカどもは黙っていろ!」
「悔しかったら今ここで契約して見せろ!」
「プライドしかないクズどもには無理な話だろうがな!」
「だいたいお前ら側にだって契約者居るじゃねーか!」
魔法派と精霊派の2年生が罵り合いながら戦っている。
その戦況を大きく精霊派の方に傾けたのはある男の登場だった。
「精霊派のみんな、加勢しよう。行くよミナモ、ホムラ」
ローレンスの背後から水と火の精霊が飛び出す。
中位以上の精霊2人以上との契約は彼が初めてらしい。
「ローレンス、普通に強いじゃん。というか思ったより精霊使い少ないんだな。精霊派っていうから全員契約してるのかと思った」
「周りみんな契約してるからそう思うだけで、僕たちが特殊なだけだよ?」
「そういえばそうだな。しかし、レイトの魔力はホントに便利だな」
「自分でも使えるんだから使ってくれない?コレ地味につかれるんだよ」
レイトは負の魔力を体の周囲に巡回させることによって正の魔力である魔法攻撃を完全に打ち消すことができる。これは、ルナによる超スパルタ特訓で身につけたものだが、現段階ではまだこの程度の事しかできない。
デュークも同じく身につけたが、正の魔力量が高い分、負の魔力が安定せず、あまり大きな力を使うことができないらしい。
『レイト様、デューク様そろそろ攻撃を』
「わかった」
「おーい、ローレンス。よく見とけよ」
レイトの瞳の色が紫から金に変わり、凄まじい火花と共に一人の男が現れた。
デュークの正面に突如雷が落ち、一人の少女が現れた。
「相変わらず出て来るとき派手だね……」
『これでも抑えてるのだが……すまんな』
「いや、いいよ別に。とりあえず、ティアと一緒に死なない程度に攻撃していって。あと、ティアが暴走しかけたら止めてね?」
『了解した』
レイトが雷の上位精霊・ボルトに命令する。
『デュークーっ!』
すり寄ってきた少女の頭を撫でながらデュークが答える。
「おう、ティア。ちょっと手伝ってくれ。ただ、殺すのはダメだ。あとはボルトに聞け」
『わかった!』
『では私も』
ライアンが加わり、雷の精霊たちは一斉に魔法を放つ。
高威力・高速度・低消費が精霊を介した魔法を使うメリットである。
ある程度まで威力が抑えられた(少しでも触れれば卒倒するレベル)電撃が次々と学生たちの意識を刈り取っていく。
「やり過ぎた感はあるけど」
「半分は遣ったんじゃねーか?」
「すばらしいですね……これが上位精霊の力……」
ローレンスが感嘆の声を上げる。何故か少し涙している。相変わらず変な奴だと、レイトは思った。
「ミナモとホムラの2人で満足はしていますが、やはりこの圧倒的な力は憧れますね」
『ん?何?浮気?』
『私たちレイトの所に行っちゃうよ?』
精霊に耳を引っ張られ、大慌てで謝罪するローレンスを放っておいて、再び戦場に向き直る。
依然として戦いは続いているが、1年生のほとんどはリタイアしている。
プロの魔術師でも泣くレベルの攻防が続いているのだ、無理もない。
「さて、オレはもうちょっと遊んでくるかな」
『遊ぶー!』
「僕は一度下がるよ。お疲れボルト」
『ああ、久しぶりに動くと疲れるな』
「そんな年寄りみたいなこと言って」
『これでも500年は生きているのだぞ?』
レイトがボルトと他愛もない話をしながらライナの元へと帰り始めたところ、背後から強襲を受けた。
しかし、背後から飛んできた氷弾はレイトに命中することなく、雷の障壁に阻まれ、砕け散った。
『何者だ』
ボルトの視線の先には一人の少女が立っていた。
「ああ……レイカ・ノースウィンドだったね」
「お相手お願いします」
そういうと彼女の足元にまとわりついていた氷の下位精霊が威嚇するように鳴いた。
下位精霊は一般的には小動物の形をしていることが多い。この氷の精霊も例にもれずイタチのような形をしている。
「いや、今撤退中なんだよね」
「私が引き受けます」
2人の間に割って入ってたのはディアナだった。ローズとは別行動中らしい。
「ここは私が引き受けます。ライナさんが呼んでいましたよ兄様」
「うん、じゃあ任せたよディアナ」
レイトはディアナに微笑みかけるとすぐに予定通りの道を進んだ。
「さて、妹の同士の戦いを始めましょうか」




