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夢の世界へ行って気付いた、私にとっての本当の幸せ  作者: 朝乃 永遠
新しい夢の世界
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きれいな場所だね

 雫さんの登場により話が大きく脱線してしまったので、ここでいったん仕切り直そう。

 あいかわらず私は雫さんの胸に包まれているのだが、このまま話を続ける。


「話がそれましたね。私が苺さんに会いに来た理由に戻ります」

「はいどうぞ」


「なんと、ついに、いったん楽園が完成しました」

「おお~」


 いったんってついてるのがちょっと気になるけど、ようやく完成したのか。

 夢の世界がもっともっといい世界になる、と結奈さんは言ってたな。


 海底の街が島として浮上し、いったんの役目を終えたあの世界が生まれ変わったということか。

 私が連れて行ってもらえるはずだった楽園の中の楽園はどうなったのかな。


「楽園……?」


 雫さんが楽園という言葉に反応する。

 あなたの胸も楽園ですよ。


「楽園というのは、夢の中にある世界なんですよ」

「夢の中?」


 なんだろう、雫さんの私を見る目が、憐みの目に変化した気がする。


「ほら、結奈さんが言ってた、楽園創造計画の……」

「ああ、世界を作って移住するっていう」


 言ってて思うけど、すごい計画だよね。

 世界を作ってそこに住もうなんて、月とか火星に住むっていうよりぶっ飛んでる。

 でもまさかこっちが先に実現するなんて普通は思わないだろうな。


「まあ私は途中から自分のために作ってましたけどね」

「結乃さん、そこは伏せておきましょうよ」


 でも今思えば、結奈さんも詠ちゃんも気づいてたんだろうな。

 だからあの時ふたりとも夢の世界に干渉してきてたんだ。

 はやく解決して、計画の続きをやってくれってことだったのかも。


「今回は詠とも協力したんですよ、夢の世界へはこのアプリを使って移動することにしました」


 ユーノさんが見せてくれたアイコンは、なぜか私のスマホにすでにインストールされているアプリのものだった。


 いつの間にこんなものをいれたんだ。

 ああ、そうか、私たちがこの時間に戻ってきた時に入れたのか。

 このアプリは一般のアプリの中に擬態して紛れ込んでいる。


 配信元はドリームゲームズとなっていた。

 聞いたことないな、架空の名前でも使ったか。

 一応調べてみると、なにやらややこしい関係図が出てきた。


 ナイトメアHDという会社の子会社、ナイトメアキャピタルが出資。

 そしてあのクイーンオブナイトメアが業務提携している会社のようだ。

 クイーンオブナイトメアもナイトメアHDの子会社で、さらにナイトメアHDは魔白HDと提携している。


 魔白HDとは雪ちゃんの家の会社である魔白製薬の子会社らしい。

 こんなところでつながっていくなんて、まるで仕組まれていたみたいだ。


「それじゃあさっそく夢の世界へ行っちゃいましょうか」


 結乃さんがそういうと、私と雫さんの体がうっすらと光り始める。


「って、アプリはどうした~!」


 結局アプリはまったく使用せず、結乃さんの魔法のような力で私たちは夢の世界へと連れていかれた。




 まるで眠っていたかのような、ぼんやりとした意識がすこしずつ覚醒していく。

 目を開けると、飛び込んできたのは青い空と白い雲。


 どうやら地べたに寝っ転がっているようだ。

 このまま寝ていたいほどに心地いい天気だった。

 なんだか懐かしいにおいがする。


 都会にいるとつい忘れてしまいそうになる、土や草や花の香り。

 それから海のにおいも。


 そんなに長い間離れていたわけじゃないし、こっちにいた時間はむしろ短い。

 なのになんでこんなにも懐かしいと感じるのだろうか。

 それはきっと楽しかったからだろう。


 ここで過ごした時間は、不思議なことがたくさん起きたけど、幸せなものだった。

 ただ少し足りないものがあっただけ。

 でも今回はその足りなかったものがそばにある。


 私は体を起こし、隣で同じように寝っ転がっている雫さんを揺する。


「雫さ~ん、目を覚ましてくださ~い」


 しばらく揺すっていると、雫さんはいきなり目を覚まして体を起こした。

 私はそれを寸前で回避する。


「あれ? 私いつの間に寝ちゃったの?」

「雫さん、ここが夢の世界ですよ」

「え?」


 雫さんは周囲をきょろきょろと見回す。


「すごい……、きれいな場所だね」

「はい、だって夢ですから」

「そっか」


 私たちは立ち上がり、全身でこの楽園の空気を感じる。

 そういえばここは見たことない場所だね。

 そして結乃さんはいったいどこへ行ったのか。


 辺りを見ていると、少しむこうの方にたくさんの建物が見える。

 あそこに街があるのか。


 そして私たちの近くには、その街の真ん中を通る道が伸びている。

 なぜか結乃さんもいないし、まずはあの街へむかってみるか。


「雫さん、とりあえず街まで行ってみましょうか」

「うん、よくわからないし苺ちゃんについていくね」


 雫さんに確認をとり、私たちは街へむかって歩き出した。

 その私たちの手は、いつのまにかしっかりとつながれている。


 知らない土地での不安と、大切な人が一緒にいる安心感がそうさせるのか。

 それともこの美しい楽園で、気持ちが舞い上がっているのか。

 どちらにしても、前回の時にはいなかった雫さんがいてくれることに幸せを感じている。


 一本道を進み、街が近づいてくると、入り口の門のように大きな鳥居が建っていた。

 歩き始めた時から見えていたので相当な大きさだとは思っていたけど、そばまで来ると予想よりもさらに大きかった。


 入り口に鳥居があるのはこの世界では何度かあったけど、何か意味でもあるのだろうか。

 ただの外観的な要素なのか、それともここから先は神の世界として境界を作っているのか。

 神社ならともかく、街の入り口にあるということはそういうことなのかもしれない。


 鳥居をくぐって街の中に入ると、なんだかまわりの空気が変わった気がした。

 うまく言えないけど、なにかに守られているような、そんな感じ。


 ここまで歩いてきた道は、この街の中心の大通りとなっていて、中に進むほど辺りがにぎやかになっていった。

 そんな街の様子を眺めていると、ふと思った。


 この街はなんだか海底の街に似ている。

 ただ雰囲気が似ているだけなのかもしれないけど、入り口に鳥居もあったし、それだけじゃない気がする。


 もしかするとここは……。

 確信を持てないまましばらく歩いていると、やがて見覚えのある場所へたどり着いた。

 それは海底の街でユーノさんが使っていた建物へとむかう曲がり角のように見える。


 あの時とは逆の方向から街を進んできたということだろうか。

 まあこの先にあの建物を見つければ確実だ。


「雫さん、ちょっとこっちに行ってもいいですか? 確認したいことがあるんです」

「うん、別にいいよ、どこにむかってたわけじゃないし」


 あいかわらず私たちは手をつないだまま、角を曲がって道を進む。

 私の予想が間違っていなければきっとあるはず……。


「あった……」


 そこは間違いなく、海底の街で使った建物だった。


「ここって旅館?」


 私が初めてここに来た時思ったことを雫さんも口にする。


「そう見えますけど、一応ただの家ですよ」

「そうなんだ……」


 雫さんがなぜか少し残念そうな表情をする。

 なんだろう、旅館に行きたかったのかな。


 それなら今度旅行にでも行きますか。

 そしてその旅先でついに……。

 ゴォオオオオオル!


「ぐふ、ぐふふふ」

「ど、どうしたの苺ちゃん」

「あ、いえ、何でもないです」


 いけないいけない、うっかり雫さんに気持ち悪い姿を見せるところだったよ。

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