こんな時間までどこに行ってたの?
ヨミちゃんがいなくなり、夢から覚めた後も私はしばらく温泉に残っていた。
今はまだゆっくりしていたかったからだ。
しばらくしたらきっと大変なことが起こるだろう。
なので今はこんな時間も大切にしたい。
再びぼんやりと空を見上げて朝日を浴びていると、ふわっと空気が変わった気がした。
その不思議な感覚に視線を戻し、周りを確認すると少し離れたところになんとユーノさんがいた。
「ゆ、ユーノさん?」
いつものこととはいえ突然の再会に驚き、声が上ずってしまう。
「おひさしぶりですね、苺さん」
「は、はい……、あいかわらず突然出てきますね」
しかもちゃんと記憶を持ったままなんだ。
今のところ記憶を保持しているのは私と詠ちゃんとユーノさんだけということか。
「何か悩んでいるのですか?」
「そう見えますか?」
「そうですね、夢の世界にいた時の笑顔とは違う気がしますね」
そんなことまでわかっちゃうのか。
まああっちにいた時は確かに悩みなんてほとんどなかったしなぁ。
「あの、私はなぜこの時代まで戻ってきてるんでしょうか、なにか意味があると思うんですけど」
何度も自分で考えてみたことだけど、一応ユーノさんの話も聞きたかった。
まさか雪ちゃんを助けるために戻ってきてるなんてことはないだろう。
それは私が望んでいることであって、この現象が私に求めていることとは限らない。
というかこの状況はユーノさんが関わってる気がするんだよね。
なのではっきりとした答えを期待しているのだが、どうだろうか。
「私は苺さんの味方ですよ、自分の正しいと思うことやってみてください」
……。
めちゃくちゃ曖昧な答えだなぁ……。
ユーノさんは関係してないのかな。
でもなぁ、何も知らないって感じではないんだよね。
「ユーノさ~ん、助けてくださいよ~」
良心に訴えかけるため、試しに泣きついてみる。
すると少し困ったように笑うと、私の頭をやさしくなでてくれた。
「仕方ありませんね、ではヒントをあげましょう」
「わあ、ありがとうございます!」
やっぱりユーノさん知ってたのか。
でもなんで答えを隠す必要があるんだ?
ゲームじゃあるまいし、さっさと導いてしまった方が正しい未来にむかうというものじゃないかな。
女神様ってのは何かに縛られているのだろうか。
でもそうだとしたら泣きついたところで教えてはくれないだろうしなぁ。
私が考えたところでユーノさんの心がわかるわけないんだけど。
「苺さんのしなければいけないことは、まず雪さんを守ることだと思います」
「やっぱりそうなんですか」
「多分ですけどね、私もなぜこうなってるのかわからないもので、ただ状況からするとそうなのかなって」
うん? ユーノさんは別に関わってないのか。
でも他にこんなことができる者がいると思えないんだけど。
嫌だなぁ、変な黒幕とかいたら……。
「あとですね、夢魔に関しても決着をつける必要があるのかもしれません」
「それは夢魔を全滅させるってことですか?」
「それは現実的にできませんけど、永遠に雪さんを守り続けるというのは無理がありますので」
確かに、終わりのない戦いをするのはかなりつらい。
一応雪ちゃんは終わらせる方法を見つけてはいるみたいだから、それをお手伝いすればいいのだろうか。
夢魔の女王を倒すって言ってたけど、そんなこと本当にできるのかな。
「すみません苺さん、私も協力したいのですがあちらの世界のことで手を取られていまして」
「ああ、大丈夫ですよ、ここは何とかしてみせます、だからまた連れて行ってくださいね」
「はい、必ず素晴らしい世界にしてみせますよ」
ユーノさんの方も大変そうだな。
まあここに来られるだけの余裕くらいはあるんだろうけど。
そういえば夢の世界の時間はどうなってるんだろう。
私が去った後の時間なのか、それともこの時期の夢の世界になってるのか。
話してる感じだと夢の世界の時間は戻ってないみたいだよね。
私たちはこのままこの時代から生きていくのだろうか。
それとも問題が解決したら現代まで戻されるのか。
できればこのままでいさせてほしいな。
失ったものを全部取り戻していきたいから。
「さて、戻る前に苺さんにプレゼントをあげましょう」
「ええ!? 何ですか?」
ユーノさんからのプレゼントだなんて、わくわく、わくわく。
「じゃじゃん! ラブエナジーマックス60本セット~」
いらね~……。
「いや、これはちょっと……」
「まあまあ、何かの役に立つかもしれませんし、冷蔵庫に送っておきますね」
「……あざ~す」
なぜあなたたちは私の家の冷蔵庫に物を転移させることができるんだ?
というか60本も入れないでほしいんだが。
誰かに配っておくか……。
「それで結局私は……、っていない!?」
気づけばユーノさんはすでに消えた後だった。
あいかわらずだなぁ。
とにかく私は、まず雪ちゃんを助けることを考えよう。
でもその後どうつながっていくんだろうか。
結局わからなかったけど、ヨミちゃんの話からすると、私と雫さんがあの会社に入るのは避けておいた方がよさそうだ。
記憶をあやふやにされてしまっている部分に何か重要な出来事があったのかもしれないし。
よし、とりあえず雪ちゃんのところに戻るか。
私は一発気合を入れて立ち上がる。
おっといけない、すっぽんぽんだった。
洞窟の外に出ると、空はうっすらと明るくなっていた。
温泉から見た時はまだ暗かったのに、こういうのって早いのかな。
でも時間は6時過ぎで、まだ早い時間だ。
帰ったらみんなの朝食の準備でもしようかな。
そう思いながらのんびりと浜辺を歩いて帰った。
そして別荘の中に入ると、なぜか真っ暗だった。
おかしいな、ここの明かりはずっとついてたはずなんだけどな。
誰か消したのだろうか。
手探りでスイッチを見つけて明かりをつける。
すると暗闇から雪ちゃんと芳乃ちゃん、そして杏蜜ちゃんまで揃っていた。
みんなテーブルに着いて深刻そうな顔をしている。
「ど、どうしたんですかみなさん」
いったいあの短い時間で何があったのだろうか。
「こんな時間までどこに行ってたの?」
雪ちゃんが背中が冷たくなるような声色で尋ねてくる。
なんだこの朝帰りを追及されているような状況は……。
ただ朝早く出かけただけなのに。
「ちょっと朝のお散歩に」
「嘘よ」
「え? いや本当なんですけど……」
別に嘘は言っていない、ついでに温泉に入ってきただけだし。
「女なんでしょ」
「え?」
「女と会ってたんでしょ」
まあ、確かに詠ちゃんとかユーノさんと会ってたなぁ……。
「たまたま出会っただけですよ」
「こんな時間に?」
うわ~ん、雪ちゃんが怖いよ~。
そして杏蜜ちゃんはなんでさっきから笑いを堪えてるの?
ちょっと声が漏れてるよ?
なんかよくわからないけど分が悪いか。
ここは例の技でしのぐぞ。
「とりあえずごめんなさいでした~!」
「「ええ~!?」」
「あはははは!」
必殺ジャンピング土下座をかましてやったぜ。
雪ちゃんと芳乃ちゃんはあまりの出来事に驚き、杏蜜ちゃんは爆笑していた。
「わわわ、やりすぎちゃったよ~、冗談のつもりだったのに~」
いやいや、冗談にしてはしつこすぎだよ。
本気でこんなことで怒ってるのかと思った。
「まさか土下座するなんて……、苺さんぶっ飛んでるね」
芳乃ちゃんが私を抱き起しながら言う。
へへへ、私の行動は大体アニメを参考にしてるんだぜ。
私の見てきたアニメでは、この状況はジャンピング土下座で切り抜けていたんだよ。
「ごめんなさい、苺さん、許して~」
「仕方ありませんね、おさわり1回で許してあげます」
「……」
みんなとの距離が少し遠くなった。




