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苺さんはその水着姿を脳内メモリーに焼き付けたのですよ

 旅行の当日。

 私は近所の公園で雪ちゃんの到着を待っていた。


 今回のメンバーは、私と雪ちゃん、それから芳乃ちゃんと運転手さんだけだ。

 なんだか芳乃ちゃんがいるのが不思議な感じがする。

 現実世界でも芳乃ちゃんと雪ちゃんの関係がわかったのって大分後の方だったからなぁ。


 しかも今は夢魔だってわかっちゃったし。

 そういえば雪ちゃんはこのこと知ってるのかな。


 しばらくすると公園の前にいつもの黒い車が停車した。


「お待たせ~」

「おはようございます、雪ちゃん、芳乃ちゃん」

「おはようございます」


 それぞれ挨拶を済ませて車に乗り込むと、すぐに発進した。

 目的地はあのお馴染みの別荘だ。

 ちょうどあの洞窟温泉のことも気になってたし、ついでに様子を見に行っておきたい。


「なんかこの3人だけで旅行って変な感じだよね」


 芳乃ちゃんが私の方を見ながら、私がさっき思ってたことと同じようなことを言った。


「まあ運転手さんもいますけどね」


 だから実際には4人いるわけだ。

 高校生と中学生だけっていうのも少し不安があるし、大人の人が来てくれるのはちょっと安心だ。

 まあ、私も心は大人だけどね。


 そう思っていたら、芳乃ちゃんから恐ろしい事実が告げられる。


「運転手さんなんていないよ?」

「へ?」

「ほら」


 芳乃ちゃんは私のいる場所と運転席の間にあるカーテンを開く。

 すると確かに運転席には誰の姿もなかった。

 え、ホラーなの?


「自動運転なんだ」

「うそでしょ!?」


 この時期の自動運転ってそんなにちゃんと走れるんだっけ?


「大丈夫だよ、それにいざとなったら魔法でなんとかするから」

「魔法って……、というかちゃんと雪ちゃんは知ってたんですね」

「芳乃さんが夢魔ってこと? 当然知ってるよ」


 そうか、その辺は心配いらなかったか。

 と安心したその時、車が急カーブをした。


 本当にこれ大丈夫なのか?

 私はバランスを崩し、芳乃ちゃんの胸元を目がけて飛び込んでしまう。


「ひゃっ」

「あ、ごめんなさい芳乃ちゃん」


 気付けば私の顔は、芳乃ちゃんのほどよく大きい胸に包まれていた。

 やさしくて甘い香りがする。


「あの……、いつまで埋まってるの?」

「あ、すみません、つい気持ちよくて」


 いや~、偶然とはいえ堪能しちゃったよね~。

 はっ、もしかしてこの自動運転、私の心を読み取ってこんな動きをしたのか?

 そんなはずはないだろうけど、一応お礼を言っておこう。


 ありがとう自動運転。


『まかせてよ』


 なぜだか頭の中でクジラのクッシーの声がした。

 



 その後は特に危険な目に遭うこともなく、無事に目的地までたどり着いた。

 慣れてしまえば自動運転も特に気になることはなかったな。

 さすが技術の進化はすごい、まるで魔法の世界みたいだった。


 さて、またまたやってきたあの別荘。

 夢の世界でそっくりな場所に行ったことを入れたら、今回で3回目になるな。

 もしかしてこの辺りは重要な拠点だったりするのだろうか。


「お~い、苺さ~ん、入らないの~?」


 私を呼ぶ声に振りむくと、ふたりが建物の中に入ろうとしているところだった。

 どこかへ行く前に、私も荷物を置かせてもらおう。


 私はふたりに続いて建物の中に入った。

 今回の私の部屋は今まで一度も使ったことのない場所だ。


 雫さんが使ってた部屋かな。

 使用した後だったらベッドにダイブするところだったのに残念だ。


 最近はこの別荘を使うことも多くて大分なじんだなぁ。

 まさか夢の世界でもここがでてくるなんて思わなかったもんね。


 さて、さっそく雪ちゃんのところへ行って夢魔についての話をしようか。

 そう思い部屋の外へとむかうと、その前にいきおいよく扉が開かれた。


「苺さ~ん! 泳ぎに行くよ~!」

「……」


 部屋に飛び込んできたのは水着姿の雪ちゃんだった。


「あの、まだ泳ぐのは早いと思うけど……」

「え? でも私、昨日プールで泳いだよ?」


 この時期に泳げるプールってことはそれって……。


「お嬢様が泳いでたのは、室内の温水プールですよ」


 私の代わりに答えたのは、遅れて入ってきた芳乃ちゃんだ。

 さすがお嬢様、家には室内プールまで存在するのか。

 たぶん今住んでるところじゃなくて、実家の方だと思うけど。


「今日は泳げないの?」

「まあ、厳しいですね」


 ぼうぜんとしている雪ちゃんに、淡々と事実を伝える芳乃ちゃん。


「じゃあ、苺さんの水着姿は?」

「多分水着は持ってきてないかと」


 ちらっと芳乃ちゃんがこちらをむいたので、黙って頷いた。


「じゃあ、苺さんは裸で泳ぐの!?」


 なんでだよ!

 水着すら恥ずかしいのに、なんで裸で泳がねばならんのか。

 中1の雪ちゃんって、意外とおバカなの?


「お嬢様、裸もいいですが、あえて服のまま泳いでもらって、ぐしょ濡れの苺さんというのも乙なものですよ」


 こっちもアホだった~!!


「とりあえず雪ちゃんは服を着てきたら?」

「うう~、仕方ないね」


「あ、でもちょっと待って」

「?」


 しょぼんとしながら着替えのために部屋を出ていこうとする雪ちゃんを私は引き留めた。

 そしてくわっと目を見開いて、心のシャッターを切り、この水着姿を脳内メモリーに焼き付ける。


「もう大丈夫だよ、ありがとう」

「え、うん」


 何が起きたのか理解してない雪ちゃんは、私と芳乃ちゃんを交互に見る。


「お嬢様、苺さんはその水着姿を脳内メモリーに焼き付けたのですよ」

「え、そうなの?」


 なぜわかった~!?


「そんなことできるんだ」

「はい、私も苺さんのパンチラでやったことあります」


 な、なんだと……。

 いやしかし、私はちゃんとスパッツを履いてるぞ、だからパンツまでは見えないはず。


「まあ、苺さんはスパッツ履いてるので下着までは見えませんでしたが」


 ですよね!

 よかった、見えてなかった。


「芳乃さん、スパッツでいいので今度写真を」

「わかりました、苺さんは恥ずかしがり屋のくせにスカートが短いので楽勝です」


 芳乃ちゃんと雪ちゃんはお互いに親指を立てて、何かわかりあっていらっしゃる。

 何なんだこの人たちは……。


「芳乃ちゃん、私も芳乃ちゃんのエッチな写真が欲しいです」

「よく本人にむかってそんなこと言えるね!?」


「いや、本人がいる場所でパンチラ写真欲しいとか言ってる人に言われたくないですよ」

「それは……、そうだね」


 納得しちゃった。

 よし、これで私の写真が撮られたら、代わりに芳乃ちゃんの写真を要求してやろう。


 芳乃ちゃんも確かスパッツ派だったはず。

 ふふふ、楽しみだね、いつでも撮ってみせるがいいよ。


 そういえば雪ちゃんはスパッツ履いてなかったなぁ。

 カニさんとか雪だるまとか、よく私からは見えてたんだよね。

 私のそばでしゃがみこむことが多いからさ。


 いや~、やっぱり雪ちゃんの清楚な雰囲気とパンチラの組み合わせは最高だよ。

 ……なんの話をしてるんだ私たちは。

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