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あ、月が綺麗……

 この車のむかう先は、雪ちゃんの家の別荘らしい。

 海沿いで温泉まであるなんて、さすがお嬢様だ。

 出発が遅い時間だったので、目的地についたときにはすっかり暗くなっていた。


 2時間以上走ってたから、けっこう遠いところだよね。

 それにしてもいい車だからか、長く乗っててもぜんぜん疲れなかった。

 なんかリビングごと移動してる感覚だったよ。


 車から降りると少し肌寒さを感じる。

 ふと空を見上げるときれいな月が私たちを照らしていた。


「お~い、苺さ~ん、置いてくよ~!」


 桃ちゃんが建物の入口から私を呼んでいる。

 もう少しこうしていたいけど、一度みんなのところに行こう。

 月なら部屋からでも見れるかもしれないし。


 中に入ると、みんながリビングに集まっていた。

 これからひとりに1部屋ずつ割り当てていくらしい。


 4人分の部屋を確保できてしまうなんて、大きいとは思ってたけどやっぱりすごい。

 雪ちゃんに私の部屋まで案内され中に入る。


『晩ごはん食べに行くまでゆっくりしてて』

「はい、ありがとうございます、雪ちゃん」


 雪ちゃんは笑顔で手を振って戻っていった。

 部屋には大きなベッドがあり、他にはほとんど何もない。

 あと奥には広いバルコニーがある。


 そこに出るとさっき見ていた月が見えた。

 それをボーッと眺める。


「月って不思議……、なんか魔法が使えるようになりそうですね……」

「苺さんってけっこう中二っぽいですよね……」

「ひゃっ」


 突然声をかけられ、驚いてそちらを見ると桃ちゃんの姿が。

 隣の部屋だったらしく、むこうもバルコニーに出てきていた。


 このバルコニーは出入り口は別れているけど、すぐむこうで繋がっている。

 そこにはくつろぐためのテーブルとチェアがあった。


「月を見てるんですか?」

「はい、桃ちゃんもですか?」

「私だけじゃないみたいですけどね」


 そう言って桃ちゃんが視線を私の後ろの方にむける。

 私も後ろに振りむくと、隣の部屋から雪ちゃん、さらに奥から雫さんが出て来ていた。


「とりあえず座りますか?」


 私はチェアのある方を指差す。

 雫さんが頷いて歩き出し、雪ちゃんがタブレットの画面をむけてくる。


「雪ちゃん、画面見えないです……」


 私がそう言うと雪ちゃんが「が~ん」と言ってそうな面白い顔をした。

 雪ちゃんは表情が豊かでかわいいなぁ。


 みんながチェアに座っていく。

 それに対し、私はその近くで床に寝っ転がった。


「ちょっと苺ちゃん……」


 雫さんが困惑したように私のことを見下ろしている。


「えへへ、椅子に座るのもけっこう疲れちゃうんですよね」


 それにこの方が月がよく見える。


「あ~、なんだか力が満ちてくる気がします」

「そ、そう? ならいいんだけど……」


 微妙に顔がひきつっている雫さん。

 いや、本当なんですよ、なんか召喚できそうなんですよ。


 あ、そういえば召喚娘ちゃんは元気かな……。

 まさか1人で頑張ってたりしないよね……。


 ちょっと気持ち悪い子だったけど、かわいかったし。

 それにあれだけ好かれれば悪い気はしないよね。

 もう一度会いたいな。


 また月をボーッと眺める。

 その時、私のお腹がなった。


「……」


 恥ずかしい……。


「そういえば晩ごはん食べに行くつもりだったのよね」


 雫さんが思い出したように言う。

 そして私に微笑みかけながら訪ねてくる。


「苺ちゃん、何食べたい?」

「……ハンバーグの気分」

「あら~いいわね、それじゃあ明日のお昼はハンバーグね」 


 え、なぜ明日のお昼……?

 私が疑問に思っていると、雪ちゃんが近づいてきてタブレットを見せてくる。


『晩ごはんは私の家の旅館で用意してもらってるの』

「マジですか……」


 じゃあなんで食べたいもの聞いたんだろう……。


「カニですよ! カニ~!」


 桃ちゃんが両手をチョキにして少し興奮気味に話してくれる。


「マジですか!」


 私も「カニ」の2文字に強く反応する。

 カニはいい、大好きだよ!


 ひさしぶりだなぁ~。

 ちょっと元気出てきたかも~!


「そっか~、だから雪ちゃんのパンツはカニさんなんですね!」

「!?」


 雪ちゃんが目を見開いて立ち上がり後ろに下がる。

 実はさっきしゃがんだときからずっと見えてるんですよね。


 ワンピースでその姿勢はダメだよ~。

 いつも私から見えちゃってるんだから。

 ちなみに一番多いのは雪だるまさんなんだよ。


「苺さん、実は元気じゃないですか……」


 真っ赤になった雪ちゃんを抱きしめながら、桃ちゃんがジト目をむけてくる。


「あ、月が綺麗……」


 誤魔化すように死んだ目をすると、みんなが私を置いて部屋に戻っていこうとする。


「ああ、待ってください~」


 やっぱりこのメンバーでいると元気が出てくる。

 ずっとずっとこんな日々が続いて欲しいな。

 それが私の幸せなんだから。


 ちなみに晩ごはんのカニは言うまでもなくおいしかったです。

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