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私は私のことを好きでいてくれる人が好きなんです

 詠ちゃんの話を聞いて、なんだか私のまわりの状況が信じられなくなってきた。

 他人に助けを求めているのが間違いなのかもしれないが、それでも私はあの時助けてほしかったんだ。


 私たちの置かれている状況を知っていても、何もできないことだってあるだろう。

 もしかしたら何か頑張ってくれていたのかもしれない。

 それで何も変えられなかった可能性もある。


 私はせめてそうあって欲しいと願う。

 でも証明できるものは何もない。


 わかっているのは、雪ちゃんの家や詠ちゃんが経営者サイドにいる会社ってことで。

 そして雪ちゃんは芳乃ちゃんを通じて私たちの状態を知っていながら、芳乃ちゃんごと潰してしまっていること。


 別に雪ちゃんが何かしてきたわけではない。

 でも私たちのために何かできたんじゃないだろうか。


 うう……、なんだか吐き気がしてきた。


 こんなのひさしぶりだなぁ。

 やめよう、こんな考えはダメだ。

 助けてくれなかったことを悪く思うなんてよくない。


 悪いのは逃げ出せなかった自分だ。

 雪ちゃんは休みの日に私たちのことを気にかけてくれていたじゃないか。


 あの時だって私たちのために旅行に連れて行ってくれたし、いつも味方でいてくれた。

 きっと詳しい情報までは知らなかったんだろう。


 それに雪ちゃん本人ではなく家が関係しているだけだ、どこまで雪ちゃんの影響力があるのかわからない。

 ほぼ無関係という可能性の方が高いんじゃないか。


 雪ちゃん自身だって夢魔との戦いがある。

 むしろ私たちが雪ちゃんを助けてあげないといけない。

 私が今動いているのだって、それが理由のひとつだ。


 危ない、変な思考に飲み込まれるところだった。

 なんだったんだろう、自分とは違う変な感情が湧き上がってきた感じだ。


 私がふさぎ込んでいた時もこんな感じだったな。

 どこからか不安な気持ちが湧いてきて、心の中でそれが渦巻いていく。

 鬱っていうのはこんなものだ。


 負の気持ちを断ち切れずに連鎖していく。

 一度経験すると、その時に近い状況になったりするだけで記憶が呼び戻されたりする。

 状況どころか、雰囲気とか空気や気温が近いだけでふと思い出したりすることもあるからなぁ。


 でもでも今の私はそんな状態じゃない。

 ちゃんと幸せな日々を送れる環境なんだから、わざわざ落ち込む必要なんてないんだ。


「ふぅう~」

「どうしたの?」


「いえ、あやうく闇に落ちるところでした」

「ど、どうしたの? 私が株式会社クイーン・オブ・ナイトメアのCEOだってことがそんなにショックだったの?」

「CEO!?」


 詠ちゃん、なんでそんな立場なの?

 というか全然そんなこと聞いてないのに……。


「どう、驚いた?」

「そうですね、普通に驚きました」


 その左手を顔に当てて、右腕を自分の体に巻き付けるポーズに私は驚いたよ。

 まさか実際に目の前で拝める日がくるとは。


 変な思考に飲み込まれていた自分がバカらしくなってきた。

 夢魔の女王だって頑張って人間の世界で会社を経営してるんだから私も頑張るか~。


「あ、そうだ、雪ちゃんが夢魔の女王を倒さないといけないって言ってたんですけど、お知り合いにいたりしませんか」

「なかなかひどいことを聞くのね、同族を売れというのかしら」

「別にそんなつもりじゃないんですけど」


 一応そこは気にするのか。

 平気で夢魔をいたぶってそうなんだけど。


「というか雪ってそんな使命を背負ってたの? 初めて聞いたけど」

「へ?」


 現実世界では雪ちゃんの中にいたはずの詠ちゃんすら知らないのか?

 あんなあっさりと話に出てきたことなのに。

 もしかしてすでに結構世界が変わっているのか?


 まさかその夢魔の女王って詠ちゃんのことだったりしないよね……。

 少し嫌な予感がするなぁ、最近いろんなことがつながってきてるからなぁ。


 でもあの会社の関係者である雪ちゃんなら、すでにCEOが詠ちゃんだってことく

らい知ってるだろう。

 そんな情報も手に入らないくらい、特に雪ちゃんは関係が深くないのか?


 家がどんな会社の経営してったって、あんまりこどもは知らないものなのかな?

 それとも詠ちゃんの正体に気づいていないだけとか?


 う~ん、ここでいくら悩んでも結局他人のことなんてわかるはずもないし、今度思い切って聞いてみるか。

 私が夢魔のこと知ってるってわかったわけだし、ある程度話しやすいはず。


 そういうわけで次にやるべきことを決めた時、この神社に誰かが入ってくる足音が聞こえた。

 ここって道が開いてるときは一般人でも入ってこれるのかな?


 というか私も一般人か。

 まあ別に詠ちゃんも見た目は人間そのものだし、見つかっても問題ないだろう。

 特に変な気配も嫌な予感もしないし。


 そして階段を上がってきたその人物は、私の後ろから声を発した。


「マム~、いるの~?」


 マム?

 お母さんってこと?

 いったい誰のことだ?


「あら芳乃じゃない、どうしたの」

「あ、いたいた」


 後ろから現れたその人物は、私のよく知る芳乃ちゃんだった。

 芳乃ちゃんは詠ちゃんと親しげに話をしている。


 え?

 ってことはマムって詠ちゃんのこと?


「ええ!? 詠ちゃんって子持ちだったの!?」

「苺さん!?」


 芳乃ちゃんは振り返り、私の姿を確認するとかなり驚いた様子で目を見開いた。

 思いっきり横を通っておいて、今頃私の存在に気づいたのだろうか。


「芳乃ちゃん、お母さんのことマムって呼んでるんですね」

「ちゃ、ちゃうねん!」


 ち~ん。

 そっか、詠ちゃんはお母さん大好き少女だったか。

 あれ? でもこのふたりが親子だとしたら、芳乃ちゃんも夢魔ってことに?


「芳乃ちゃんって人間じゃなかったの?」

「あうっ、まあ……そういうことだね」


 おお……、なんだか私の知り合いの多くが人間じゃなくなっていくぞ……。

 夢魔のほかにもドラゴンや女神様まで幅広い。

 現実世界にいながら非現実な日々に侵略されているな。


「ふふ、娘と仲良くしてくれてありがとうね」

「あ、いえ、そんな」


 詠ちゃんは私を見ながらやわらかく微笑んだ。

 芳乃ちゃんより背は低いけど、それはまさしく母親の顔だった。

 こういうのは人だとかそういうことは関係ないものなのか。


 人と共に生きているから、人の感覚に近いというのはあるんだろうけど。

 でも夢魔だからって、それだけで敵対するような理由は私にはないかな。

 だってふたりともかわいいしやさしいし。


「でもまさか詠ちゃんが人妻だったなんて、相手はどんなロリコン野郎だ、うらやましい!」

「あら、私は結婚なんてしてないわよ」

「え? じゃあ芳乃ちゃんは?」


 ままま、まさか子どもだけ作って結婚してないとかそういうこと?

 もしかして地雷ふんじゃったかな。


「夢魔ってそういうものなのよ」

「どういうものなんですか、年齢が来たら鳥が運んでくるんですか?」


 そんなはずはないけど、適当なことを言ってみる。


「いえ、ペンギンが運んできてくれるのよ」

「嘘でしょう!?」

「嘘よ」


 嘘なんかい!


「がくっ、本当のところは?」

「高校生のあなたに話すといろいろ問題が起きるわね」


「なんですって、そんなアダルティな秘密が? 大丈夫ですよ、私の中身はもう大人ですから」

「だめよ、私が捕まってしまうわ」


 真面目だ!

 というか話すだけで捕まるって、いったいどんな話だ。


「そうだ、苺さえよければ結婚してくれてもいいのよ、あの時はいろいろお世話になったし」

「もったいないですけど遠慮しておきます、芳乃ちゃんにお母さんと呼ばれるのはいろいろと問題が……」


 さすがにクラスメイトに義理の娘がいるとか嫌だ。


「ふたりが結婚したとしても、苺さんのことをお母さんなんて呼ばないから!」

「あ、マムでしたね」

「イラッ」


 今イラッて声に出したよこの子。


「冗談ですよ、でもさすがの私も母娘同時攻略というのはちょっとハードル高いですね~」

「私も攻略対象になってる!?」


 もちろん、かわいくてやさしい女の子はみんな好きなのです!


「苺さんは性別とか種族とか全然気にしないんだね」

「私は私のことを好きでいてくれる人が好きなんです」


 そう言うと芳乃ちゃんは驚いたようにぽかんとしていた。

 そんなに変なことを言ったかな?


「苺さんって正直だね、でも人ってそういうものかもしれないね」

「芳乃ちゃんたちは違うんですか?」


 夢魔の皆さんは好きって言われてもうれしくないんだろうか。

 同じように見えて、やっぱりいろいろ違ったりするのかな。


「そんなことないよ、私も好きって言われたらうれしいし」

「芳乃ちゃん大好きです!」

「ま、まったく心に響かないね!」


 めちゃくちゃきょどってますけどね。

 芳乃ちゃんは余裕があるっぽくて、実は照屋さんなのか。

 かわいいなぁ。


「……まったく苺さんは、気になってる人に好きって言われたらびっくりしちゃうよ……」


 芳乃ちゃんは独り言のようにつぶやいたが、私にはばっちり聞こえてしまった。

 でも芳乃ちゃんのために私は、ラノベ主人公スキルを発動し、こう言うことにしよう。


「え? なんですって?」

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