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別に私、結婚するつもりありませんけど

 私と雪ちゃんはさっきの神社をあとにし、近くに会った公園に移動した。

 ここで連絡をつけた芳乃ちゃんを待つことにする。

 むかえに来るのは車のはずだから、芳乃ちゃんだけが来るわけじゃないんだろうけど。


 待ってる間、私たちはなぜかブランコをこいでいた。

 誰かに見られたくはないが結構楽しい、ぜひみんなにもお勧めしたい。

 前へ後ろへ揺られながら、さきほどの夢魔について話を始める。


「それで雪ちゃんはなんで夢魔と戦ってたりするの?」

「私の家、魔白家は昔からそういう家なんですよ、夢魔と戦って影で平和を守ってるんです」

「そうなんだ……」


 自分で望んでなったわけではなく、ただのお役目みたいなものか。


「苺さんはどうなんですか? 苺さんの家もそういうお役目があるんですか?」

「私ですか? 私は別に夢魔と戦うことは使命でもなんでもありませんよ」

「そうなんですか?」


 説明するのはすごく難しいことだけど、とりあえず簡単にまとめてみるか。


「ちょっと異世界みたいなところに連れていかれて、そこで夢魔に襲われて、護身用にこの魔法銃をもらったんですよ」

「え~……」


 うわっ、すごい疑いの視線がむけられている。

 そりゃ異世界とか何言ってんのって感じだけど事実なんだから。


「まあでも本当のことなんでしょうね、じゃないと説明できないことがありますからね」

「なので私としては戦いとかしたくないわけですよ、ごく普通の幸せな生活が送りたいんです」

「それは、私だってそうですけど……」


 やっぱり雪ちゃんも望んでる現状ではないんだよね。

 でも詠ちゃんが言ってた、人が夢を見る限り夢魔との戦いは終わらないって。

 それっていつまでも終わりのない戦いを続けるってことで、かなり厳しい話だよね。


 社畜やってた頃ですら、プロジェクトごとに終わりがあったからなぁ。

 もしそれすらなく永遠に働くことになってたら、もっと早く潰れていたことだろう。


「雪ちゃんはいつまで戦い続けるつもりなの?」

「一応、夢魔の女王を倒すまでってことになってるよ、それか自分のこどもにお役目を継いでもらって引退するまでかな」


「雪ちゃんのこども!?」

「あ、そっちに反応するんだ……」


 そ、そんなのダメだよ、雪ちゃんがどこかのクソ野郎と結婚なんて、私は耐えられない!


「見知らぬやつと結婚させるくらいなら、私が雪ちゃんと結婚する!」

「ええっ!?」


 雪ちゃんをどうにかしていいのは私たちだけだよ。

 芳乃ちゃんにも協力してもらって万全の体制で守って見せよう。


「あの……、別に私、結婚するつもりありませんけど」

「なんですと!? 私では駄目なのか~!」

「駄目じゃないですけど、私は夢魔の女王をどうにかすることを考えてるから」


 マジか、意外と大胆なこと考えるんだなぁ。

 もしかしてめちゃくちゃ強くて自信があるのだろうか。


「私にできることがあれば協力するから、いつでも頼ってね」

「わ~、ありがとうございます~」


 ふわっと笑う雪ちゃんの笑顔を見てるとやっぱり元気が出てくるなぁ。

 私との結婚も駄目じゃないって言ってるし、これは脈ありか。

 夢の世界のユキちゃんとはかなり仲良くなったけど、現実世界でも順調かもしれない。


 こどもを作る方法があれば何の問題もないんじゃないか。

 いや、こどもというのは、仲良くふたりで暮らしていれば鳥さんが運んでくるって聞いたことがあるぞ。

 もしかしたらワンチャンあるかもしれん!


「そういえば、夢魔の女王ってどこにいるとかわかるの?」


 倒すつもりでいるなら、居場所の見当くらいはついてるんだろうと思い聞くと、雪ちゃんは少し困ったように笑う。


「えへへ、どこかに夢魔の集まりみたいなのがあるらしいですけどね、それがどこなのか……」

「え~……」


 それじゃあ夢魔の女王を倒すどころか会うことすらできないかもしれないじゃない。


「でも、ずっと戦い続けてれば私の事、無視なんかできないと思うんだ」

「まあ、確かに」


 でもそう考えると危険なことをしてるよね。

 今まで戦った夢魔だって倒すことはできてるけど、もし不意打ちなんかされたらきっと私たちが負ける。


 戦う武器を持っているだけで、私たち人間は弱くてもろい。

 物理攻撃にも精神攻撃にも、私たちは弱い生き物なのだ。

 こういうことはただの人間がするものではないと思う。


 もし会えるなら、詠ちゃんやユーノさんのような特別な人たちに頼りたいものだ。

 そうだ、詠ちゃんならきっと夢魔の女王のこと知ってるんじゃないか。


 ああでも、詠ちゃんが今どうなっているのかもわからない。

 きっと私たちと同じように戻ってきてると信じたいんだけどね。

 今は手掛かりなしかなぁ。


 どうにかならないかといろいろ考えてみてもいい案は浮かばない。

 無言のままひたすらブランコをこいでいると、いつもの黒い車が公園の前に停まった。


「迎えが来たみたいだね」


 私はそう言って、ブランコから勢いをつけて飛び降りた。

 子どもの頃よくやったよね。

 危ないからまねしちゃダメなやつだよ!


 そして私は盛大に滑ってこけた。


「大丈夫ですか、苺さん!」

「あはは……、一応」

「もう、小さなこどもじゃないんですから」

「うぐっ」


 高校生にもなって、しかも中身は大人になったこともあるのに、子ども扱いされてしまった。

 恥ずかしい、このまま雪お姉ちゃんの胸に飛び込んだら、もしかして許してもらえるだろうか。


「お嬢様、お迎えにあがりました」

「ありがとうございます、芳乃さん」


 芳乃ちゃんは丁寧に雪ちゃんを車の中につれていくと、ちらっとこちらを見る。


「苺さん、盛大にこけてたね、砂払ってあげる」

「きゃ~、変態!」


 芳乃ちゃんはわざとらしく私のお尻をさわさわとしてから砂を払う。

 熟練のフィンガーテクニックだったよ。


「動かないで苺さん、触られるのが嫌ならスカートとパンツ脱いでもらうよ」

「何でですか~!?」


「だって車が汚れちゃうし」

「砂くらい自分で払います!」


 まったく、怪しいとは思ってたけど、芳乃ちゃんは相当な変態だな。

 夢の世界で記憶持ちだった時のあれもかなりのものだったけど、この頃から十分に才能が開花している。

 ああ、さっき触られたお尻の感触が忘れられない……。


「ってちが~う!」

「どうしたの苺さん、乗らないの?」

「乗ります」


 妙な感情を振り払い、深呼吸をして車に乗り込む。

 芳乃ちゃん、恐ろしい子だ。


「苺さん、待ってる間に話もできたし、今日は家まで送るね」

「え、あ、うん、ありがと」


 が~ん、雪ちゃんのお家デートがお預けになってしまった。

 くぅ~、今度は絶対に雪ちゃんの部屋でイチャイチャして見せる。


「……なんかふたりともいい感じだね」


 芳乃ちゃんが小さい声でつぶやいた言葉が聞こえた。

 話し方を変えたことだろうか。

 距離が縮まって見えたのなら、変えた甲斐があったというものだ。


 まだ初日だから照れ臭いけど、これからどんどん慣れていけば、それだけでも私たちの関係は前と別のものになる。

 もしかしたらこんなことが、雪ちゃんの幸せな未来へつながるかもしれない。


 恐らく、この年代で一番変化させられるのは雪ちゃんだ。

 声を失わずに済めば、私たちの関係も未来も変わるかもしれない。

 今は特に雪ちゃんのことを気にかけておこう。

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