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人のいない街ってこんなにも不気味なんだ……

 眠ってしまった黒ユキちゃんをおんぶして、私とマスクさんは街を目指すことにした。

 もう何が起きてるのかよくわからないが、とにかく落ち着ける場所で話を聞きたいと思う。


 黒ユキちゃんは私をここに連れてくるつもりで襲撃してきたのかな。

 そしてマスクさんはこの場所のことをどこまで知っているのだろう。

 なぜわざわざ女神マスクと名乗る必要があるのか。


 私としては早く安全な場所に戻りたいんだけど。

 女神マスク……、いやもう面倒くさいし心の中ではユーノさんと呼ぼう。

 絶対本人だしね。


 ユーノさんはさっきからマップをも見ずに街にむかって歩いている。

 ということは、この場所を知ってるってことなんだろう。

 それはかつてここが地上にあったということと関係があるのかな。

 

 しばらくユーノさんについて歩いていく。

 するとようやく街のようなものが見えてきた。

 歩いてきた道はなかなか高いところにあったようで、ここから街を見下ろすことができる。


 ここはどのようにして海底に沈んだのだろう。

 街全体にはそれほどの損傷があるようには見えないけど。

 でも所々に破壊されたような場所があり、とても不自然に感じる。


 さっきの盾みたいな化け物がやったのかな。

 それとも地上にあった頃にここで戦闘でもあったのか。


 現代の日本で地方の街がそのまま廃墟になったみたいでなんだか怖い。

 人のいない街ってこんなにも不気味なんだ……。


 私たちは坂道を下って街へ降りていく。

 まるで門のように建っている大きな鳥居をくぐって街の中へ入る。


 実際に歩いてみると、ゴーストタウン感がすごい。

 廃墟マニアなら大興奮間違いなしの光景に、私は寂しい気持ちでいっぱいになった。

 夢の楽園とは程遠い場所だ。


 しばらくは大通りを歩いていたが、ユーノさんがある角で曲がり、少し細い道へそれていく。


 その先に1軒、大きめの建物があった。

 多分住居だと思うけど、小さめの旅館みたいにも見える。

 その建物の中にユーノさんは入っていき、私も後に続いた。


 外とは違い、建物の中はきれいに清掃されているようだ。

 もしかしてユーノさんは定期的にここを訪れているのだろうか。


「そこのベッドに彼女を寝かせてあげてください」


 ユーノさんは、なぜかリビングに置いてあるベッドを指さす。

 私はそこに黒ユキちゃんをそっと寝かせた。


「あの、ここは一体……」

「ここは昔地上にあった頃、私たちが拠点として使っていた家なんです」

「地上にあった頃……」


 やっぱりここは海底に沈んだ街ってことか。

 黒ユキちゃんの言ってた通りだと島ごと沈んだんだよね。

 もしかしたらあの大きな鳥居も海の近くに建っていたのかもしれない。


 そうだとしたら絵になる景色だったんだろうな。

 こんな暗いところだと不気味でしかないけど……。

 夜にひとりで神社を歩いているような怖さを感じるよ。


「ユーノさんはここがどこなのか知ってるんですね?」

「はい」


 私の問いにユーノさんは頷く。


「この街は、夢の世界にある、私にとっての現実世界なんです」

「現実世界……なんですか?」

「私にとってはですけどね」


 ここは夢の世界ではあるけど、現実世界なの?

 楽園とはまた違う世界なんだろうか。


「私が楽園を作った時、初めは私の大好きだった街を再現したんです」


 まあやりたくなるよね、ゲームとかでも好きな場所を再現したりとか。


「でもうまくいかなくて、結局海の底に沈んでいってしまいました」


 世界を作るとか大きな話すぎて感覚がわからないけど、夢の世界も簡単にできたわけじゃないのか。

 この話からすると、夢の世界ってやっぱり私の夢ってわけじゃなかったのかも。


「それでしばらく落ち込んでたんですけど、ある時親友の言葉を思い出したんですね」

「親友さんですか」


「はい、やっぱり夢なんだから失った過去を取り戻そうとするより、幸せな未来を見ていかないとって」

「それって結構難しいですけどね」


 人は幸せを得るより、苦痛から逃げる方を優先するものだから。

 失ったものを取り戻せるチャンスがあるのなら、試してみようと思うのは自然なことだと思う。


「そこで私はみんなが夢見るような楽しい世界を作ることにしたんです」

「あの楽園がそういうわけなんですね」

「そうです、びっくりするくらいにうまくいきました」


 魔法とかそういう力は、人の憧れとかからできてるのかもしれないな。

 だから夢を叶えたりすることができるんだろう。


「ここはその時に沈んでしまった世界なんですよ、忘れちゃいけないと思って今も残してるんです」

「大切な気持ちだと思いますよ、ユーノさんも苦労してたんですね」

「うふふ、それは長く生きてますからね」


 ある程度話したからか、ユーノさんがようやく笑顔を見せてくれた。

 やっぱり笑顔が一番かわいいよね。


「ところで女神マスクはもういいんですか、ユーノさん」

「あっ」

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