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まるでケダモノのようでした……

 私はユキちゃんとユーノさんにむかって叫び、ミュウちゃんを抱えたまま出口の方に走った。

 ちゃんとふたりがついてきているのを確認しつつ、一気に外に出る。

 そこで太陽の光を浴びると、みんな正気に戻ったようで首を傾げたりしていた。


 やはりあの場所には何か魔法みたいなものが発動していたみたいだ。

 いったい何だったんだ?


 洞窟の方を改めて見回すと、入るときには死角となっていた場所にデジタルサイネージを発見する。


 そこに表示された内容を見て驚くとともに、ある程度の状況を理解した。

 画面には『ラブ温泉』と書かれていて、効能などが詳しく載っている。

 つまりはあれなことをする温泉というわけですな。


 なんでこんなところにあるんだよ!


 しかもユキちゃんだけならともかく、女神であるユーノさんやミュウちゃんにまで効くなんて。

 なんという魔力なんだ。


「あれ? 何か私、すごく恥ずかしいことをしていた気がします」

「私もです~」


 ユーノさんとユキちゃんがよくわからない恥ずかしさに悶えている。

 どうやらほぼ記憶がなくなっているらしい。


「わ~い、抱っこだ~」


 私の腕の中でミュウちゃんが嬉しそうにはしゃいでいる。

 あのキスのことも忘れちゃってるんだよね。

 私だけの思い出にしておくよ。


 抱っこしていたミュウちゃんを地面に降ろすと、そこにユーノさんがそわそわしながら近づいてきた。


「イチゴさん、私何かやってしまいましたか?」

「あれを見てください」


 ユーノさんの前で例のデジタルサイネージの方を指さす。

 それを見てユーノさんの顔が真っ赤に染まる。


「ままま、まさか、私とイチゴさんはついに一線を!?」

「はい、覚えていないかもしれませんが、まるでケダモノのようでした……」

「ああ……、申し訳ございません、私どうすれば……」


 私の自然な嘘にユーノさんが引っかかる。


「まあ嘘ですけど」


 あまりに顔が青ざめているのですぐさまネタバレした。


「む~!」


 ユーノさんが頬を膨らませながら、私の両頬を引っ張った。


「いひゃ~い……」

「イチゴさんが意地悪するからですよ」

「ごめんなひゃ~い」


 私が謝ると、すぐにほっぺたは解放された。

 膨れるユーノさん、かわいいな……。


「あ、そうだユーノさん、スタンプくださ~い!」


 私はスマホを用意しながら、膨らんだままのユーノさんにおねだりする。


「えっと、そうですね、何をしてもらいましょうかね~」

「私、何かしないといけないんですか?」

「もちろん、ただではあげませんよ」


 それさっき聞いたよ……。

 記憶がないからやり直しか。

 まあ何か失ったわけじゃないからいいけど。


「決めました、私と一緒に温泉に入りましょう」


 ユーノさんが思いついたミッションを口にする。

 それもさっき聞いたわ~。

 結局本人の思考回路なんだよね。


「わかりました、入りましょう」


 ミッションとは言っても、私にとってはいいことでしかない。

 こんな美しくかわいい女神様と一緒に温泉だなんて、最高かよ。


「では、行きましょうか」


 そう言って、ユーノさんは再び洞窟の中に入ろうとする。


「待って待って!」

「どうかしましたか?」


 慌てる私を不思議そうに見るユーノさん。

 天然で気付かないのか……。


「ここに入ったらまたおかしくなっちゃいますよ!」

「あ、そうでした」


 こんな無防備で大丈夫なのかこの人。

 その気になれば簡単にゴールインできそうだ。

 きっとそんなことはないんだろうけど。


「ユーノさん、温泉ならどこでもいいんですか?」


 しばらく私の後ろで話を聞いていたユキちゃんが話に入ってくる。


「そうですね、みんなが温かいところでゆっくりできればいいです」

「ということはこたつでもいいんですか?」

「ただし全裸に限る、という条件があるのでやっぱり温泉ですね」


 全裸限定なのか……。

 なんて条件を出してくるんだこの人。


「まあ、こたつでも全裸になるなら構いませんけどね」

「どんな変態集団ですか!?」


 4人の女の子が裸でこたつにいるとか……。

 なんかいいかもしれない。


 いやでも私にはハードルが高すぎる。

 それに今はこたつを使うような季節ではない。


「とりあえずこの街で温泉探しませんか?」


 全裸こたつの件は未来の私に託して、今は温泉で頑張ろう。

 いや~、ピュアな私にはいくら温泉でも全裸は恥ずかしいんですけどね。

 でもその分得られるものも大きいので温泉探しを提案する。


「そうですね、雰囲気からして温泉ありそうな街ですし」


 ユーノさんは少し楽しそうな表情をしながら了承してくれた。

 ではさっそく移動するとしますか。


 もともとスタンプを手に入れたら街を回るつもりだったし、順番が逆になっただけだ。

 それに温泉を探すと言ってもマップアプリを使えば結果はすぐわかる。


 私はスマホを取り出し、さっそくこの街の温泉を検索。

 すると思ったよりは少なかったけど、いくつかの温泉が見つかった。

 特別温泉街というわけではなかったようだね。


「みんなはどの温泉がいいですか?」


 他の3人に画面を見せながら、温泉の詳細を表示していく。

 日帰り温泉施設のような場所から、自然の中に湧いてるところまでいろいろあった。


「やっぱり近くがいいですかね」


 適度に街中を歩いて進んだところに雰囲気のいい温泉施設がある。

 ここなら街の観光をしながら温泉にも行けてちょうどいいかも。


「私、ここ行ってみたいです」

「私もそこ気になってました」


 ユキちゃんが指さし、ユーノさんも興味を示した温泉。

 それは山の方にある自然の中の温泉だった。


 お湯につかりながら海も夕日も見れる絶景ポイントのようだ。

 確かにこれは行ってみたい。


 でもアプリに乗ってるくらいだからたくさん人がいるのだろうか。

 結構な山の中だから簡単にはたどり着けそうにないけど。


「行ってみますか?」

「行ってみた~い!」


 私がみんなに聞くと、ミュウちゃんが元気に返事をした。

 ルートを見る限り、ここにむかうまでに街を十分見て回れる。

 あとせっかくなら夕日が見れる時間までに温泉にたどり着きたいよね。


「行っちゃいましょうか~」

「ええ、いい思い出になりそうです」


 行き先も決まったし、時間も惜しいのでさっそく移動を開始しようか。

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