ちょっとクジラ旅で疲れてるので一休みしたいですね
しばらくして私の呼吸も安定し、ミュウちゃんを真ん中に挟む形で歩き始める。
石畳の道を3人で進みながらこの後の予定について話す。
「まずはスタンプですよね」
ユキちゃんはさっそく3つ目のスタンプを目指そうとしているようだ。
しかし、その前にやっておかないといけないことがある。
「先に宿を確保しておきたいですね、野宿になるのは嫌なので」
そもそも宿がなさそうな雰囲気がするけど……。
ユキちゃんのお店は本人しか通りぬけられないらしいから、ちゃんとこの街で寝る場所を確保しておかないとね。
しかしそこはさすがのユキちゃんで、しっかりと準備されているようだ。
「宿は私の別荘があるのでそこを使いましょう」
「別荘!?」
やっぱりお金持ちなのはこっちでも一緒なんだね。
そういえばこの街、この世界に来る前に旅行してた場所に似てるかも。
何か関係があるのかな?
「どうします? いったん別荘にむかいますか?」
「あ、そうですね、ちょっとクジラ旅で疲れてるので一休みしたいですね」
「あはは、じゃあ案内しますね」
「お願いします~」
どんな別荘なんだろうか、楽しみだね。
もしかしてあの別荘がそのまま出てきたりして。
……まさかね。
私たちはユキちゃんの案内について歩いていく。
古い建物ではあるけど、きれいな街並み。
まるで昔の日本にタイムスリップしたみたいだ。
ちょっとした観光を楽しみながら道を進んでいると、だんだん見覚えのある景色が現れる。
建物が少なくなり、代わりに海や砂浜が現れた。
さっきまでいた港の方とは違い、こっちは泳いだりすることができる。
現実世界で雪ちゃんの別荘があった場所の周辺だ。
一瞬夢から覚めたのかと思ったけど、私の隣にはミュウちゃんの存在がある。
それにユキちゃんの声も失われてはいない。
まだここは私の夢の中だ。
愛の街か……。
私はここで何をすべきなんだろう。
未だにヒントらしきものもない。
やはり夢と現実を一緒に考えてはだめなのかな。
そうこうしているうちに別荘に着いた。
「おお……」
現実世界とまったく一緒だ。
もしかして近くにあの洞窟の温泉もあるのかな。
ユキちゃんが鍵を取り出し別荘の入り口を開ける。
「どうぞ~」
「お邪魔します」
「お邪魔しま~す」
中に入ると、まあ当たり前かもしれないけどあの別荘と同じだった。
「わ~、きれいだね~」
ミュウちゃんがご機嫌な様子で勝手に2階への階段を上っていく。
「元気だね~」
それを見てユキちゃんがクスクス笑っていた。
ユキちゃんと私もミュウちゃんを追いかけ2階へ行き、さらに部屋を通りぬけてバルコニーへ。
4人でお話ししたあの場所だ。
本当に戻ってきたみたいに思えてしまう。
ここまでが非日常すぎたから尚更そう感じるのかも知れない。
ただ、なぜか視界の片隅にクッシーがいる。
何してんだあいつ、わざわざここまで来てくれたのかな?
あいかわらずの超非現実的なデフォルメクジラが、やっぱりここは夢なんだと思わせてくれる。
今は感謝するよ、クッシー。
そうだ、今のうちに3つ目のスタンプの位置を確認しておこうかな。
案外近くだったりするかもだし。
スマホを取り出し、アプリを起動する。
「……あれ? この場所ってもしかして」
マップに表示された場所は、あの洞窟の中の温泉だった。
画像も出てるし間違いない。
まさかこっちにも存在するなんて。
しかも私の夢世界への入り口となった場所。
ユーノさんと初めて出会った場所だ。
そんな所に3つ目のスタンプが設定されているなんて。
出来過ぎてる気がするなぁ。
でももうすぐで全部集まるんだね。
そしたら楽園へ連れて行ってもらえるんだ。
この世界よりもさらに楽園か。
いったいどんなところなんだろう。
もしそこへ行ってしまったら、もう現実には戻れないんだよね。
私、本当はどうしたいんだ。
いや、今はいいか、後で考えればいい。
まずはスタンプを手に入れよう。
それから雪ちゃんの声について、こっちのユキちゃんから手掛かりを探ってみよう。
ただ記憶を共有してるわけじゃないから、あまり期待はできないかな。
でも自由の神様の御加護を受けているはずだから、もしかするかもしれない。
ちょっと頑張ってみようか。




