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クッシーは順調に航海中です

「はぁ~……、とりあえず愛の街まで連れて行ってほしいのですが」

『オッケ~だよ~、さぁ乗って乗って』


 クッシーはそう言っていきなり口を大きく開いた。


「え、何?」

『入って入って』

「嫌なんですけど……」


 なんで自分から食われに行かねばならないのか。

 今は割と幸せなので自殺するつもりはありませんよ。

 私がその場で立ったままでいると、ミュウちゃんが先にクッシーの口の中に入っていってしまった。


「お姉ちゃん、行かないの?」

「え? ミュウちゃんはどこ行くの? そんなに生きるのがつらいの?」


「へ?」

「ほえ?」


 なんだ?

 私は何かおかしいことを言ってるのだろうか。


 なぜ私の夢なのに、こんなに私の理解を超える出来事が起きるんだ?

 まあ夢ってそういうものかもしれないけどさ。

 とにかく目の前で少女が死のうとしてるのを黙って見てるわけにはいかない。


「ミュウちゃ~ん、出ておいで~」

「早くいくよ、お姉ちゃん」


 ミュウちゃんは私の腕をつかむと、これがドラゴンの力なのかというほど恐ろしい勢いで投げ飛ばした。


「ぎゃあああ、死んだあああああ!」


 恐怖で悲鳴をあげてるうちにクッシーの口の奥まで飛んで、なにか変なものに包まれたような気がする。

 そしていきなり下から吹き飛ばされて、気が付くとクッシーの上に座っていた。


 は~……、なるほど。

 こういうことか。

 少し遅れてミュウちゃんも飛んできた。


「わ~、高いね~、風が気持ちいいね~」

「そうだね~」


 元々この島には絶景しかないけどね。


『それじゃあ出発するよ~』


 クッシーが合図をし、ゆっくりと進み出した。

 あ、なんか嫌な予感がする。

 いままでこの世界の乗り物たちにはいろいろやられてきたからね。


 今度は私に何をするつもりだい?

 しばらく身構えていたが、クッシーの乗り心地は快適そのものだった。

 体感ではそこそこの速さで航海中のはずなのに、風はやわらかいし揺れも少ない。


 あっという間に視界が海だけになった。

 快適だけど、この陸地が見えない状況はかなりの恐怖があるな。


「もし落ちたら終わりだよね……」


 私はほふく前進で移動し、クッシーから下の海をのぞく。


「うは……」


 やはりものすごい勢いで進んでいる。


「お姉ちゃん、なんでそんな体勢なの?」


 ミュウちゃんは怖くないのか、普通に歩いて私の隣から下を見ている。

 落ちても飛べるもんね、ミュウちゃん。


「別に落ちたりしないよ? そのために口から入ったんだから」

「え、どういうこと?」

「こういうこと」


 ミュウちゃんの言葉に私が聞き返すと、そのままポイっと転がされてしまった。

 クッシーの上から滑り落ちるように回転する。

 しかしそれはすぐ何かに当たって停止した。


 なんだこれ、結界か?

 見えない壁が私を支えてくれている。


 そういうことか。

 この結界内部に入るために、あんなところが入り口になってるんだね。


 でも落ちたことに変わりはなく、這いつくばりながら元いた場所まで戻ってきた。

 誰にも見せたくない姿である。

 ミュウちゃん、ひどいや。


 というか、この子本当についてきちゃってよかったのだろうか。

 空の神社の神様なら、せめてあの街にはいないとまずいのでは?


 ああでも、ユーノさんも女神様なのにふらふらしてるしなぁ。

 それに自由の街の神様ならそれも含めていいところなのかもね。


 私は海の方に体をむけて座り直す。

 その私の腕の中にすっぽり収まるようにミュウちゃんが潜り込んでくる。

 かわいくてふわふわのモフモフだ。


 愛の街に着くまでしばらくこうしていようか。

 本当にそこにむかってるかもわからないが、クッシーは順調に航海中です。

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