私なんか食べてもおいしくないですよ!
ついたばかりのキャンプ場で野宿をすることになったわけだけど、思った以上にあっさり眠りについた。
よほど疲れていたのか、元社畜のスキルなのか。
好きで身につけたわけではないけど、意外と役に立ってるじゃない。
無駄な日々を過ごしたわけじゃないんだと、こんなところでも実感できるとは。
あれ、こんなにいろいろ考えられるということはまだ寝てないのか。
そうか、きっとこれは夢を見てるんだ。
よし起きるか、いい朝だといいな。
いや、まだ目を開けてないから真夜中かもしれないけど。
少しずつ覚醒する意識とともに、目をうっすらと開いていく。
……そして。
そこで見てしまった現実から逃げるように再び目を閉じた。
ドラゴンがいたよ。
嘘だと言ってほしい。
これは夢だ。
きっと夢だ。
夢なんだ!
そう願い、もう一度目を開く。
……ドラゴン、ドアップ。
あははははははははははは。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
死んだ。
これは死んだ。
そう確信したとき、ドラゴンの体がやわらかい光に包まれた。
「ほえ?」
突然のことに驚き固まってしまう。
そしてドスンっと私のお腹に衝撃がくる。
ドラゴンが小さな女の子になって落ちてきたのである。
見た目は10歳くらいだ。
ふわっとウェーブのかかった栗色の髪の毛が肩にかかっている。
ウェーブな髪の人多いな、私の好みが反映されているのか。
服装はポンチョのようなもので、それしか着てないような……。
確かめるためにめくってみようか。
いや、やめておこう。
それより、さっきのドラゴンがこんなかわいい女の子になるなんて、さすが楽園。
とりあえず声をかけてみようか。
そう思ったらむこうから話しかけてきた。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
よかった、言葉は通じるみたいだ。
「えっと、私になにかご用ですか?」
「おいしそうなにおいがしたの~」
ぎゃあああああああああああああああ!!
これアカンやつや~!
「私なんか食べてもおいしくないですよ!」
「え? うん、お姉さんを食べたりしないよ?」
「あれ?」
どうやら私の早とちりだったみたいだ。
でもおいしそうなにおいってなんだろう?
食べ物なんて持ってたかな?
あ、そういえばいちご大福が残ってたか……。
でもこれがにおいを放つかな?
「これ食べますか?」
そっと魔法のお弁当箱からいちご大福を取り出し、ドラゴン少女の前に差し出す。
「わ~、いちご大福だ~、いいの~?」
「ど、どうぞ」
ドラゴン少女は私からいちご大福を受け取り包みを開けた。
かわいらしく少しだけむにゅっとかぶりつく。
そして目をキラキラと輝かせる。
「おいし~!」
「よかった……」
少女は一気に大福を食べきって、指についた粉をなめとっていた。
「お姉さんありがと~」
「いえいえ、それより上から降りてもらっていいですか」
「あ、ごめんなさい」
少女はぴょんと私のお腹の上から飛び降りる。
そう、私はずっとこの子の下敷きになっていた。
驚くほど軽いし、やわらかかったし、いいんだけどね。
私は体を起こして立ち上がり、少女とともに近くの地べたに座った。
「お姉さんはなんでこんなところで寝てたの?」
少女は不思議そうに私を見上げながら聞いてきた。
この子かわいいな。
天然でやってるのか、いい角度で見上げてくる。
「私は街までたどりつけなかったので、仕方なくここで寝てたんです」
「ふ~ん、無防備だね~」
「うぐっ」
まあね、楽園だからって油断したよ。
まさかドラゴンに寝込みを襲われるとは思ってなかった。
「どこの街まで行くの?」
「自由の街なんですけど……、わかりますか?」
「あ、私の住んでる街だよ!」
「住んでるの!?」
マジか……。
ドラゴン住んでるとか、どんな街だ……。
自由ってそういうこと?
「いちご大福のお礼に連れて行ってあげるよ」
「え、いいんですか?」
「うん!」
少女の満面の笑みがまぶしい。
無邪気っていいな。




