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夢の世界へ行って気付いた、私にとっての本当の幸せ  作者: 朝乃 永遠
夢と希望の街
26/111

ささっ、チュッとしちゃって

「あれ、もしかしてヨシノちゃんですか?」

「アミさん、それにイチゴさんも」


 アミちゃんも気付いていたようで、私より先に声をかけていた。

 姿は高校生くらいに見えるけど、やっぱりヨシノちゃんだ。


 それにどうやら私たちのことがわかるみたい。

 ヨシノちゃんも記憶持ちか。


「いらっしゃいませ~って言ってたけど、ここでなにかやってるの?」

「女神様に頼まれて守護者みたいなことをやってるんだ」


 それってもしかして……。


「その女神様ってユーノさん?」

「うん、そう言ってたよ」


 やっぱりか。

 ということは、記憶持ちの人を把握しているのか、あの人は。


 でも提案してきたのはユーノさんだとしても、私は自分の意志で旅をしている。

 なにか変な目的があったとしても、ユーノさんの思うようにするのは難しいと思う。


 うん、悪い方に考えるのはよそう。

 そんなことだから私は幸せになれないんだ。


 それよりもこれでこの世界は3人の夢ということになる。

 私たちが繫がったことに理由はあるのだろうか。

 今考えても答えは出そうにないな。


「ヨシノちゃん、守護者って大変なんじゃないですか?」

「そうでもないよ、ほとんど人って来ないし」

「あら、そうなんですか?」


 みんなお参りとかしないのかな。


 でも、そうか。

 ヨシノちゃんがここの守護者をしていることと、私の旅は直接関係はないのか。

 逆に、だからこそ目的地にここが入ってるのかもしれない。


 それがユーノさんのやさしさなのかどうかはわからないけど。

 でもあの人は私の幸せを願ってくれているように思う。


「あ、そうそう、守護者はちゃんと報酬ももらえるんだよ」

「報酬?」


 ヨシノちゃんが思い出したかのように言った。

 お金かな?


 でも雪ちゃんのところで働いててお金に困るとは思えない。

 なら別の何かかな。


「この役目が終わったら、ここよりもさらに上の楽園で暮らせるんだって」

「え、そうなんですか?」


 私の旅の後と同じってことだよね。

 ということは、ヨシノちゃんはこっちの世界で生きていくことを決めているのか。

 元の世界のこととか、雪ちゃんのこととか、全然気にならないのかな……。


 私は未だに現実の桃ちゃんたちのことを割り切ることができてない。

 このままじゃどっちを選んでも後悔してしまいそうだ。

 間違いなく楽園はこっちなんだけど……。


 それよりヨシノちゃん、『この役目が終わったら』って、いったい何をもって終わりなの?


 ちゃんと契約とかした?

 ブラックに勤めてたから、そういうところは敏感になってしまう。

 もしかして一生終わりがこないんじゃない?


 そう思ってたら、ヨシノちゃんの次の言葉で心配はなくなった。


「ということなので、イチゴさんたちはさっさとこの旅を終わらせてね」

「え? 私たちの旅の終わりが条件なの?」

「はい」


 すごい条件いいね。

 失うものはないし、労力のわりに報酬が大きい。


 さすが楽園、ホワイト。

 いやプラチナ級だよ。


 楽園の中のさらなる楽園か。

 いったいどんなところなんだろうね。


「あ、そうだ、スタンプってどこで手に入るんですか?」


 お参りしたら貰えると聞いてたけど、アプリはまだ空欄になっている。


「ああ、それなら私にキスしてくれたら押してあげるよ」

「へ?」

「はぁ!?」


 ヨシノちゃんの言葉に少し驚いていると、後ろからアミちゃんの大きな声が聞こえた。

 私の腕に抱きついて、まるで気性の荒い小型犬のように「ガルルル」と威嚇している。


 それを見てヨシノちゃんは楽しそうに笑っていた。


「大丈夫だよアミさん、ほっぺたにチュッとしてもらうだけだから」

「む~」


 納得はしてないようだけど、一応私の腕は解放された。


「ささっ、チュッとしちゃって」

「そう言われるとやりづらいですよ……」


 私はヨシノちゃんの隣まで移動し、そっと顔を近づけた。

 そしてその柔らかなほっぺたに私の唇が軽く触れる。


「わ~い、ありがと~」

「これでスタンプが押されるんですか?」


 アプリを確認しても、まだスタンプは手に入っていない。


「あ、今あげるね」


 ヨシノちゃんはそう言ってスマホをいじり始める。


「それじゃあ送信するね」


 私のスマホにアプリからの通知が入りスタンプが押された。

 こうやって集めていけばいいのか。


 あと2つで楽園か。

 簡単なような、大変なような……。


「ちょっと待ってください!」


 私が今後のことをぼんやりと頭に浮かべていると、アミちゃんが急に大声を出した。


「アミちゃん? どうしたんですか?」


 その様子は怒ってるわけではなく、何かに怯えているような感じだった。


「ヨシノちゃん、さっきのちゅ~はスタンプに必要だったんですか?」

「ううん、別にいらないよ」


 なぬ!?

 じゃあなんであんなことを……。


「もしかしてヨシノちゃんもイチゴさんのこと……」

「あはは、別に独り占めしたりしないよ~」

「本当に?」


 不安そうにヨシノちゃんを見つめるアミちゃん。

 さっきから何の話をしてるんだ、このふたりは。


「イチゴさんのことは大好きだけど、私はひとりでいる方が好きだから」


 おや、さらっと大好きって言われましたよ?

 でもそのまま振られましたか?

 それにひとりが好きって、なんというか……。


「私って性格悪いし、すぐ人を傷つけるし」

「ヨシノちゃん……」

「だから私は、好きな人ほど距離を置くべきかなって思ったんだ」


 ヨシノちゃんはそう言って、遠い目をしながら空を見上げる。

 さっきまでの笑顔はすっかり消えてしまっていた。

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