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夢の世界へ行って気付いた、私にとっての本当の幸せ  作者: 朝乃 永遠
夢と希望の街
25/111

これがお参りなんですか?

 翌朝。

 まだ眠っていたアミちゃんを残して外へ出た。

 朝のお散歩。


 さすがにお祭りが続いてることはなく、とても静かだった。

 いくら夢と希望の街といっても、1日中賑やかというわけではないようだ。


 特に行き先もなく、ただふらふらする。

 そのつもりだった。


 しかし、しばらく歩いたところでスマホに通知が入る。

 アミちゃんかと思ったら、それはマップアプリから。

 アプリを開くと、お参り場所までの道順が表示されている。


 ここに行けばいいということか。

 それならアミちゃんも一緒に行ったほうがよさそうだ。

 私は一度宿まで引き返し、アミちゃんを連れて再び宿を出た。

 

「お参りって神社みたいなことするんですかね~?」


 目的地への道中、アミちゃんがそんなことを口にした。

 この欧州っぽい街で神社ってことはなさそうだけど。


「スタンプもらうことをお参りと呼ぶのかもしれませんね」


 行ってみないことには何もわからないけど。

 あともうひとつわからないことがあるんだよね。


「アミちゃん、なんで腕に抱きついてるんですか?」

「え、ダメですか?」


 アミちゃんが「やっちゃった?」みたいな顔をする。

 いや、むしろ嬉しいんだけどね。

 嬉しいけど恥ずかしい。


「誰も見てないからいいじゃないですか」

「アミちゃんが喜ぶならそれでいいですけどね」

「やった~」


 アミちゃんは嬉しそうな様子で、一度離した腕を絡めてくる。

 何がそんなにいいんだかね……。


 さて、改めてアプリで道順を確認し、その通りに進んでいく。

 その途中、建物の間の小さな道の奥にあるお店を発見した。


 あれは……。

 ちょっと大人なメイド喫茶ではありませんか?


 さすがは夢と希望の街、こんなものまで揃ってるなんて。

 私の足は自然とそちらにむかってしまう。


「え、ちょっとどこ行くんですか?」

「ああ、ごめんなさい、間違えました」


 いけないいけない、アミちゃんも一緒だったよ。

 この先は今夜のお祭りでね、フフフ。


 もう一度マップを見て、今度こそ道順通りに進む。

 すると大通りを外れ、建物の隙間にある細い階段の道に入った。

 アプリを疑いたくなるような場所だったけど、とりあえず進んでみることにしよう。


 その道の先には、太陽を反射し輝く水面が見える。

 奥に進んでいくと建物がなくなり、道だけが水の上に続いていく。

 これは湖かな。


 この場所は船着き場として使われているのか、小型のボートがふたつ泊まっている。

 どうやら自由に使っていいみたいだ。


 そのひとつに乗り込むと、備えついているモニターの電源が入った。

 画面には操作説明が表示されている。

 まずは魔力を流し込むらしい。


 ユキちゃんのお店のお弁当箱と同じ使い方かな。


「魔力?」


 アミちゃんが不思議そうに首を傾げている。

 そうか、まだ魔法が使えるとかそういうことを知らないのか。


 この前ユキちゃんに教わったやり方でボートに魔力を注いでみる。

 すぐにエネルギー残量が満杯になった。


「え? イチゴ先輩、魔法使えるんですか?」

「この世界は誰でも使えるみたいですよ?」

「ほえ~」


 アミちゃんは驚いたような、わかってないような、変な表情をしていた。

 モニターの画面が変わり、『スタート』と書かれたボタンが表示される。

 それを指で軽くタッチすると、ボートが勝手に動き出した。


 自動運転か?

 なんてハイテクなんだ。

 あ、違うな、これも魔法か。


 顔を上げると、むこう側には湖に浮かぶ白い大きな建物が見える。

 白亜の宮殿……というには小さいけど、十分な大きさだ。


 どうやらそこにむかっているらしく、それはアプリの示す場所と同じだった。

 あれが目的地というわけだ。


 ボートはそこそこのスピードを出して進んでいたので、すぐにそこまでたどり着くことができた。

 ここでお参りをすればいいんだよね。


「アミちゃん、とりあえず奥まで進んでみましょうか」

「そうですね」


 ふたりでまっすぐに道を進む。

 そのまま建物の外側にある階段を上っていく。

 すると直接建物の屋上にたどり着いた。


 不思議なことに建物内部に入る場所が見当たらない。

 ただこの場所を作るための土台に過ぎないのだろうか。


 この屋上部分には、教会にあるような大きな鐘があった。

 ここか?


 目の前まで近づいてみると、『鐘を鳴らしてください』と表示されたパネルを見つけた。

 パネルをタッチすると、鐘を鳴らすための手順が書かれた画面に変わる。

 またも魔力を注いで動かすようだ。


 手順に従い、パネルにそっと手をかざしながら魔力を流す。

 しばらくするとチャージ完了の文字とスタートボタンが表示された。

 それをタッチすると、鐘が自動で鳴り始める。


 どこかで聞いたことのある音だ。

 結婚式とかで鳴ってるのと同じかな?


 そういえば昨日も何回か聞こえてきた気がする。

 鐘の音はほぼ街中に響き渡っているんだろう。

 そう思うと少し恥ずかしい気もする。


「これがお参りなんですか?」

「え~っと、どうなんでしょうね」


 確かにアプリを見てもスタンプは押されていない。

 目的地はここで合ってるんだけど……。


 やがて鐘が鳴り終わり、辺りが静まり返る。

 街から離れた場所なのと、時間も早いためか、人がいない世界のように感じてしまう。


 そこに誰かの声が聞こえてきた。


「いらっしゃいませ~」


 どこかのお店みたいなあいさつだ。

 その声は私たちが来た道とは逆の方から聞こえてくる。


 そちらに振りむくと、そこには少し幼くなってはいるけど、見覚えのある顔の女の子がいた。

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