これがお参りなんですか?
翌朝。
まだ眠っていたアミちゃんを残して外へ出た。
朝のお散歩。
さすがにお祭りが続いてることはなく、とても静かだった。
いくら夢と希望の街といっても、1日中賑やかというわけではないようだ。
特に行き先もなく、ただふらふらする。
そのつもりだった。
しかし、しばらく歩いたところでスマホに通知が入る。
アミちゃんかと思ったら、それはマップアプリから。
アプリを開くと、お参り場所までの道順が表示されている。
ここに行けばいいということか。
それならアミちゃんも一緒に行ったほうがよさそうだ。
私は一度宿まで引き返し、アミちゃんを連れて再び宿を出た。
「お参りって神社みたいなことするんですかね~?」
目的地への道中、アミちゃんがそんなことを口にした。
この欧州っぽい街で神社ってことはなさそうだけど。
「スタンプもらうことをお参りと呼ぶのかもしれませんね」
行ってみないことには何もわからないけど。
あともうひとつわからないことがあるんだよね。
「アミちゃん、なんで腕に抱きついてるんですか?」
「え、ダメですか?」
アミちゃんが「やっちゃった?」みたいな顔をする。
いや、むしろ嬉しいんだけどね。
嬉しいけど恥ずかしい。
「誰も見てないからいいじゃないですか」
「アミちゃんが喜ぶならそれでいいですけどね」
「やった~」
アミちゃんは嬉しそうな様子で、一度離した腕を絡めてくる。
何がそんなにいいんだかね……。
さて、改めてアプリで道順を確認し、その通りに進んでいく。
その途中、建物の間の小さな道の奥にあるお店を発見した。
あれは……。
ちょっと大人なメイド喫茶ではありませんか?
さすがは夢と希望の街、こんなものまで揃ってるなんて。
私の足は自然とそちらにむかってしまう。
「え、ちょっとどこ行くんですか?」
「ああ、ごめんなさい、間違えました」
いけないいけない、アミちゃんも一緒だったよ。
この先は今夜のお祭りでね、フフフ。
もう一度マップを見て、今度こそ道順通りに進む。
すると大通りを外れ、建物の隙間にある細い階段の道に入った。
アプリを疑いたくなるような場所だったけど、とりあえず進んでみることにしよう。
その道の先には、太陽を反射し輝く水面が見える。
奥に進んでいくと建物がなくなり、道だけが水の上に続いていく。
これは湖かな。
この場所は船着き場として使われているのか、小型のボートがふたつ泊まっている。
どうやら自由に使っていいみたいだ。
そのひとつに乗り込むと、備えついているモニターの電源が入った。
画面には操作説明が表示されている。
まずは魔力を流し込むらしい。
ユキちゃんのお店のお弁当箱と同じ使い方かな。
「魔力?」
アミちゃんが不思議そうに首を傾げている。
そうか、まだ魔法が使えるとかそういうことを知らないのか。
この前ユキちゃんに教わったやり方でボートに魔力を注いでみる。
すぐにエネルギー残量が満杯になった。
「え? イチゴ先輩、魔法使えるんですか?」
「この世界は誰でも使えるみたいですよ?」
「ほえ~」
アミちゃんは驚いたような、わかってないような、変な表情をしていた。
モニターの画面が変わり、『スタート』と書かれたボタンが表示される。
それを指で軽くタッチすると、ボートが勝手に動き出した。
自動運転か?
なんてハイテクなんだ。
あ、違うな、これも魔法か。
顔を上げると、むこう側には湖に浮かぶ白い大きな建物が見える。
白亜の宮殿……というには小さいけど、十分な大きさだ。
どうやらそこにむかっているらしく、それはアプリの示す場所と同じだった。
あれが目的地というわけだ。
ボートはそこそこのスピードを出して進んでいたので、すぐにそこまでたどり着くことができた。
ここでお参りをすればいいんだよね。
「アミちゃん、とりあえず奥まで進んでみましょうか」
「そうですね」
ふたりでまっすぐに道を進む。
そのまま建物の外側にある階段を上っていく。
すると直接建物の屋上にたどり着いた。
不思議なことに建物内部に入る場所が見当たらない。
ただこの場所を作るための土台に過ぎないのだろうか。
この屋上部分には、教会にあるような大きな鐘があった。
ここか?
目の前まで近づいてみると、『鐘を鳴らしてください』と表示されたパネルを見つけた。
パネルをタッチすると、鐘を鳴らすための手順が書かれた画面に変わる。
またも魔力を注いで動かすようだ。
手順に従い、パネルにそっと手をかざしながら魔力を流す。
しばらくするとチャージ完了の文字とスタートボタンが表示された。
それをタッチすると、鐘が自動で鳴り始める。
どこかで聞いたことのある音だ。
結婚式とかで鳴ってるのと同じかな?
そういえば昨日も何回か聞こえてきた気がする。
鐘の音はほぼ街中に響き渡っているんだろう。
そう思うと少し恥ずかしい気もする。
「これがお参りなんですか?」
「え~っと、どうなんでしょうね」
確かにアプリを見てもスタンプは押されていない。
目的地はここで合ってるんだけど……。
やがて鐘が鳴り終わり、辺りが静まり返る。
街から離れた場所なのと、時間も早いためか、人がいない世界のように感じてしまう。
そこに誰かの声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ~」
どこかのお店みたいなあいさつだ。
その声は私たちが来た道とは逆の方から聞こえてくる。
そちらに振りむくと、そこには少し幼くなってはいるけど、見覚えのある顔の女の子がいた。




