お祭り気分のハイテンション!
花火が終わったところで私たちは宿まで戻ってきていた。
お祭りはまだ続くみたいだけど、メインのイベントは花火が最後のようだ。
あとはお姉さん方の夜のお祭りが始まってしまうのかもしれない。
って、誰がうまいこと言えと?
キャハハ!
お祭りの雰囲気につられているのか、私のテンションもなかなかに高い。
「このまま一緒に寝たら間違いが起きるかもしれませんね……」
「へ?」
思わず声に出してしまったけど、アミちゃんは首を傾げている。
聞こえていなかったか、理解していないのか。
どちらにしても助かった。
いや~、一人暮らししてるとね、独り言が増えるんだよね。
さぁ、お風呂に入ろっと。
「アミちゃんの裸、楽しみですね~」
「え?」
おっと、いけないいけない。
もちろんわざとだよ。
これから始まる、お風呂場での夜のお祭りさ。
なんてね、あはは!
うん、このテンションはまずいな。
これはお風呂の時間をずらしたほうがよさそうだ。
「アミちゃん、お風呂どっちが先に行きます?」
「え? 大浴場だし一緒に行きませんか?」
ギャアアア!!
そんな純粋な目で私を見ないでぇ~!
取り戻すんだ、きれいな私を。
ということで、ふたり仲良く露天風呂にむかった。
入浴中も様々な誘惑があったけど、一度もおさわりすることなく切り抜けた。
えらいぞ私!
すごいぞ私!
と、まるでがんばったみたいに言ってるけど実は違う。
お祭りハイテンションもおさまっていたとはいえ、アミちゃんの裸を見た時に思った。
全然ドキドキしないなって。
別に魅力がないとか、そういう悪い意味じゃない。
なぜだか心が落ち着いた。
まるで優しさに包まれるような感覚。
それが心を満たしてくれたのだ。
まあ、人の裸で何を感じているんだって思うけど。
アミちゃんより先にあがり、部屋に戻ってきた。
ベッドに腰掛けて窓の外を見る。
まだまだ元気な人たちはお祭りを楽しんでいるようだ。
さすが夢と希望の街。
みんな心が元気なんだな。
お祭り気分のハイテンション!
私も会社にいたときはたまにあったよ。
妙にハイな気分になって、自分がまずい状態なんだと気付かないんだよね。
ここは楽園だから危険なことはないんだろうけど。
しばらく窓の外を眺めていると、ようやくアミちゃんが戻ってきた。
ちゃんとパジャマ姿になって。
モモちゃんもそうだけど、みんなパジャマ着てるんだよね。
私持ってないんだけど。
どこかで買ってこようかな。
別にそこまで欲しいわけじゃないけどね。
でも睡眠の質に関わるみたいだし、今度ユキちゃんに聞いてみよう。
「何見てたんですか?」
「まだお祭りが続いてるんだなって思って」
アミちゃんが私の隣まできて、同じように窓の外を覗く。
「本当ですね、深夜残業の時のハイな気分と同じですかね」
「やめましょう、その例えは……」
同じ会社で働いていた者同士考えることは似ているのか。
「今の私たちはもう自由の身なんですから」
私たちは今楽園にいる。
そしてさらなる楽園生活を手に入れる。
この旅の目的なんだから。
「えや~!」
「うぉっ!?」
びっくりした……。
突然アミちゃんが私の横をダイブしていった。
私のいる窓側とは逆の方で大の字になっている。
見た目通り、まるでこどもだった。
「私、ダブルベッドをふたりで使うの初めてです!」
「へぇ……」
いつもはダブルベッドをひとりで使ってるのだろうか。
私もアミちゃんと会わなかったらそうなってたけど。
「イチゴ先輩! 枕投げしましょう!」
アミちゃんが枕を頭上に上げて、目を輝かせながらこちらを見ている。
こんなところでやったら大惨事だよ。
あれ? そういえばその枕はどこからでてきたの?
私が最初に入った時はなかったけど……。
ひえ~……。
深く考えないでおこう。
「ここじゃ狭すぎるよ」
「え~……」
残念そうにしぼんでいく姿を見ていると、ちょっと罪悪感が生まれる。
「次の宿は枕投げできるくらい大きいところにしましょうか」
「わ~い! イチゴ先輩大好き!」
笑顔の花が開いた。
あら、そういえば一緒に旅する約束ってしてないな。
私はアミちゃんとずっと一緒にいるんだと勝手に思い込んでた。
そっか、今夜泊めるだけだったんだ。
でもアミちゃんもついてくる感じだよね。
窓の外を見る。
明日はお参り場所に行って、その後はまたお祭りを楽しもう。
ここには連泊して、明後日から次の街へむかって旅立つ。
アミちゃん、ついてきてくれるよね?
ちらっとアミちゃんの方を見る。
枕を抱きしめ、いつの間にか眠りについていた。
その姿は小さなこどものようでかわいらしい。
アミちゃんの頭をゆっくりとなでる。
さらさらで長いきれいな黒髪。
この子といると私の心も洗われていくような気がした。




