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夢の世界へ行って気付いた、私にとっての本当の幸せ  作者: 朝乃 永遠
夢の世界と始まりの街
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いや~、おやつの時間だなって思いまして

 しばらくして、シズクさんはキッチンの方へ戻っていく。

 代わりにモモちゃんがやってきて、隣に腰をおろす。

 そして私の方に身を乗り出して、突然言った。


「ねえねえ、今夜一緒にお風呂入りませんか?」

「ぶっ」


 いきなり何言ってるのこの子!?


「えっと、ちょっとそれは……、恥ずかしいです」

「え~」


 残念そうな声を出すモモちゃん。

 そして不満そうに頬をふくらませる。


 温泉とかならともかく、家のお風呂に一緒に入るなんてハードルが高すぎるよ。

 モモちゃんはそれならと別の案を出してくる。


「じゃあ一緒に寝てもいいですか?」

「まぁ、それくらいなら……」

「やったー!」


 一緒に寝るくらいでこんなに喜んでもらえるとは。

 なんだか妹ができたみたいで嬉しいな。

 そういえば出会った頃の桃ちゃんもこんな感じだったなぁ。


 やっぱりなつかしい。

 きっと学生だったあの頃が私にとって一番幸せだったんだ。


 雫さんがお姉さんで、桃ちゃんが妹で。

 当時から家族のいなかった私には、この二人が本当の家族のようだった。


 大人になった今でも一緒にいられるなんて、私が気づかなかっただけで本当はとても幸せなことなんだ。


 余裕がなくなると、どんどん不満ばかりが大きくなっていく。

 そしてそばにある当たり前の幸せを忘れてしまうんだ。


 今隣りにいるモモちゃんと桃ちゃんを重ねて見てしまう。

 ただ私と過ごしたあの頃の記憶を、この子は持っていないんだなぁ……。


「イチゴさん、どうかしたんですか?」

「え? ああ、別になにもないですよ」


 ボーッとしてたから変に思われてしまったかな?


「あ、そうだ! 今何時だろ?」

「今ですか? えっと……」


 あれ、そういえば時間ってどこで見れるんだろう。

 スマホ……、ないし!

 この世界には存在しないのか……。


 その間にモモちゃんが後ろをむいて、例の個人情報まるだしカードを取り出した。


「3時ですね~」


 そのカードで見れるんだ、まるでスマホみたいだね。

 私は何も考えずにカードを覗き込む。

 しかしそこには何も映っていなかった。


 あ、もしかして本人にしか見えなくなってるのか?

 それなら堂々と個人情報が載ってるのも納得できる。


「イチゴさん、どうしたの?」

「あ、いえ……」


 私はモモちゃんに覆いかぶさるような体勢になっていた。


「いや~、おやつの時間だなって思いまして」

「そうですね」


 何を言ってるんだ私。


「モモちゃん、おいしそうだなって思いまして」

「へ?」


 そう言って私はモモちゃんをギューっと抱きしめる。


「キャー、アハハ!」


 モモちゃんは悲鳴のような笑い声をあげる。

 ふう、誤魔化せたか。


 それにしてもモモちゃんは本当に甘い香りがするなぁ。

 このままずっと抱きしめていたい。

 ぐふふっ。


 そんな幸せに浸っていると、モモちゃんが突然シズクさんに声をかけた。

 私はとっさにモモちゃんを開放し、ピョンと元の位置に戻る。

 いや、別に見られても構わないんだけどね。


「お姉ちゃ~ん、おやつある~?」


 モモちゃんの声にシズクさんがキッチンから顔を出す。

 そして呆れたような顔をする。


「……モモちゃん、イチゴちゃんにあんまんもらったんじゃなかったの?」


 モモちゃんにむけられたジト目がかわいい。

 学生の頃、桃ちゃんと雫さんが一緒に住んでた時はよく見たやり取りだ。


「ちょっと待っててね」


 シズクさんは冷蔵庫を開けて、中を覗く。

 あ、冷蔵庫あるんだ。


「あら? ここにあったはずのケーキがなくなってるわ……」

「それ食べちゃった」


 空気が凍った。

 もしかして怒ってるのかな?

 と思ったけど、振りむいたシズクさんの顔はまたもジト目だった。


「確かケーキは3つあったんだけど……」

「テヘッ!」


 モモちゃんがかわいらしく舌を出して笑顔。

 ケーキ3つも食べちゃったんだ……。


「そうなると、他のおやつは切らしちゃってるのよね……」


 それでもまだおやつを用意しようとしてくれるシズクさんはやさしいなと思う。

 でもそんなに食べて大丈夫なのかな、モモちゃんは。


 しかし、そんなことまったく気にしてないモモちゃんは、くるっと私の方をむいて元気よく言った。


「イチゴさん、おやつ買いに行きましょ~!」

「え?」


 思わずシズクさんの方を見ると、「いってらっしゃい」と微笑んでいる。


「モモちゃん、ついでにイチゴちゃんに街を案内してあげたら?」

「うん、そうするっ!」


 それは非常にありがたい。

 この世界のこといまいち掴みきれてないんだよね。

 冷蔵庫あるし。


「よろしくお願いしますね、モモちゃん」

「はい、まかせてください」

「あ、お小遣いあげるわね」


 シズクさんが近くまできて、モモちゃんのカードに自分のカードをかざしタップする。

 その後モモちゃんがカードを見て、何かを確認してからポケットにしまった。


「お姉ちゃんありがと~」


 ……今のでお金を渡したのだろうか?

 もしかしてかなり高いレベルのキャッシュレス世界なのかな。


「いちごちゃんの分も一緒だからね」

「は~い」


 お小遣いをもらうとなぜだかわくわくしてしまうよね。

 私だけかな?


 ここに来て、私の外見とともに精神までこどもっぽくなってしまったのか。

 いや、シズクさんのほわほわお姉ちゃんオーラが私を幼児退行させているのかもしれない。


「バブ~」

「え、どうしたのイチゴちゃん……」

「あ、いえ、何でもないです、忘れてください」


 おっと、あぶないあぶない、シズクさんが固まっちゃったよ。

 バブ~って、自分で自分にびっくりだ。


「私の分までお小遣いありがとうございます、シズクさん」

「うふふ、いいのよ、いってらっしゃい」

「いってきます!」


 まるで自分の家から外出するように挨拶をして外へ出た。

 あれ、これってモモちゃんとデートのようなものじゃないですか?

 心が躍りますね!

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