これはまさか雫さんの香り?
カレーまんとピザまんを食べ終え、私たちはモモちゃんの家にむかって歩いていた。
大通りから小路に入り、しばらく進む。
あたりが野菜や果物を作っている場所に変わっていく。
あまり季節とか関係ないみたいで、いろんな農作物が育っている。
うん? スイカが木に実っている?
見なかったことにしよう……。
さらにしばらく歩くと、あたりは大きな庭付きの家が増えてきた。
モモちゃん、こんなところに住んでるの?
意外と裕福な家なのかもしれない。
というかこんなところからあんな場所までパンツ飛んでいったの?
すごい神風だね、まるで私たちが出会うために吹いた風みたいだ。
そんなことを思いながら歩いていると、再び強い風が吹いた。
私はローブの裾をおさえ、風が止むのを待つ。
すると私の顔に何かが貼り付いた。
風が収まり、それをつかむと、なんとブラだった。
大きい……、それにいい香りが。
これはまさか雫さんの香り?
うん、間違いない……。
「あ、これ、もしかして……」
モモちゃんがすんすんとにおいをかぐ。
「間違いない、お姉ちゃんのだ」
え? 雫さんとモモちゃんのお姉さんの香りが同じ?
これはまた雫さんそっくりさんがでてきそうな予感。
それにそのまま姉妹ということになる。
出来すぎている、やっぱり私の夢なのかな。
それよりさっきからにおいで人を特定してるけど、なんの能力だよ。
なんでモモちゃんまで習得してるんだろ……。
「イチゴさん、これ預かっておきますね」
「あ、うん、よろしくね」
モモちゃんは私からブラを受け取ると、服の大きなポケットに入れた。
また歩くのを再開すると、少ししてむこうに川が見える。
ということはここが街の端ということか。
川のむこうは草原と森と海がある。
いや、もしかしたら海じゃなくて湖かもしれないな。
これが私の夢ならば、現実で私は海より琵琶湖のほうが近かったし、湖の可能性が高い。
「イチゴさ~ん、行き過ぎですよ~」
「あら?」
景色に見とれていて、一番端の家まで通り過ぎていた。
「ここです! 私の家!」
モモちゃんが指差す建物は大きな庭のあるかわいらしい家だった。
このあたりでは見かけなかった二階建ての家。
現実世界では見たことない丸い形の不思議な家だ。
モモちゃんについて家の中に入る。
「おじゃましま~す」
外観は変わってるけど中は意外と普通だった。
日本でもよく見るタイプの家だ。
モモちゃんに案内されて、リビングに通される。
「適当に座っててください」
モモちゃんはそういうと、キッチンの方にむかっていった。
私は近くのソファに腰をおろす。
そこにモモちゃんの香りがする一枚の毛布が置いてあった。
もしかしてここで寝ていたのだろうか。
なんで自分の部屋で寝ないんだ……。
ああでも、このフカフカのソファに座っていると分かる気がするけど。
私は自然と毛布を広げ、それにくるまる。
あ~、いい。
ふかふかのもふもふ、最高の組み合わせ。
おまけにモモちゃんの香りに包まれて天国みたいだ。
私はそのまま横になる。
ああ、なんかひさしぶりにこんな穏やかな気持ちになったなぁ。
眠くなってきてしまった……。
だめだ、眠ったらこの夢から覚めちゃうかもしれない……。
そう思っても、もはやこの睡魔に抗うことはできず、私は眠りに落ちていった。
「う……ん……」
あれ、私、寝ちゃってた?
「あ、イチゴさん、起きた?」
「うん?」
徐々に意識がはっきりとしてきた。
そしてようやく今の状況を理解する。
目の前にはモモちゃんの顔のドアップがあった。
「ひゃっ!?」
「おっと」
あ~、びっくりした。
ずっと見られたのかな、恥ずかしい。
「私、寝ちゃってたんですね」
「そうですね、まあ30分くらいですけど」
あれ、30分?
その割には大分スッキリしてる気が。
ひさしぶりにいい睡眠がとれたんじゃないだろうか。
モモちゃんの香りのおかげかな、なんて。
そんな穏やかな時間を過ごせている幸せを噛みしめていると、モモちゃんがくるっと後ろをむいて誰かに声をかけた。
「お姉ちゃ~ん、イチゴさん起きたよ~」
お姉ちゃん?
あ、もしかして……。
モモちゃんの視線の先に私も顔をむけるとそこには。
「うふふ、ぐっすりだったわねイチゴちゃん、お疲れだったのかな?」
やっぱりというか、雫さんそっくりの優しい笑顔の女性がいた。
モモちゃん同様に少し昔の姿だ。
「あ、お邪魔してます、イチゴと申します」
「私はシズクです、今日は泊まっていくのよね?」
「ご迷惑でなければですけど」
「あら、そんなの気にしなくていいのよ、自分の家だと思ってゆっくりしていってね」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言ったその時、一筋の涙が頬を伝った。
「ど、どうしたの?」
「いえ、なんか、やっと救われた気がするんです……」
ようやく私はあのつらい日々を終わらせることができたんだと思った。
私の勇気が足りず、得られなかった自由。
ここにはそれがある。
ただの夢かもしれない。
でも私が欲しかったものはわかった。
私はただ、昔みたいにみんなで笑って、のんびり暮らしたかったんだ。
「何があったかわからないけれど、私にできることがあったら言ってね」
「ありがとうございます、でも今は大丈夫です」
私がそう言うと雫さん……じゃなくてシズクさんは私の頭をなでてくれた。
学生の時はよくこうしてくれたなぁ……。
なつかしくて、また涙が流れてしまった。
変な子だと思われてしまったかな……?
でもしょうがないよ。
幸せすぎるんだから。




