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勇者召喚――いいえ、魔王召喚です  作者: 奥生由緒
第4章 エカトールの勇者たち
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第47話 首脳会談前の控室にて

※ レティシアナ視点です。



 

 『オメテリア王国』王都・『ティトラン』。


 今代の〝勇者〟お披露目まで残り十日となった今日は、各国の首脳陣及びテスカトリ教導院による首脳会談の初日だ。

 レティシアナは三院長と十数人の文官、護衛の近衛騎士たちと共にあてがわれた控室で会談開始までの時間を待っていた。

 会談は五日間あり、前半の三日間は各国からの報告、後半の二日間は〝ゲーム〟に関する――異世界からの〝勇者〟を中心とした――今後の方針の確認と、半年後に行われる魔界(キアウェイ)側との顔合わせについて話し合うことになっている。

 レティシアナは、開始直後に改めて勇者召喚の成功を告げ、求められた時に転移魔法陣に関する事を報告するだけで、主に対応するのはジェルガだった。


(………もう少し)


 壁にある掛け時計を見て、レティシアナはそっと息を吐くと、テーブルに置かれたカップに手を伸ばした。

 各国の首脳陣に会う緊張からか、口の中が乾いてきた。

 セリアが淹れたお茶をゆっくりと飲んで口の中を潤し、少し震える息を吐いて緊張をほぐす。

 レティシアナは部屋の片隅にあるソファにラフィンと向き合って腰を下ろしていた。すぐ近くの壁際にはセリアと近衛騎士団長のカルマン、副団長のネリューラが控え、部屋の隅や扉の近くに護衛の近衛騎士たちが立っていた。

 ジェルガやマロルド、文官たちは、部屋の中央にあるテーブルで最終確認を行っている。


「――まだ、大人しいようだね」


 文官の一人から手渡されたメモを読み、ラフィンはそう言った。


「まだ、ですか……」


 その言葉にレティシアナは、口元に苦笑を浮かべた。

 レティシアナたちがテスカトリ教導院を発つ前、ヒビキから魔法の練習の許可を求められ、慣れるには必要だろうとそれを了承していた。

 ただ、念のために(・・・・・)第一階位魔法師のニカイヤ三導護衛騎士団長をお目付け役として残してきている。


「〝使い魔(プロテニア)〟用の魔儀仗(フィクンド)を作ると仰っていましたので、さすがに昨日今日では――」

「本当にそう思うかい?」

「えっ? …………えっと……」


 そっ、とレティシアナは視線を逸らした。

 ラフィンがそう言ったのは、ヒビキのこれまでの行動からくるものだけではなく、目付け役として残してきたニカイヤも原因の一つだったからだ。

 ニカイヤは、いつもは(・・・・)状況を冷静に見極め、対処する事が出来る人物なのだが、一度(ひとたび)興味を持った事に関しては対処可能な(手に負える)範囲で観察するという悪癖があった。


「………興味は、もたれていましたね」


 当初はヒビキに興味を持ったような素振りは見せていなかったものの、ネリューラとの模擬戦を見てからは、何度もクリラマの下を訪れては魔術について尋ねているらしい。

 そして、先日の騒動で、もしかしてという疑念は確信に変わっていた。


(…………大丈夫、かしら?)


 あの時、ニカイヤはいち早く現場に駆け付けたにも関わらず、被害が広がらないように結界を張った後は静観(観察)するだけで、結局、二人を止めたのはラフィンだった。

 そのことから、お目付け役として残すには不安があったが、他に第一階位魔法師(彼以上の適任者)はいなかったので仕方がなかったのだ。

 何とも言えない表情をしたレティシアナに「だからだよ」とラフィンは笑った。


「――それにしても〝使い魔(プロテニア)〟用の魔儀仗(フィクンド)とはねぇ。また、珍妙なことをするよ、小僧は」


 前代未聞の代物を〝珍妙〟の一言で済ますラフィンに、レティシアナは引きつった笑みを浮かべた。


「…………〝使い魔(プロテニア)〟を魔儀仗(フィクンド)に組み込むという発想は、私たちには思いつかないことですね」

「あぁ、そうだね。その魔儀仗(フィクンド)で重要となる〝珠〟だけど、そっちの方はどうなっているんだい?」


 ヒビキに〝使い魔(プロテニア)〟を付けた魔剣(錫杖)を実演してもらって解析した結果、〝使い魔(プロテニア)〟の能力値が予想以上に高まっている事が分かった。

 その結果を受け、三院長は――魔剣に取り付けるかどうかは別にして――同調率の高い契約者たちに〝珠〟の検証のために習得するように命じ、現在、彼らはヒビキにやり方を教わって訓練に入っていた。


「同調率が八十以上の方々でも、〝使い魔(プロテニア)〟を〝珠〟にすることは出来ませんでした。おぼろげな形にはなるのですが、ヒビキ様の様には――」


 問われ、レティシアナは首を左右に振るう。

 一度、ヒビキが作った〝珠〟に触れさせてもらった時、まるでガラス玉のように硬質な手触りと僅かな重み、そして、内に秘められた力の強さを感じた。

 それに対し、契約者たちが訓練中に作り出すモノは、内包する力は不安定で()のようにおぼろげな形にしかならなかった。


「やはり、私たちが使うには完全同調か、それに限りなく近い同調率にまでいかないと難しいかと……」


 現在、一番同調率が高い契約者で九十に届かない程度。それ以上の同調率を得た者は、ここ数十年近く現れていなかった。


「もう一つの方は使えても、当分、解析は無理だろうしねぇ」

「はい……」


 ヒビキが持ち帰ったもう一つの魔儀仗(フィクンド)は合成魔法が付与できる、どこにでも出回っている普通の物だった。

 ただ、柄の部分に刻まれていたのが魔法陣に見える(・・・・・・・)〈魔成陣〉という突拍子もないものだったが。


(あの〈魔成陣〉は……)


 だが、それ以上に驚かされたのが〈魔成陣〉の効果だった。

 その効果を聞いて、最優先で解析するようにとクリラマに解析を依頼していたが、未だにヒビキに聞いたことしか分かっていなかった。


「――全く。小僧には一杯喰わされたね」

「そう、ですね。………もう少ししたら落ち着く、と事務の方が仰ってみえましたが」


 やれやれ、と肩を竦めるラフィンに、レティシアナは困ったような表情で頷いた。

 クリラマの解析が進んでいない理由は、先日の騒動でヒビキが使用した魔術だった。

 その時、使用された術式の全てが、今までに教えられた物の中にはなかったようで、現在、そちらの解析に躍起になっているのだ。


「……まさか、一つの〈魔成陣〉で誰でも(・・・)合体魔法を纏わすことが出来るなんて」


 ぽつり、と呟いたレティシアナに、ラフィンは頷いた。


「それも魔法陣に似せた〈魔成陣〉ときた。…………ベルフォンが魔術の詠唱文の翻訳に成功した、とは聞いていたけどねぇ」

「アレは……魔術なのでしょうか?」

「見る限り、魔術だろうね。魔術師の場合、術者の技量によって〈魔成陣〉は不要になるようだから、正確には〝指針〟と言ったところだろうさ」

「〝指針〟…………」


 通常、魔儀仗(フィクンド)に合体魔法を付与するには、魔核(コア)で一つ目の魔法を刻印された通り(既定の形)に変化させ、そこに術者が刻まれた魔法陣を使って二つ目の魔法を合わせるというものだ。

 その時、二つの魔法陣で調整されるとはいえ、発動させるには中位クラスの合体魔法を扱える魔法師でなければならなかった。

 だが、ヒビキの魔儀仗(フィクンド)を使った場合、少しの訓練を行っただけで誰でも容易に(・・・・・・)二つ目の魔法を付与することが出来たのだ。



 それは五カ国――特に『シドル』との交渉材料としては、この上ない手札()となった。



 さらに魔法陣に似ているために魔刻師でも刻印することは可能だったが、交渉の手札とするには詳細な原理も必要となった。クリラマが解析に手を回せないため、今後のことを考えて魔刻師など(別の者)に〈魔成陣〉を教えてもらった方が良いだろう、と、ヒビキに指導の方を打診したが、お披露目に向けての練習を逆手に取られ、断られていた。




―――「俺は、技術をちょっと齧っただけで本職じゃねぇから恐れ多いよ」




と。素っ気なく拒むヒビキの態度から、それだけが理由でないことは察しがついていた。


(…………ヒビキ様は、まだ(・・)――)


「なに、そう心配することでもないよ」

「?」


 苦笑交じりの声に、いつの間にか俯いていた顔を上げた。


「ただ、拗ねているだけさ」

「界導院長様……」


 あまりの言い様に、思わず眉根を寄せたが、


あの検証(・・・・)は必要な事だったと分かっているはずだよ、レティシアナ」

「!」


 続いて紡がれた言葉に目を見開いた。

 そして、有無を言わせない〝何か〟を感じ、小さく頷きを返す。 


「〝使い魔(プロテニア)〟を授かった理由も分かったからね。ベルフォンの件と痛み分けだよ」

「……………………痛み分け、ですか?」

「その手札の有効性は小僧も分かっているはずだよ。折を見て、何かを言ってくるだろうさ」

「………」


 顔を曇らせたままのレティシアナにラフィンはつと目を細め、


「まぁ、予想していた以上の反応だったけどね」

「…………………………はい」


 ヒビキたちが旅に出てからしばらくして、クリラマから「魔術師が背負う〈枷〉について、検証実験を行いたい」と申請があった。ヒビキとクリラマが立てた〝ある仮説〟を基に議論を重ねた上で、三院長はそれを承認した。

 その仮説とは、魔術師が負う〈枷〉に関するものだ。

 ヒビキが言うには〝魔法〟は〝魔術〟と違って、既に世界を構築する一部(ピース)として存在しているため、魔術師が使用しても世界の歪み(反動)はないらしい。

 そして、魔法師が〝魔術〟を使った場合、無理矢理世界の一部(ピース)にして使っているため、多少の歪みが出現しているはずだ、と。

 ならば、何故、魔法師に〈(反動)〉がないのか。

 その疑問に対し、ヒビキとクリラマと立てた仮説が、




―――創造主の僕、星霊(オミテクトリ)の〝加護〟だった。




 〝加護(それ)〟はこの世界の住人なら必ず授かっているもので、それが〝世界の理〟を書き換える反動から術者を守っているのではないかと。

 そのことを裏付けるように、星霊(オミテクトリ)はその一部――〝使い魔(プロテニア)〟をヒビキに授けていた。



 魔素の拡散能力に特化させ、少しでも〝加護〟を強めて。



 二人の仮説が証明されたため、〝使い魔(プロテニア)〟との同調率が上がれば〈枷〉は問題ないだろうと言う判断に至った。


魔界から帰還した時(あの時)以上に……………)


 〈枷〉の検証実験を行った事をヒビキに隠すつもりはなく――口止めをしても無駄だと思っていたため――クリラマたちが話しても咎めることはしなかったが、それを聞いたヒビキが激怒したことに、レティシアナだけでなく三院長も驚いた。

 普段は飄々としていて、掴みどころのない彼が見せた感情。

 それだけ魔術師としての〈枷〉に触れられたくなかったのだと、〈枷〉を犯すことの危険性を知るには十分だった。

 その後、レティシアナや三院長、さらにクリラマも加わってヒビキと話し合いになり、そこで二度と〈枷〉に手を出さないようにするためか、ヒビキは〈枷〉のもう一つの意味を教えてくれた。



 〈枷〉とは〝世界の理〟を書き換えるという禁忌を犯した〝戒め〟であり――そして、〝世界の理〟を書き換えた時、そこに呑み込まれないように留める〝足枷〟でもあるという事を。



 ヒビキは、敢えて〝クキ〟と名乗ることで〝足枷〟の意味を強くしていた、と言った。

 それは〝戒め〟も強くなってしまうが、この世界の空気中の魔素含有量では仕方がないことだった、と。

 ヒビキも旅先で〝使い魔(プロテニア)〟を授かった理由に確信し、同調訓練には乗り気だったはずだが、




―――「初めての同調にしては、淀みなどは一切ありませんでした。ですが――」




手際の良さに反して同調率の伸びが悪いですね、とノースは言っていた。

 彼の言う通り、同じく〝使い魔(プロテニア)〟を授かった歴代の〝勇者〟たちと比べた時、どこか違和感を覚えたのは確かだ。

 ヒビキは同調訓練の方法を聞けばあっさりと(・・・・・)同調させてみせたにも関わらず、何故か同調率はゆっくりとしか上がっていないのだ。


(どうして、ヒビキ様は……?)




「――――レティシアナ」




「――っ?」


 名を呼ばれ、レティシアナは、はっ、として伏せていた顔を上げた。

 すると、真っ直ぐにこちらを見つめるラフィンの目と目が合った。


「あまり、気にしすぎるのも良くないよ」

「――――――えっ?」

「また、見え始めたんだろう?」

「っ………」


 息を詰め、思わず目を泳がしてしまった。

 マロルドに報告したのだ。ラフィンやジェルガたちにも話はいっているのだろう。

 じっと見つめるラフィンの視線に、ごくり、と喉が鳴る。


「なに、責めているわけじゃないさ。………その力の強さなら仕方がないことだよ」

「そんな、ことは……」


 紡いだ言葉が震えないように抑えたものの、それ以上は続かなかった。

 口を閉ざしたレティシアナに、ラフィンは小さく息を吐き、


「色々とうるさかったから、不安に思うのも分かるよ」

「…………界導院長様」

「ただ、魔術や魔法を使った時、その身に何が起こるのかは小僧自身がよく分かっているはずさ」


 何せ、あの称号を持っているらしいからね、と言った。


「…………ですが、同調率がっ」

「おかしいのは確かだ。けどね、それが魔術師――いや、魔導師としての判断だと思うよ」

「そんな、こと……一体、どんな理由が……っ!」


 じろり、と射抜くような視線を受け、レティシアナは身を強張らせて口を閉ざした。


「召喚された〝勇者〟の潜在能力の高さは、分かっているね?」

「っ?…………は、い」


 唐突な質問に、レティシアナは戸惑いながらも頷いた。

 召喚された異世界人――〝勇者〟が持つ潜在的能力の高さは、例え〝ゲーム〟にて連敗していたとしても、誰も疑ってはいない。

 今まで召喚された〝勇者〟たちは、この世界にはない〝力〟を体得している者もいれば、二年の訓練中に潜在能力を開花させた者がいたことに間違いはないのだから。

 それが召喚された者――〝勇者〟となった者への〝世界〟からの祝福だった。

 開花するのは〝才能(ディフェラ)〟や魔法に関すること等と様々だったが、代々、得意な属性ともなると神格魔法も扱えるようになるほどの才能を秘めていた。

 そのため、魔法と似た力(魔術)を操るヒビキへの各国の期待と関心は一入(ひとしお)となっていた。


「アレは傑物だよ。能力値は測定不可能だったけど、恐らく、その実力は第一階位魔法師に匹敵するだろうさ。その事はこの世界にとって朗報であるが、小僧が抱えているモノ(懸念事項があること)を知る身としては不安要素でしかない」

「………」

「だから、見てしまうんだろう? 答えを求めて――」

「………」


 そうだね、と無言で問われ、レティシアナは目を伏せた。


(分かっているけど…………でも――)


「見るな、とは言わないよ。見ないと分からないこともあるからね」

「………」


 伏せていた目を開くと、目の前に座るラフィンの目と目が合う。

 その、緑色の瞳の奥に浮かぶ感情は――




「ただ、見るべきものを見逃すことだけはしてはいけないよ、レティシアナ」




「―――えっ?」


 その言葉の意味が分からず、レティシアナは気の抜けた声を出した。


(見逃す…………?)


 戸惑うレティシアナに対し、話は終わりだと言わんばかりにラフィンはカップに手を伸ばして喉を潤した。






         ***






「予定より、少し遅れそうだな」


 呆然と手の中のカップに視線を落としていたレティシアナは、ジェルガの声で我に返った。

 顔を上げると、いつの間にかジェルガはラフィンの隣、マロルドはレティシアナの隣に腰を下ろしていた。


「〝魔素の淀み(シャンネトル)〟かい?」

「ああ。〝ゲーム〟が近づくと不安定になりがちだが…………やはり、少し頻度が多い」


 これが各国からの最終報告だ、とジェルガはテーブルの上に書類の束を置いた。

 〝魔素の淀み(シャンネトル)〟出現の報告は『クリオガ』だけでなく、『オメテリア王国』と『トナッカ公国』からも上がっているのだ。

 ラフィンは書類を手に取って目を通しながら、


「ギルドの転移魔法陣の方は、今のところ問題はなかったけどね」

「溜まるのが早いと報告があったが?」

「〝鍵係〟が楽になった程度さ。今のところ、それほど問題なく拡散(利用)しているよ――」


 そこで書類から視線を上げ、


「ただ、各国の支部単位で、だけどね」

「………」


 ジェルガは眉の皺をさらに深くし、つと、レティシアナに視線を向けた。

 一瞬、その意図を図りかねたが、慌てて口を開いた。


「せ、先日の報告から変わりありません。点検回数を増やした後も規定内で上下はしていますが、大きな変動は見られず……」

「そうか……」

「堕ちてくる魔物に関しては、徐々に魔界(キアウェイ)にいた冒険者たちが帰還しているから、楽になると思うよ。多いところには、指名依頼を出して分散もさせているしね」

「帰還しているのは、確か、全体の半分ぐらいだったか……」

「〝守の儀(エグザマ)〟関連の指名依頼を出した冒険者からチラホラとね」


 ラフィンは頷き、マロルドに視線を向けた。


「『ナカシワト』の〝異域〟の方はどうなんだい?」

出現する(・・・・)魔物の等級が少し上下しているようですが、鎮守の方々で対応は十分に出来ていますね。念のため、引き続き潜入させて情報収集に当たらせています」

「そうかい。…………頼んでおいたものは、アイツに渡してくれたかい?」

「はい。つつがなく」

「すまないね。手間をかけた」


 ついででしたから、とマロルドは首を左右に振った。


「『シドル』の方は、何も――いえ、魔儀仗(フィクンド)を中心とした武器の受注が多くなったぐらいでしょうか」

「そちらは〝魔素の淀み(シャンネトル)〟は変わりなかったね」

「えぇ。元々、出現率は多くありませんから」

「ふむ。…………あとは何かあるかい?」

あの件(・・・)を除くと、『クリオガ』の時計塔の結界の交換だな」


 ジェルガの言葉に、ラフィンは片眉を上げ、


「あの計画案は、難しいかい?」

「多少、遅れるだろうな。…………色々と(・・・)調整が必要になる」


 ちらり、とジェルガはラフィンが持つ書類に視線を向けて言った。

 世界的に〝魔素の淀み(シャンネトル)〟が多発し、それに触発されて魔物の活動も活発するため、各国で魔核(コア)が必要となってくるだろう。

 ふむ、とラフィンは頷き、


「そうすると、運よく(・・・)手に入れた魔核(コア)が役に立つね」


にやり、と嗤って告げられたその言葉に、ソファに座る誰もが何とも言えない表情をした。











「…………旅の件(あの事)は、いかがですか?」


 しばらくの間、沈黙が降りていたが、一番気になっていた事をレティシアナは尋ねた。

 三院長の視線がレティシアナに集まる。


「首尾は重畳と言ったところだな」


 最初に答えたのはジェルガだ。続いて、その言葉に頷いたマロルドが口を開く。


「主催国の『オメテリア王国』には話しましたが、それなりに良い返事をもらっていますね。『シドル』もクジョウから提供された魔術具に興味を持ったようで、早めの来訪を打診してきていますから、掴みは良いかと思いますよ――」


 そこで少し目を細め、アレもありますから、と付け加えた。


「他の三カ国はどうなんだい? 能力検査の結果と模擬戦の映像を送ったんだろう?」

「『トナッカ公国』は〝国立学院〟への招待を考えているようですね。『ナカシワト』と『クリオガ』は、定期的に魔法に関する訓練の進歩状況などを尋ねてくる程度です」

「『ナカシワト』は相変わらずか。意外と『クリオガ』の食いつきは悪いようだけど、実際に本人を見ないと判断は下さないということだね」

「殿下の心づもりも上手く使えば、それほど条件を追加されないとは思うが……」


 そこでジェルガは言葉を濁した。

 その理由を察し、ラフィンは嗤う。


「他の〝勇者〟をどう納得させるかだねぇ」

「…………それが一番の問題だ」


 どこか疲れた声で、ジェルガは言った。


「皆様。そろそろ、お時間です――」


 文官の声にレティシアナは掛け時計に視線を向けた。

 会談開始の二十分ほど前だ。

 同じく、時間を確認したジェルガが立ち上がり、レティシアナたちを見渡す。


「行こうか――」



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