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勇者召喚――いいえ、魔王召喚です  作者: 奥生由緒
間章2 〝オリオウ〟の隠者と赤
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閑話8 赤、画策する


※ ギル視点です。




 ギルミリオはエカトール(クリオガ)での短い旅を終えて、クジョウたちと共にテスカトリ教導院に帰還した。

 そこで三院長が加わって共に魔界キアウェイのエカトール大使館に向かい、改めて〝契約〟を交わす。

 それぞれの世界で〝契約〟を交わしたことで、完全に旅の条件の一つが満たされた。

 今後の日程を確認し、ギルミリオはクジョウに視線を向けた。


「お前がヘマをしない限りは、一ヶ月後だな」


 にやり、と笑いながら告げると「ヘマって何だよ」とクジョウは眉をひそめる。


「目立たないように心掛けながら、色々と噂を立てたのは何処のどいつだ?」

「………おたくも共犯だろ」


 顔をしかめながら告げるが、その目は泳いでいた。


「条件は加えられる可能性は高いが、俺たちもそれなりに良い手札を切ったつもりだ。それを無駄にさせないでくれよ?」

「………」


 ギルミリオの言葉と共に三院長からもじと目を向けられたクジョウは、


「………分かってるよ」


降参だ、とでも言うように両手を挙げて大きく頷いた。









 クジョウたちと別れ、ギルミリオは魔王城に帰還した。

 (おおやけ)に出来ない旅からの帰還のため、出迎えはガイアスとギルミリオ専属の侍女たちだけだ。

 旅の汚れを落とした後、両親に帰還を告げて自室に戻ると、ガイアスだけが待っていた。部屋の周囲に人の気配がないので、人払いがされているようだ。

 その意味を瞬時に悟り、ギルミリオは苦笑した。

 ソファに座ると「どうぞ」とお茶の入ったカップと茶菓子が置かれた。カップを手に取り、一口飲む。少し甘目に淹れられたお茶は、じんわりと喉を通って胃の中に落ちていく。

 ほっと息を吐きながらゆっくりとお茶を飲んでいる間、ガイアスは無言で脇に控え、沈黙が室内を支配していた。

 空になったカップをテーブルのソーサーに置くと、すぐにガイアスが二杯目を注ぎ、


「旅はいかがでしたか?」

「……内容を聞くのは〝契約〟に引っかかるぞ?」

「ただの感想をお聞きしているだけですので――」


 しれっ、と告げるガイアスに「……そうか」とギルミリオは苦笑した。


「薬草採取に下位ランクの魔物狩り……何百年振りだろうな」


 〝ゲーム〟に出場するまでは、魔界(キアウェイ)全土を巡って魔物狩りなどの冒険者の真似事をしていたが、〝ゲーム〟が終わってからは、公務以外で巡ることはなくなっていた。


「また、そのようなことを……」

「第八階位の依頼なら、そんなものだろう?」


 くくっ、とギルミリオは笑い、


「あとは――討伐の打ち上げだな」






         ***






「乾杯!」


 ラルグの声に続いて「乾杯っ!!」と総勢三十人以上の冒険者たちがジョッキを掲げた。

 ガラスが打ち合う音が響き、一瞬の静寂の後、騒音が戻る。

 ギルは、ジョッキに並々と注がれた琥珀色の酒――レヴル酒を半ばまで飲み、どんっ、と音を立ててテーブルに置いた。テーブルの上には、香辛料がふんだんに使われた料理が並べられ、疲れて空腹となった身体の食欲をさらに駆り立ててくるので、さっそく手を伸ばす。

 打ち上げ場所は『アダナク』でも予約が取れないことで有名な料理店で、その二階の一角を貸切りに出来たのは高位冒険者(ランク三)であるラルグが手配したからだろう。

 一つのテーブルに五、六人の冒険者たちがチームごとに分かれていたが、〝オリオウ〟と同席しているのは〝飛炎の虎〟の男性メンバー三人で、女性メンバーは訓練生たちの目付け役のために欠席していた。


「ほらよ」

「食え食え!」


 ギルとホルンは、二人の間に座るクキの前に、どかっ、と肉料理の皿を置き、さらにそこに他の肉料理をのせていった。

 ひくっ、とクキは頬を引きつらせ、


「おたくら、表に出ろ! ぶっ潰す!!」

「カリカリするな。まだ肉が足りないのか?」

「こっちに肉料理追加!!」

「聞け――ぉんが?!」


 大口を開けたクキに、ホルンが容赦なく骨付き肉を突っ込んだ。クキは慌てて骨を掴み、肉を引き抜く。クキが激しく咳き込んでいる隙に、ギルとホルンは料理を盛って山を作っていった。


「お、おたっ――殺す気か?!」

「そんなことで死ぬタマか?」

「そうだな。避けろ」

「普通、突っ込まねぇよ!」


 叫んだクキにホルンがニヤニヤと嗤い、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。

 ギルはそれを横目にしながら、料理を口に運んだ。


魔界の時(あの時)よりは軽かったのか……)


 キルエラに視線を向けると、料理に手を伸ばしていた彼女はギルの視線に気づいて小さく笑みを浮かべた。

 キルエラが何も心配をしていないことをみるに、魔力酔いになっていたクキの体調は戻っているようだ。

 キルエラがヤンコフとサザミネに向き直ったところで、クキとギルに顔を戻すと、


「元気になったか?」

「おうおう。やってるなぁ」


そこに同じ第一班だった〝黄砂の剣〟が、料理が盛られた皿とジョッキを手に現れた。


「……お疲れさまです」


 ムスッとした表情で答えるクキに、四十代半ばほどのくすんだ金色の髪を持つ男性――〝黄砂の剣〟のリーダー、ヘルダンは苦笑する。


「大丈夫そうだな、坊主」


 そして、さりげなく手に持っていた皿――肉料理だ――をテーブルに置いた。


「あんたには、こっちだ」


 〝黄砂の剣〟のメンバーの一人にジョッキを差し出され、「ああ、悪いな」と有難く受け取った。

 ギルが受け取ったジョッキにクキはじと目を向け、


「……何で、俺にはこっちなんですか?」

「血気盛んなのはいいが、もっと体力をつけないとな」

「ヘルダンさん、体力の問題じゃないっすよ。――くくっ」

「ホルン!!」

「魔力酔いなんて、気合で治すんだよ!」

「いや、治りませんよ……」

「減った魔力を補充するには、食うのが一番だ!!」

「俺としては、酒も欲しいんですけど?」

「骨も食えよ~」

「無理ですよ?!」

「お前ら、野菜も入れたれ」

「代わりに(こっち)を持っていってください」

「おいおい。好意は有難く受け取っておけ」

「じゃあ、肉じゃなくて酒ください! 酒!」


 次々とテーブルを訪れる冒険者たちは、クキの前には肉料理、ギルには酒を渡していく。

 ニヤニヤと笑いながら告げられる言葉と置かれる肉料理にクキがツッコミを入れていく――その騒ぎに時折、口を挟みながら料理を楽しんでいると、


「だぁぁあっ! 多すぎだろ!!」


突然、クキが叫んで立ち上がった。


「あらら~」

「おおぅ?」

「お~、キレたキレた」


 ぎょっとして囲んでいた冒険者たちは身を引くが、その顔には満面の笑みが張り付いていた。


(距離を置かれるよりはいいが………面白いぐらいに遊ばれているな)


 強引な形で討伐への参加を納得させ、高い実力を見せて討伐に貢献したクキだったが、討伐直後の発言が他の冒険者たちのツボに入ったようで――さらにからかった反応が面白いため、いいオモチャになっていた。

 バンッ、とテーブルを叩いたクキの手を中心に一瞬で[黒盤]が現れ、積まれていた料理が浮かび上がる。

 これには、周囲からどよめきが起こった。


「あっちで大食い勝負だ!!」


 隅の方の席を指して叫ぶクキに、


「ああ! 受けてやるぜ!」

「腹、破裂させてやんよ!」

「肉料理、どんどん持って来い!!」


と。賛同の声が上がり、テーブルを囲んでいた冒険者たちはクキが指した場所へと移動を始める。


(何がどうなったら大食い勝負になるんだ?)


 その背に呆れた視線を向けて、ギルはクキを見送った。

 部屋の端にある二つのテーブルをくっつけ、大食い勝負の準備を始めると「何だ? 何だ?」と野次馬が集まり出した。

 クキの近くにはいつの間に席を立ったのか、キルエラの姿もある。


(忙しいな、彼女も……)


 正面に向き直って料理に手を伸ばすと、対面に座るサザミネと目が合う。ホルンは対戦相手、ヤンコフはホルンを諌めるために席を離れたので、今、このテーブルにいるのはギルとサザミネの二人だけだ。


「………」

「………」


 ギルは肩をすくめ、サザミネは苦笑した。


「――リーダーさん、元気ねぇ」


 ふと、声がして振り返ると、いつの間にか〝六昴〟のエイレインがすぐ右隣――キルエラが座っていた席に腰を下ろし、料理をつまんでいた。

 さらにその向こう側――ヤンコフが座っていた場所には、ヘルダンが腰を下ろした。


「坊主、相当タフだなぁ」

「……そうみたいですね。魔力の回復力も早い」


 その言葉には、サザミネが答えた。


「だが、魔力酔いにさせるとは……」

「こっちも予想外のことだったんだぞ? 怒るなよ」


 そして、ホルンとクキの席にゴウンドとラルグがそれぞれ座り、このテーブルにある全ての席が埋まった。


(……何で、集まってきた?)


 各チームのリーダー――それも実力者ばかりが集まったためか、テーブルの近くから冒険者たちが消え、騒ぎの中にぽっかりと穴を開けていた。それぞれのチームメンバーは、クキの大食い勝負や各テーブルで各々に楽しんでおり、他のチームの冒険者たちでは、この面子の中に入りづらいのだろう。

 席が埋まった直後にこの場を離れるわけにもいかず、ジョッキに手を伸ばして喉を潤してからギルは口を開いた。


「アイツのことは自業自得だ。……役目は分かっていたが、二人の能力に感化されて突っ込んでいったようだからな」

「俺たちか? 別に変わったことはしていないが……」

「……そうですね」


 ラルグは片眉を上げてサザミネを見ると、サザミネは頷いた。


「高位冒険者の実力を見て、黙っていることが出来なかったんだろ」

「ふぅん……血が騒いだってことね」

「一応、俺が行くまでは我慢していたから、お咎めはなしにしてもらいたいんだけどな」


 ちらり、とクキを見てから、ギルはラルグとサザミネ、ヘルダン――第一班のメンバー――に視線を向けた。


「……お咎めも何も、戦況が良い方向に変わるキッカケになったんだ。感謝はするが、咎めるつもりはない」

「君の支援も完璧だったよ」

「アレを見たらなぁ」


 三人から否定の声が上がったので「そう言ってもらうと助かる」とギルは苦笑した。


「アイツには、よく……言っても聞かないが、連携については叩き込んでおくよ」


 その言葉に納得し、三人は笑った。「……そういえば」とヘルダンが声を上げ、


「〝オリオウ(君たち)〟のチームランクは、いくつなんだ?」

「そうだな。いきなり錫杖(アレ)を出されたから、聞く暇がなかったな」


 ラルグはジョッキを置き、ギルに視線を向けた。


錫杖(アレ)ねぇ……支部長は、貴方たちの実力を知っていたみたいだけど?」


 三人の視線を集め、ギルは少し眉をひそめた。ランクを知っている残りの二人に視線を向けると、サザミネはジョッキに口を付けて口を閉ざし、ゴウンドは目を伏せていた。

 やれやれ、と小さく息を吐き、


「チームランクは――十だ」

「!」


 ラルグは片眉を跳ね上げ、エイレインは「えぇっ!」と驚いた声を上げた。


「ランク十でランク三(ラルグ)に噛みついたのか?」


 目を丸くしたヘルダンにギルが頷くと、一瞬の間があった後で「がっはっはっは」と笑い出した。

 その声に周囲から視線が集まるが、すぐに逸らされる。


「あらら。それで実力がなかったら――」


 エイレインは呆れた声を上げ、「ねぇ?」とラルグに視線を送った。


「いや、あの魔力に支部長の様子から、実力は確かなものだろうとは思っていたが……ランク十だとは思わなかったな。もしかして、登録して間もないのか?」


 ラルグにギルは無言で頷いた。


(さすがに結成して十日ぐらいとは言えないな……)


 エイレインは目を丸くして、


「でも、ゴウンドさんやサザミネたちと仕事が一緒だったんでしょ?」

「条件に闇の使い手を入れて、ギルドからギルくんたちを勧められたんだ」

「なるほど。今回と同じなのね」

「それにしても十か……くくっ」


 肩を震わせて笑いをこらえるヘルダンに一瞥を向け、ゴウンドは料理を取りながら言った。


「だが、実力はある。……俺たちは見ていないが〝鵬我鳥(コロナロンバード)〟の番をクキがほぼ一人で討伐したんだろう?」

「え? そうなの?」


 ゴウンドの言葉に目を瞬き、エイレインはギルに視線を向けて来た。


「翼を斬って落としただけさ。……アイツは属性の特性から、陣を研究していたからな。何かと奇抜な使い方をするんだよ」

「なるほど。お前らは学導院にいるのか」


 ギルの言葉に納得したようにヘルダンは頷いた。


「いや。所属しているのはクキだけで、俺はただの目付け役だ」

「……目付け役?」

「あまり、意味はなかったけどな」


 エイレインにギルミリオは肩をすくめた。


「坊主は魔力酔いになっていが、お前は大丈夫だったのか?」

「タフさは同じだ」


 ラルグにギルは苦笑し、話題を変えるためにテーブルの席に座る面々を見渡した。


「……そちらはお互いに連携は慣れているようだったが、何回か共闘を?」

「俺たちは『クリオガ』での活動を中心にしているからな。回数は多いさ」


 その問いには、代表してラルグが答えた。


「一番近いのだと、私たちとヘルダンさん、あとはサザミネたちのチームね。……確か、四ヶ月ぐらい前だったかしら?」


 エイレインの視線に「ああ」とヘルダンは頷いた。


「〝第二の森(マコレール)〟で、異常繁殖した魔物の討伐だったか?」

「はい。あの時は広範囲に広がっていたために、ひと段落着くまで時間がかかりましたね」


 少し眉をひそめ、サザミネは言った。


「その時は〝魔素の淀み(シャンネトル)〟じゃなかったのか?」

「そうよ。でも、無関係ではなかったけどね」

「なら、それ以前に?」

「……確か、半年ほど前の〝魔素の淀み(シャンネトル)〟の影響で生態系が狂い、食物連鎖に変化が起こったのが原因だったはずだ」


 少し考えるような素振りを見せてからサザミネが言った。そうだったな、とヘルダンは頷き、


「調整のために討伐依頼も出たが、奥地だったからなぁ。……異常に気付いた時には手遅れだったのさ」

「その点、〝第三の森(こちら)〟は魔物のランクが低いから楽よね」


 その後は〝森〟の調査依頼について話をしながら料理や酒に手を伸ばしていたが、


「よっしゃぁっ!!」


 突然、最近聞きなれた声が上がった。

 声がした方向に振り返ると、大食い勝負をしていたクキが何かの骨を握り締めながら立ち上がり、雄叫びを上げていた。


「リーダーさん、勝ったみたいね」

「……みたいだな」


 肩を叩かれ、手荒く祝福されているチームリーダーにギルはじと目を向けた。

 ラルグたちもそちらに視線を向けて、


「坊主は戦闘時と普段の雰囲気の変化が激しいな――」


今はただの生意気小僧か、と呟いたラルグに、テーブルにいた全員が頷いた。






         ***






「偶にはバカ騒ぎをして、羽根を伸ばすのもいいな」


 共闘した者たちと魔物討伐の祝いとして、ただ、飲んで食べて騒いだのも数百年振りだった。

 二度あった打ち上げのうち、どちらかといえば討伐に関わった〝杈茨大猪(シュートフォースボア)〟の時の方が印象に残っている。

 一度目は護衛依頼中であったため、完全に羽根を伸ばせなかったのが理由なのかもしれないが。


「それは……大規模な討伐で?」

「いや、ランク五とランク三の魔物だな」


 魔物のランクを聞いて、僅かに目を開くガイアスにギルミリオは笑った。


「ただ騒ぐのが好きなのかもしれないぜ?」


 打ち上げ、と聞いただけで三十人以上が集まってきたのだ。討伐成功を理由に飲んで食べて騒ぎたかっただけかもしれない。


「………」


 ギルミリオは小さく息を吐いて笑みを消すと、テーブルに置かれている布の上に置かれた耳輪を手にし、光にかざした。

 その表面に刻まれた〈魔成陣〉に目を細める。

 クジョウは〈魔成陣〉に込められた〝意味〟――〝何処〟が〝どんな効果〟を示しているのか、その構成を正しく理解しなければ、魔術は発動しないと言っていたが、その意味や名前を知らなかった時でも、耳輪を付けた瞬間に問題なく発動していた。

 

(そういう風に作られている(・・・・・・・)のか、それともこの状態で効果は低下しているのか……)


 恐らく、後者だろう。

 また、〝名〟に重きをおく魔術の特性から考えるに、宿で(後で)魔術具の名前を聞いたことで効果が上がったのかもしれないが。




―――「解析阻害もかけてあるから、いい暇つぶしになるぜ」




 ただ、ついでのように付け加えられた言葉には、苦笑するしかなかった。

 魔法とは異なる〝理〟で発動する魔術を解析しようにも、一切の情報がない中で行うことは――魔術の特性もあって――不可能だろう。

 だが、敢えて解析阻害(ソレ)をかけたということは――。


「……〝アイツ〟とは違うな」


 思わず、漏れた言葉を聞き取ったようで、ガイアスの気配が僅かに揺れた。

 〝アイツ〟が誰を指しているのか、分かっているからだ。

 それはギルミリオがクジョウ以外で出会った、唯一の〝異世界人〟――対戦相手のことだった。

 〝アイツ〟と顔を合わせたのは数度だけで、ゲーム〟開始半年前の顔合わせの時とエカトールとの〝協定〟によって魔界(キアウェイ)を訪れた時――そして、〝ゲーム〟の舞台だった。


(異常だとは思ったが……)


「……殿下?」


 ガイアスの呼びかけに答えず、ギルミリオは目を伏せた。

 『アダナク』でクキがチーム名を〝オリオウ〟と付けた時、「どんな意味だ?」と問うと、




―――「〝ごちゃまぜ〟」




 異世界人、勇者、隠者、侍女、魔族、次期魔王――様々な肩書きがあり、生きてきた環境も立場も思惑も、全てが異なる者たちが集まったチーム。

 確かに〝ごちゃまぜ〟としか言い表すことが出来ないだろう。


「あの子供、予想以上に面白い奴だったよ。………道中は退屈しないな」


 笑いがこみ上げ、肩を震わせるとガイアスは目を見張ったが、


「……左様で、ございますか」


すぐに口元に笑みを浮かべ、小さく頭を下げた。

 ギルミリオは茶菓子に手を伸ばしたところで、エカトールに向かう前に根回しをしておいた事を思い出し、ガイアスに視線を向けた。


「そういえば、あの件はどうなった?」

「姫殿下でしたら、殿下のご助言(・・・)通りに〝将星(シュコア)〟たちを訪問しておられます」

「……そうか」


 〝議会〟で承認されたとはいえ、いくつか牽制は必要だろうと〝ある一手〟を打ったが、上手くいっているようだ。


(だいぶ、時間が稼げるな……)


 ほっとしたのも束の間で「ただ……」と言葉を続けたガイアスに片眉を上げた。


「……何だ?」

「殿下がエカトールに向かわれた理由をお聞きになられたようで、〝あの方〟に少々興味をもたれたようです」

「………もう、漏れたのか」


 普段は政治や外交など興味がないが、こういう時だけは鼻がいい。


「緘口令を布いたが……あれだけ騒げば、耳に入るのは仕方がないか。こっちに戻る様子はないな?」

「はい。そこは問題ありません」

「………なら、いい」


 愚妹とギルミリオの利害は一致している。愚妹が〝将星(シュコア)〟たちを訪問する理由は正当なものだ。戻る気配がないのなら、その訪問先(彼ら)ギルミリオの旅(こちら)のことを気にする暇はないだろう。


(俺たちが魔界(こっち)に来る頃には、上手く混乱しているが――)


 ただ、一つだけ気がかりなのは、クジョウに興味を持ってしまったことだ。愚妹の行動は分かりやすいが、ギルミリオたち(家族)でも御しにくい。


(……その点では、似ているな)


 内心でため息をつき、何か良い手はないかと模索した。




間章〝オリオウ〟の隠者と赤 ~終了~

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