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折り重なる悲劇

 新しく屋敷に来た二人、シスターとクリッサは、私やアリサのように死の淵を彷徨うなこともなく、無事に初夜を乗り越えました。


 それでも精神と肉体の苦痛は大きかったようで、ご主人様(ゴミクズ)が満足して眠りに付いた後迎えに行くと、虚ろな笑顔を浮かべたクリッサがこんなことを言いました。


「あはは……、姫様の言うとおりにしてよかったね、あんなの一人で相手したら、ホントに嬲り殺されてたよ……」


「ええ、そうね……」


 そんな少女の言葉に、シスターは固い表情で言葉少なく頷くだけでしたから、精神的に堪えたのだと思います。


 お風呂場で二人に注がれた獣欲の残滓を洗い流している時、シスターが呟いた言葉が彼女の苦悩の原点なのだと理解しました。

 

「子を授かる営み、そんな生き物として当たり前の営みを、ただひたすらに悍ましいと感じる私は、神を冒涜しているのでしょうか……」


 私は涙を流すシスターに言える言葉など何もなく、ただ小さく震える肩を抱きしめ彼女達の献身に縋る無力さを呪うことしか出来きず、己の行った事の罪の深さ、女として、人間としての幸せを奪う罪深さを、改めて自覚されられました。


「ごめんなさい……、それでも、それでも私は、貴方達に縋ることしか出来ないの……」


 胸にこみ上げた苦く焼けるような自己嫌悪を押さえつけ、疲れ果てた二人の身の回りの世話をして、眠る前に消化の良い物を与えて寝かしつけた後、私は筆を取り大司教様への手紙をしたためました。


「それでも、あの災厄は肉の壁でしか抑えることしか出来ない……。大罪だと自覚しても進まなきゃ……」


 あの欲望を抑える孔を増やすだけで、手段などたった一つしか無いのですから、現実逃避を縋る事など許されない私は大司教様に連絡を取り、新しい志願者(いけにえ)の手配をお願いをしました。


 それから暫くの間、孔が二つ増えた事でご主人様(ゴミクズ)の獣欲の処理は上手く行き、ご主人様(ゴミクズ)は屋敷の中で大人しく怠惰を貪っていましたが、対照的にシスターとクリッサは次第に虚ろな表情を浮かべる時間が増えてゆきます。


 やはり、いくら覚悟を決めていたとしても、自らを省みない相手に毎晩身体を弄ばれる過酷な日々が精神を摩耗してゆき、無限のような体力で持って攻め抜かれている事で体力を奪われ、徐々に思考すらもできなくなるのです。


 それでも、どちらかが体調を崩したり月の物が来た時は、普段は屋敷の采配をしているアリサが穴を埋めることで、なんとか二人の体制を維持していたのですが、とうとうクリッサが力尽き、いよいよ私達は追い詰められてしましました。


 彼女は三人の中でご主人様(ゴミクズ)一番のお気に入り、その小さな身体は毎晩激しく攻めぬかれていましたから、初めに限界が来るのは道理、それでも今回は私の決断が早かったことで、なんとか間に合いました。 


 そう、大司教様が新しい志願者を募り、ご主人様(ゴミクズ)の喜びそうな年頃、十から十四の少女達が四人集めてくださったのです。


 きっと、準備の時間があったのが良かったのかと、私は少しだけ安堵しましたが、彼女達の年長者である少女の携えた大司教様から手紙を読むと、とても喜べる事ではありませんでした。


 彼女達は皆、先の虐殺で家長である父親を亡くし、路頭に迷って居た所を大司教様に助けられた恩を返すため、そして一家の大黒柱を失ったことで収入を得るために(かたき)であるご主人様(ゴミクズ)の生贄に志願しているのです。


 なんという皮肉の効いた悲劇なのかと、私は目の前の少女達の覚悟に深い悲しみを覚えてしまい、同時に自分は死んだとしても、家族が居るであろう所には行けない、そう深く胸に刻みこみました。


 そして本当に無様で無力な情けなく罪深い私が、せめてこれ以上の悪行を積まぬよう不幸な少女達への償いは、彼女達が少しでも乱暴に扱われぬよう、父親を殺した相手に好かれるように心を砕く事。


 ならば出来る限りの事をしようと自分への自虐を隠し、これから四人の少女を不幸にするモノの元へ向かい、まるで餌をねだるネコのように異臭のする腹へと擦り寄って、自分でも呆れるほどに鼻に掛かった声で媚を売り、異界の化粧品や香水が欲しいとねだりました。


「あのね~ご主人様~。私達ね、もっとご主人様に可愛がって貰いたいし、もっと綺麗になりたいって思ってるの。だからあっちの世界のお肌に良い石鹸とか、髪の毛が綺麗になる油とか、お肌を綺麗にするお薬とかたくさん欲しいなって思うんだけど、我儘いっちゃダメですかぁ?」


「ぐふ、最近は大分クリッサも髪とか肌が綺麗になったけど、やっぱメリーが一番可愛いなぁ」


「そう言ってもらえると、最近夜のお相手出来ないメリーは安心しました―」


 私が心にも無い喜びの言葉を作り物の笑顔で告げると、ご主人様(ゴミクズ)は喜ぶ姿に機嫌を良くしたのでしょう、無遠慮な指の動きで私の頭を撫でながら、上機嫌な声で返事を返してきます。


「よ~し、そんな可愛いメリーのお願いだしな、今直ぐに取り寄せ魔法(アマゾーン)で用意してやるよ」


 ご主人様(ゴミクズ)がそう言いながら手を虚空に向けると、ガラフを殺した事で覚えた魔法が発動し、何もなかった机の上に異界の軽くて柔らかい瓶に入った大量の石鹸や化粧品が現れ、それを見た私は苦い気持ちを噛み殺し、媚びた笑顔を作って弛んだ首に抱きつき、油の浮いた頬に口づけをしてから、耳元で感謝の言葉をささやきます。


「流石ですご主人様~、メリーは優しいご主人様だいすきです~!」


「ぐふふっ、俺は最強でやさしいご主人様だからな!この程度はヨユーってやつだ」


 私は暫くの間いつもの感謝の言葉と行動をして、ご主人様(ゴミクズ)が満足する頃合いを見計らってアリサを呼んで、二人で大量の化粧品を、少女達の待っている部屋に持っていく道すがら、アリサから、次の行動についての提案をされました。


「次は彼女達の肌と髪の手入れですね。私はこのままお風呂へ石鹸と薬を持って行きますので、お嬢様は彼女達の案内をお願い致します」


「ええ、お願い。それと髪は私は髪の長さを上手く整えられないし、アリサがお願いね。その間に肌を磨き方は教えるわ」


「分かりました、それではまたあとで」


 アリサはそれだけ言うと、手に入れた異界の石鹸と髪を綺麗にする薬を持って、お風呂へ向かいましたので、私は肌の手入れをする薬を持って部屋に戻ると、すぐに落ち着かない四人を連れてアリサの待つお風呂へ向かいます。


「では、私が髪を、お嬢様は肌の磨き方を教えますから、しっかりと覚えるようにしてください。それがこの屋敷で長生きするための方法です」


 アリサが落ち着いた声でそう言うと、私は彼女達の肌を磨いて、アリサが傷んだ髪を洗ってから長さを整え、手入れのための薬油を馴染ませてゆくのですが、平民の娘である彼女達に貴族の私と、その従者のアリサが下女の真似をするのが信じられないのでしょう。


 彼女達はしきりに申し訳ないと恐縮していましたが、異界の石鹸や髪用の薬は順番や使い方を間違えると肌が荒れ、髪が余計に傷んだりしますので、そう思うならしっかり覚えるように言い含めながら、隅々まで時間を掛けて肌に残る垢を落とし、傷んだ髪を磨き上げ、今度は無駄毛の処理を行います。


 ご主人様(ゴミクズ)は、女の肌というのは産毛が一つもないのが正しい姿だと思っていて、特に脇の毛と陰毛を嫌いますから、全身の毛を処理するために特殊な泡を塗り、異界のよく切れるカミソリで処理しなければなりません。


 脇や陰部など、特に肌の弱い所は注意を払い、細かい部分に剃り残しが無い様に慎重に剃り上げてゆき、最後に確認してから洗い流して、お風呂での作業は終わりですが、その頃には皆疲れ果てていますが未だやる事は山ほどあります。


 肌を磨き、毛を剃った後の濡れた肌をそのままにすると乾燥して荒れるため、まずは異界の柔らかな起毛の布で肌を拭きあげ、直ぐに全身の肌に数種類の水薬を順番通り塗りんで乾燥を防ぎ、肌を柔らかな状態で保てるようにしてから、汚物の好きな香水、どこか作り物のような甘い香水を全身に振り撒いて、漸く夜に向けての下準備の全てが終了です。


 そうして慣れない事ばかりで疲れた表情を見せる少女達を連れて部屋に戻り、今度はご主人様(ゴミクズ)の好みで集めた衣装に着替えさせ、全員が着替えが終わると次はご主人様(ゴミクズ)の人格や物の考え方を教えます。


 まずは基本的な対処、次は気まぐれを起こした時の対処、そして一番重要な怒りに触れた時の誤魔化し方など、シスターやクリッサの情報も踏まえた情報を教えると、いよいよ今日から彼女達を汚す相手と面通しの時間となりますが、やはり相手は人の形をした災害ですから、例えどれだけ万全に準備をしようと、安心できるものではないのでしょう。


「しつれーしますーご主人様ー、これからアリサさんの元でお屋敷で働いてくれる新しい女の子たちを連れてきましたから入っていいですか―」


「おっ、そうか入っていいぞ」


 先程までと明らかに違う私の媚た声と、自分たちの父親を殺した魔王の声を聞いた彼女達は酷く緊張してしてゆき、表情がどんどん硬くなってしまいます。


「大丈夫だからお願い、私を信じて……」


 必要以上に緊張している姿に危険を感じた私は、ご主人様(ゴミクズ)に怪しまれない位の時間だけ、怯える少女たちの手を握って落ち着かせてから扉に手をかけ、獣欲の主に四人の生贄を引き合わせました。


「この子達が新しい子で、皆ね、凄い立派なご主人様の噂を聞いて、ぜひお屋敷で働きたいってきたんですよー」


 シスター達の時と同様、彼女達が汚物の良い噂を聞いて、自主的に屋敷に来たと言う形で話を持っていきますが、やはり村の少女や町娘ですと反応はイマイチのようで、何処かつまらなそうな視線を向けています。


「ふーん、今度の奴らもシェリーやクリッサと同じくらいか……。まぁメリーがSSRなんだろうけど、とりあえずRくらいって感じだし、まぁいいか……」


 相変わらず良くわからない言葉ですが、どうやら準備が功を奏したのでしょう、少なくとも彼女達は及第点を得られたらしいとは理解出来ました。


「いいか、お前らはこの世界のクソ雑魚ナメクジ共じゃなく、世界最強の俺様のハーレムメンバーになる権利を手に入れたんだから感謝しろよ。まぁメリーほどじゃないが、それなりに可愛がってやるさ」


 ご主人様(ゴミクズ)のいつも通り傲慢な言葉に対し、彼女達の媚びと恐怖が入り混じった薄ら寒い声が響いた時、私は大きくなり始めたお腹の重さと悪阻の気持ち悪さ、そして拭うことが出来ない罪悪感に押しつぶされそうになり、思わず口を抑えてしまいます。


「ううぅッ!ご、ごめんなさいご主人様……。なんか急に気持ち悪くなって……、この子達もアリサさんの所で、お仕事の分担をしてもらわないと……」


「メリー大丈夫か?挨拶はもういいから、そいつらに連れてってもらえよ」


「ありがとうございます……、それじゃみなさんおねがいしますね……」


 こうして人の形をした災厄を鎮める為、生贄を送り込んだ罪悪感に胸を焼かれながら、私は生贄の少女達と共に、彼女達が汚される未来の待つ部屋を後にしたのでした。

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