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新しい生贄達。

 獣欲の解消に使われ、裸で床に放置されて弱ってしまったアリサの看病をしていると、昨日三人で話していた時に出できた協力者、シスターシェリーとクリッサの二人が、我が家の門を叩きました。


「お久しぶりですメアリー様。私めシェリーと、我が教会の孤児クリッサ、本日より姫様のお手伝いに参りました」


「よく来てくださいましたシスターシェリー、それとクリッサ。ですがもう私は貴族の娘ではなく、魔王に買われる奴隷。そのような礼など不要ですから、どうぞただのメリーと呼び捨てにしてくださいね」


「いえ、私達にとってはメアリー様は高貴なお方、そのような無礼は魔王の前だけで十分だと思いますわ」


「そうそう、あたし達は姫様のために来たんだもん、だから姫様はどんな風になってもさ、あたしらにとって姫様は姫様だよ?」


「あなた方の気持ち、何物よりも嬉しく感じますが、やはり普段から徹底しておかねば、何処でぼろが出るかも分かりません、ですからそのお気持ちだけで十分ですし、これからやって頂く事を考えれば……」


 私を貴族の娘として敬愛してくれる二人に向けて、そんな風に枕を置いてから、自身やアリサがアリサが嬲り者にされ命を失いそうになった事を、これから二人に行ってもらう作業のあらましを、出来る限り言葉を選ばずに正直に説明を始め、あの恐ろしい獣欲を押さえつける作業は一人では危険だと思い知らされた私は、今日から作業を行うには、初めから二人で立ち向かう様にお願いしました。


 私の話を聞いたシスターは顔を覆いながら、何度もかぶりを振りますが、私やアリサが文字通りに嬲り殺されそうになったのだと聞くと、諦めの笑顔を浮かべ納得してくれました。


「夜の営みを二人以上で行うなんて、なんて破廉恥な事でしょう……。ですが魔王の贄になると決めたのですから、そのような扱いを受ける日も来るとは思っておりましたが、初日からというのは、少しばかり予想外でしたわ……」


 私の言葉を聞いても大して驚きがなかった年下の村娘は、シスターの語るもっともに感じる愚痴に対し、明るい笑顔を浮かべて口を開きます。


「あはは、シスタシェリーってば、本当に夢見がちで奥手だもんね~。たしか白馬に乗った素敵な騎士様と綺麗なお花畑で口付けをして、永遠の愛を交わすのが夢だって言ってもんね!」


「もう、貴方って子はっ!こんな時に姫様の前でそういう事を言うなんて酷いっ、あとで覚えていなさいよ!」


「嫌です―、シスターの長ったらしいお説教はお断りですよー。でもシスターは村の生活知らないんだろうけどさ、村じゃ収穫祭の後って大人の人はみんなで盛り上がってたよ?」


「それはそうかもしれませんが……、やはり男女の愛というのは神聖なものですし……」


 年下の少女のあけすけな言葉に対し、信心深く厳格な貞操感を持つ年上のシスターは反論を述べようとしますが、男女の営みを知るクリッサは、乙女の幻想を壊さんばかりの言葉を口にしてしまいます。


「シスターの気持ちも分かるけどね、やっぱ女の初めってさ、男がどんだけ優しくしてくれても痛くて苦しいんだよ、あたしも色んな人から聞いたし、実際に見たりしてるから間違いじゃないよ」


 クリッサは婚期の早い村育ちの娘ですから、私達よりも随分と男女の夜のことに詳しいらしく、シスターよりも覚悟も余裕もある、そんな風に私には見えます。


「それは、確かにそうなのでしょうけど……、ですが、せめて最初くらい、まともに……」


 そんな年下の少女が語る現実に、シスターは俯きながら呟く様に言葉を並べてゆきますが、クリッサは徐々に無表情なり、暗い現実を語ります。


「あたしは魔王みたいな男に抱かれるんだったら、姫様に従った方が身のためだと思う。だって姉さんの気が触れたも、私を庇うため一人で野盗共の慰み者になったせいだしね……」


 彼女の村は魔物に襲われ壊滅し、逃げ延びた数名の子供たちは、徒歩でこの街を目指して来ましたが、辿り着いたのはクリッサだけ。


 この私より小さな身体は、私達の想像に絶する様な恐ろしい状況を見てきたのでしょう。


「あたしが村で一人だけ生き残ったのって、きっとこの時のためなんだって思う、だから姫様はあたしの身体の事なんて気にしなくていいけどさ、一つだけ姫様にあたしはお願いがあるんだ」


 つい先程まで、明るく朗らかだった彼女の言葉は、何処か暗い決意が滲むようなものに変わり、私達は言葉をつなぐことができなくなりました。


「これ以上さ、魔王や魔物たちに、あたし達みたいな怯えずに済むようにして欲しいんだ、そうしてくれるなら、あたしは何時死んでもいいし、魔王に殺されたって構わない」


 私はいつしか、自分が世界で一番辛い目にあっていると錯覚していたのでしょう、少女の語る犠牲者の最後を聞き、彼女の要求とすら言えないだろう願いを前にして、私は頷くことしか出来ませんでした。


「貴方の願いは解りました……。貴族の娘メアリーは死んでしまいましたが、同じ苦しみを知る一人の人間(メリー)として、私達と苦難に立ち向かおうとするクリッサの願いを叶える事を誓いましょう……」

 

 目の前の少女が発した言葉というナイフは、自らが不幸であると思い込んだ私の驕り、そんな心に生まれた贅肉を削りとってくれたのだと思います。


「ありがとう姫様……、その言葉だけで、あたしの村の人達は無駄死じゃなかったって、少しだけ報われたって思えるよ……」


 ご主人様(ゴミクズ)の欲望を抑えるため、私のよりも小さな身体を犠牲にするクリッサが、泣き笑いの表情で私に感謝を述べ、今は亡き人々への思いを巡らせて、部屋中を沈黙が支配してゆきますが、ベッドで横になっていたアリサがゆっくりと起き上がり、言葉を発したことで沈黙は打ち破られました。


「では……、お二人は湯を使って身体を清め、髪や肌の手入れをしていただきましょう、あの贅沢で醜い肉玉は気まぐれですが、少なくとも気に入った者は殺さない程度には愛着を持ちますので……」


 起き上がったアリサは、いつも以上に肌が白く、まるで死人か幽鬼のような儚さを持っていて、私は思わず手を握って彼女を存在を確かめます。


「アリサ、もう起きて大丈夫なの?無理はしてはいけないわ……」


「お嬢様、ご迷惑をお掛けしましたが私はもう大丈夫です。ですが、お二人にはどうしても話しておかねばならない事がありますので、今は話を進めさせて頂きとうございます」


 心配する私に対して、彼女はやんわりと制止の言葉を述べて来たので、自分の気持を抑えてから話の続きに耳を傾けます。


「どうやらあの肉玉にとって、私のような年齢の者は年増という扱いのようですので、シスターも同様の扱いを受けるでしょうから、もしもシスターがお一人で対峙すれば、性欲が収まった後に床に打ち捨てられる恐れがあるでしょう」


 アリサの語るご主人様(ゴミクズ)の行動は、あの獣にとっては幼い女以外はどうでもいい存在であるという事を再認識するもので、自然と室内には緊張した空気が漂い始めました。


「やはり幼いクリッサさんに頑張っていただき、シスターにはクリッサさんが壊されぬ程度に手伝う形にするのが良いと私は思いますし、やはりお二人はお嬢様程は肌や髪の手入れが行き届いておりませんでしょうから、少しでも被害を抑えるためには今のうちに綺麗にしておく方がよろしいでしょう」


 私から見てもアリサの肌や髪は十分に手入れをされていると感じますが、それでもあの重欲の塊は満足しない暗に伝える彼女の言葉に、クリッサは自分の髪をいじりだし、シスターは顔を白くしてゆきます。


「要するに、あの部屋で惰眠をむさぼる存在は、自分の趣向に合わぬものなら死んでもいい、代わりなどいくらでもあると考えている外道ですから、お二人が無為に死なぬよう、精一杯の準備をするべきだと進言いたします」


「アリサさんの命を賭した助言ありがたく思います。では早速お風呂へ向かって肌と髪を磨いてまいります」


 シスターシェリーはそう言うと、隣で自分のくせっ毛を弄っていたクリッサの腕を掴み、勢い良くドアへ向かって歩き始めます。


「さぁクリッサ、お風呂にゆきますわよ!貴方のぼさぼさな髪を何とかしないと、私達の命は今日でおしまいになりますからね!」


「わかった、わかったから引っ張らないで!身体くらい自分で洗えるよ、シスターっ!」


「おだまりなさい、貴方のお風呂嫌いなのくらい知ってます。ですから今日からは、洗い漏れもないよう、私がしっかり磨き上げてあげます!」


 お風呂を嫌がるクリッサが、シスターの細い腕でどんどん引きずられるように扉へと連れて行かれ、そのまま廊下へと消えていきました。


 ころころと変わってしまう二人の力関係、そんな姉妹のような二人を私微笑ましく感じたのと土曜に、アリサも感じたのでしょう、久しぶりに笑顔を楽しそうに微笑むアリサを見て、私は賑やかな二人の勇気と献身に感謝を感じつつ、帰りを待つことにしたのでした。

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