それでも私は異を叫ぶ。
縮まってゆく星空、迫り来る光の全ては、別の世界だった。
それこそ世界は数え切れないほどあって、私達の住む世界は、別の世界に住む人たちの娯楽のために、誰かを喜ばせるために、たった一人が幸せになるために消費されていく事が運命づけられた。
彼らがこうであって欲しいと願う、彼らがなりたいと思った自分。
そんな彼らの願望を注ぐ器に選ばれたモノが主人公。
彼らが望めば、それこそどんな酷いことでも、どんなに多くの人を犠牲してでも、主人公の夢が叶う世界、その生贄に選ばれたのが私達の世界だった。
そして私はこの声を知っている。私は未来を変えたいと願った、けれど私一人の望みは多くの声に掻き消され、今ここで潰えようとしているのだと、この時になって漸く気が付きました。
『どうした?なんか怖い顔になっているよ?』
眼前の終わりを迎える前になって、漸く思い出した事実。
私はこの終わりを認める訳にはいかないと、無数の光の渦を睨みつけますが、相変わらず他人の生き死になど五分後には忘れて居るような、酷く優しげでとても冷たい声が、私を心配しているフリをして問いかけてきます。
『大丈夫だよ、痛い事も悲しい事もない。君は選ばれた奴隷ヒロイン、彼を奴隷として喜ばせる存在だ、だから君がNTRされたり不幸になるのはは望まないし、君には幸せが約束されているんだよ?』
「人としてではなく、奴隷としての幸せ。それも誰かを犠牲にした幸せなど私は望まない。たとえどんなに辛い未来が待っていたとしても、誰か一人しか幸せに成れない世界なんて、私はいらない!」
脳内に響く誰かに向けて、初めて明確な異を唱えると、私の鼻の先まで迫ってきていた光の渦は動きを止め、神を気取った何かは、何処か呆れたように、けれど、どこか嬉しそうに語りかけてきます。
『ふぅん凄いね、君は未だに折れないんだね。まぁ少し遅かったけど、それでも約束は約束だから今回はセーフにしてあげる。だけど今回僕が譲ったんだから、次回の後出しは許さないからね?』
私は声の主と交わした約束の内容を覚えてすら居ませんが、少なくとも先程聞いた内容、私の心が折れない限り、私の心を他の世界の何かが望む形に変えないと、声の主は言っているのだと理解しました。
『君がどこまで有限の身でニナ・ロウヲ=ヨモゥの望みに抗えるのか、僕はもう一度見せてもらおうか、もしも君が僕の期待に応えてくれるなら、次に会う時は君の命の炎が尽きた時がいいね』
「そう……、なら私、貴方の言う大きな流れに逆らって、それこそ最後まで抗ってあげる……、あんな汚物に世界を好きな様になんか、絶対にさせてあげないわ」
『ハハッ!そいつは良い!とっても素敵だね!僕は特等席でこの喜劇を見られるって訳だね、うれしいなぁ、楽しいなぁ!』
私が明確な拒絶を示すと、僕という声の主が、初めて他人事ではない喜色を滲ませて声を弾ませます。
『それじゃお別れだねマリー……、いや、今はメリーだったね』
その声を最後に世界は再び暗転し、私の意識もまた、深い闇の中に沈んでいったのでした。




