奴隷ちゃんはおねぼうさんの巻。
醜い肉塊に押しつぶされながら、獣欲の限りに内臓をかき回されて、屈辱と激痛、押しつぶされる苦しさで意識を手放しましたが、次の刹那、私は意識を無理矢理に覚醒をさせられました。
傍若無人なご主人様の振り回す力の一つ、回復魔法という力は恐ろしい事に、人間の精神も自由に操れるものであると、私は自らの愚かさの代償に知る事となりました。
醜い欲望によって乱暴に扱われ、壊れかけた身体と陵辱にすり減った精神は、幾度と無く正常な状態にされますが、獣欲に侵されて弱った精神を元に戻されたとしても、私の中にはそんな状況に追い込まれた記憶は、全てそのまま残っています。
そうした心身の傷が治ったからっと言っても、陵辱自体は続くのです。
だからご主人様の魔法の力で正常に戻される程に、私の心へ刻まれる傷が増えていき、幾度と無く発狂しては正気に戻される地獄を、ご主人様の下で一晩中彷徨っていました。
いつまでも終わらない拷問の中、自分を削りとって壊そうとする破壊槌を見つめ、激しく腰を打ち付けてくる醜い悪意の塊を眺めて、何故こんな恐ろしいモノに抗っていたのだと、私は自ら愚かさを呪いました。
そして、こんな無力で脆い私では元から敵う筈が無かったのに、どうして私はこんな恐ろしい化け物に、一人で抗おうとしたのかと、自らの無謀をて考え続ける地獄に沈んでいったのです……。
そうやって無限とも思える時間の中、自分を愚かさを呪っていると、やがて激しく打ち付けられていた筈の何かはどこかに消え去って、代わりに愚かで矮小な私の耳に、誰かが泣く声が、誰かの怒りの声が、聞こえてきました。
「……様っ!お……様!」
誰か私の事……、呼んでいる、お願い……、今は、今だけはもう少し寝かして欲しい……、もう限界なの……。
「お嬢様っ、後生ですからどうか起きてくださいっ!」
今度ははっきりと聞こえた声、これ、だれだっけ……。ああこれは……、アリサの声ですね……。
きっと寝坊した私を、今日もアリサが起こしてくれているのでしょうけど、今はもう疲れて起きるどころか、瞼を動かす気力すら残っていません。
ごめんねアリサ……。貴方に今までいっぱい迷惑をかけてきたけど、また今日も迷惑をかけそうね……、 だってアリサはこんなに一生懸命起こしてくれるのに……、私これっぽちも起きる気が起きないわ……。
「お願いですからっ、お願いですから……、どうか息をしてください!私をっ、一人にしないで……、ください……」
本当にダメな主でごめんなさい……。
そうして私がアリサに自分の不甲斐なさを謝ると、辺りは急に暗くなって、苦しさも辛さも全てなくなって、まるで眠りに落ちる時みたいに安らかな気持ちになってきました。
やっぱり私は起きれないんだなと、そう思った時、何処からかお父様の声が聞こえて来ました。
『私達の愛しいメアリー、お前はまだこちら来るには早い、だから早くアリサのところへ戻りなさい』
いつもの優しいお声と違う、少し厳しいお父様の声、きっと私のだらしない姿を見て少し怒ってるのかもしない、そう思って私は自分が答えます。
『お父様、私ね、いっぱい頑張ったのよ? なのに起きられないの、それでもまだ起きなきゃダメなの?』
起きる気の湧かない私が、お父様へドレスをおねだりした時のように問いかけると、今度はお母様の声が聞こえてきます。
『それでも起きなければいけません、私のかわいいメアリー、お願いだからどうかお父様を困らせないで……』
いつも私の味方になってくれたお母様がそう仰るなら、多分お父様だって許してはくれないし、私は仕方なくもう一度起きようと瞼に力を入れてみます。
次の瞬間視界が一気に広がって、、登ったばかりの朝日が闇を焼き、胸を締め付けられるような苦しさで、私は思いっきり咳き込みました。
「ガフッ、ブフッ!」
光に奪われていた視界が戻ると、目の前には涙で頬を濡らしたアリサの顔がありました。
「良かった……、本当に良かった……」
ずっと、一晩中私を呼びつ付けていたのでしょう、アリサの声は少し枯れていました。
「ア、リサ……」
喉の奥が貼り付いて、上手く声を出せないので、アリサはますます泣いてしまいます。
「お嬢様……、お願いです、もう二度と私を置いて行かないでください……」
そんな彼女の涙を止めたくて、泣き虫だった幼い私にアリサがやってくれたように、流れる涙を拭ってあげようとしますが、震える手は借り物の様に定まらなくて、アリサの手のように様に上手く出来きなくて、。そんな不器用な私の手を、アリサ柔らかい頬と働き者の彼女の手のひらが、しっかりと受け止めくれました。
私は温かい彼女の手が大好きで、二人で出かける時は手を繋ごうと、いつもねだっていたのを思い出し、そんな彼女に心配を掛けた不甲斐なさが、私の口から言葉になって溢れてきます。
「ダメな主でごめんね……、ずいぶん心配かけちゃったわ……」
そんな私の言葉に、彼女は汚物の吐き出した粘液まみれの私を抱きしめ、とても苦しそうに嗚咽と共に、言葉を重ねていきます。
「私はっ、お嬢様が生きていて下さればッ、どんなに辛くとも、それだけ私は幸せです……。ですから、どうか私を、アリサを終生お嬢様のお側に置いてください、それだけが、それだけが私の願いなのですっ!」
アリサの言葉はまるで、幼いころに聞いた古い騎士のお伽話、そのお話のお姫様に騎士が愛を捧げた時の言葉のようで、私は少しだけ可笑しくなって笑ってしまいました。
「ふふっ……、アリサって本当にお馬鹿さんね……、私って、何もかも失ってしまった貴族の小娘なのよ?」
「私にとって、お嬢様はお嬢様です! 何もないなどと言わないで……、お嬢様にはまだ私が居ますから……」
私を抱きしめるアリサの腕に力が篭もり、少しだけ苦しいけれど、ご主人様に抱きしめられるの違って、とても暖かい気持ちになります。
「でもね、私に最後まで付き合ってもきっと、貴方にいいことなんて何も無いわ……。それでもいいの……?」
「私はもうお嬢様から、一生分の幸せを頂いているんです……。ですから、私はどこまでも、いつまでもお嬢様のお側で、お嬢様の幸せを願って生きていきたいのです……」
その言葉を聞いて私は、どうしてお父様とお母様が此方にいなさいって言ったのか、漸く理解が出来ました。
私にはまだ貴族としてやること、残された人々を導き救う使命が残されていて、そして捧げられた献身に応える義務が残っているのだと、そう理解が出来たのです。
「ありがとう……、だけど私ね……、こんなうまくいく保証なんて全くない策に縋ってるから、多分、近いうちに貴方を地獄に巻き込むと思うの……」
だからこそアリサは遠ざけたかった、その気持を込めて、私はアリサ問いかけます。
「お嬢様が望むのなら、私はどんな所でも……、例え地獄でも参りますわ……」
ものすごく愚かな選択をしてしまうアリサ、彼女の選択した答えは、確実に私がそう選ばせたのだと、誰に言われなくとも私自身が一番理解できます。
「そして貴女一人じゃなく、他にも沢山の人を同じ地獄に連れて行くわ……。そんな稀代の悪女になる私でも、アリサは信じて付いて来てくれる?」
「お嬢様が悪女と言うのでしたら、私は魔女に使い魔が居るように、アリサは悪女の召使いになりましょう、きっと二人なら地獄だって生きてゆけますわ……」
「ふふ……、本当にアリサって、お馬鹿さんだったのね……。これだけ言って聞かないなら、もう後で後悔したって私は知らない……」
そういって私は、彼女の忠義に応える術など何処にもないのに、アリサの全てを抱きしめて彼女を縛りました。
けれど捧げた思いに嘘は何処にもないアリサは、黙ってそれを受け入れて、私にその全てを委ねてくれました。
こんな不器用で歪な主従なんて、きっと世界の何処にも居ないと思います。だけど、そんな特別な二人なら上手く行くかもしれないと、暗く淀んだ自らの策をもう一度信じて、自らの崩れかけた心の中で決意を新たにし、冗談めかしてこう言います。
「じゃあ、まずは汚れた身体を何とかしないとね、これじゃ何処にもいけないわ」
私が明るくそういうと、悪女の召使は微笑んでこう言い返します。
「はい、では精一杯お嬢様のお体を綺麗にします、これが悪女の召使いアリサ、記念すべき最初のお勤めですね?」
そうして私とアリサは小さな悪戯するような軽口と、互いの額を重ね、本当に久しぶりに心から笑いあってから、これからのご主人様の扱いについて、もう一度詳しく話し合い、身体に纏わりつく汚れの全てを、疲労とともに洗い流してもらったのでした。




