[5.3]【結納・結婚式編】[主賓・親族]の和装
引き続いて[身内(親族)]および[主賓]として結婚披露宴に参列する場合の和装についてです。
この二組は「立場」は大きく異なるのですが、「衣装」の方はほとんど同じですので、一話にまとめてご紹介します。
まずは[主賓]の場合です。
結婚披露宴における[主賓クラス]は二パターンあります。
・『もっとも上位の招待客』という、本来の意味での「主賓」
・『結婚の媒酌人』という立場での「主賓」
それぞれの「和装シチュエーション」について、簡単にご紹介してゆきます。
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◆【仲人】の立場で「結婚式」に参列する場合の和装は、どんなの?
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【媒酌人】は、いわゆる【お仲人】さんです。『月下氷人』などという、雅な呼ばれ方をすることもあります。
元々、見合いや結納、結婚式を取り仕切る「世話役」的な立場の方ですが、近年のように恋愛結婚が主流になってきますと『結婚披露宴というイベントのパーツ』程度の扱いかも知れません。
それでも、「仲人」となった場合は、披露宴などの場において新郎新婦と並んで「高砂」という雛壇に座し、新郎新婦を除くと最上位の立場として、挨拶その他の様々な役割を果たすことになります。
現代において「仲人」をつとめるのは、多くが新郎(もしくは新婦)の恩師、上司、地域の顔役などです。必ず【夫婦】でつとめます。
そんな「仲人(媒酌人)」の衣装ですが、現代においては【男性は洋礼装(タキシード/モーニング)】、【女性は和礼装(黒留袖)】が主流です。
時折、男性側も和礼装(黒紋付羽織袴姿)のことがありますが、【新郎と同じ衣装になってしまう】ことを避けるため、あえて洋礼装を選択する場合もあります。あと、“社会的立場のある壮年以上の男性の黒紋付羽織袴”は、迫力満点?なので避けることも……“筋者”に間違われないように?
女性の場合、多くが「和礼装」です。つまり既婚者の第一礼装【比翼付き、黒留袖】です。
女性側が洋礼装の場合もありますが、男性とは逆で【新婦のドレス姿を引き立たせるため】に和礼装を選択することが多いようです。「仲人夫人」の場合、洋装の方が珍しいですね。
要は、男女とも【黒をベースとした、第一礼装だけれども派手さの少ない衣装】ということです。
ということで、実際の「仲人衣装としての和装」についてです。
男性の場合は【黒紋付羽織袴】です。
染め抜き(「日向紋」と言います)の五つ紋入り黒羽二重の長着と羽織に、仙台平の袴。足下は白足袋、畳表の白鼻緒の草履。帯には末広(白扇)を差し、羽織紐は礼装用の白房紐です。
これは『礼装としての固定パターン』ですので、バリエーションは一切ありません。違うのは家紋くらいです。
ということは、和装ウェディングで新郎も和装の場合……全く同じ姿の二人が高砂に並ぶことになります。親戚だったりすると、家紋まで同じ……なんてことも。でも、いいのです。それが「礼儀」です。
女性の場合は【比翼付き、黒留袖】です。
男性と同じく染め抜き日向紋の五つ紋入り黒羽二重の黒留袖に、留袖用の金色主体の錦織の袋帯を締めます。帯揚げは白一色、帯締めも白か金の平組です。足下は、白足袋に白鼻緒の金草履が基本です。
また、帯には「末広」(男性用と違う、金地黒骨の扇)を差します。この末広は「広げて使わない」ものです。基本は帯に差しっぱなし、よくて写真撮影の時などに手で持つくらいでしょうか。キャラに仰がせないよう、ご注意下さい。
ところで、ここで出てくる【比翼付き】とは何でしょうか?
これは、一種の「伊達飾り」です。
かつての装束は『重ね着するほど格が高い』扱いであったこと、また『おめでたいことが重なるように』という験担ぎもあって、第一礼装として着用する留袖(黒/色、とも)の場合、衿・袖口・裾・袵(前合わせの重なる部分)に【重ね着しているように見える、白い別布】を付けます。これが【比翼】です。
襦袢とは別ですので、襟元は『襦袢の衿→比翼衿→実際の衿』の三重に見えます。
黒留袖はその名の通り『地色が黒』ですので、襟元と袵を飾る白い重なり部分はキリッと引き締まって見えます。……ということは、無いと目立ちます。文章描写なら無問題ですが、絵で書かれる場合にはお気を付けて。
現代において、留袖は基本的に「慶事の礼装」として着用することばかりですので、もともと柄行きについては【吉祥柄】がほとんどです。よって【黒留袖】であるならば柄については気にしなくても大丈夫でしょう。
あえていうなら、鶴亀や松などの古典的な吉祥柄がいいですね。松竹梅や鴛鴦も「仲人」らしくて良いと思います。
さて、「媒酌人(仲人)」として和装で式に参列する場合。
結構、忙しいです。
男性側は、開式の挨拶やら、場合によっては締めの挨拶やらを行いますし、女性側も歓談の際には男性と一緒に主賓クラス招待客の挨拶対応に追われます。また、一般的には最後の「お見送り」の際に、新郎新婦と共に出口に立ってご挨拶です。
立ったり座ったりの動作が意外と多い、仲人さん。新郎新婦は「お色直し」などでの中座機会がありますが、仲人の休憩時間は殆どありません。
また、「媒酌人」の名の通り、招待客とのお酒の注ぎ合いがお仕事です。和装の場合、袖が邪魔にならないような、エレガントな動作でのお酌が求められます。
……えっと……頑張って下さい!(え?)
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◆【主賓】の立場で「結婚式」に参列する場合の和装は、どんなの?
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つづいて『もっとも上位の招待客』という、本来の意味での「主賓」での参列についてです。
この場合は、基本形は一般参列者と同じですが、少しだけ「格」を上げる方がよいでしょう。具体的には、男性なら「黒紋付」でも構いませんし、女性なら訪問着でも良いのですが『色留袖』が良いですね。
やはり男性側が和装するケースは稀ですので、ここは主に女性の『色留袖』について。
【色留袖】は、未婚・既婚を問わない【女性の第一礼装】です。地色が「黒」ではないだけで、その他のルールは全て「黒留袖」と同じです。
つまり、第一礼装として着用するなら【比翼付き】がベストです。
後述しますが、【黒留袖】は主に「仲人」と「親族」が着用するため、それ以外の【主賓招待客】であるならば、黒留袖は避けた方が無難です。
昨今、金銭的負担や収納なども踏まえ『色留袖』まで誂えているケースは数少ないので、自然と主賓クラスの和装も『訪問着』が主流です。しかし、せっかくの物語世界です。現実のアレコレはおいておいて、ここぞとばかりに【色留袖】を着せてみてはいかがでしょうか?
「主賓」は《招かれた側》ですので、どちらかというと『指定席から動かず、新郎新婦の身内、他の招待客その他からの挨拶を受ける』立場になりがちです。その場での立ったり座ったりの行動が多いですね。やはり「お酌」が多くなりますので、コップの受け渡しなどの動作をエレガントに行えるよう、練習しておきましょう(?)
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◆【身内(親族)】の立場で「結婚式」に参列する場合の和装は、どんなの?
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最後に、身内編。
結婚披露宴に参列する「身内・親族」は、以下の二パターン。
・「新郎新婦の両親・兄弟姉妹・甥姪」といった、直接的な家族
・「新郎新婦の伯父母・叔父母、従兄弟姉妹」といった、いわゆる親族
【両親】の場合。
必ず、第一礼装です。
和装なら、男性は【黒紋付羽織袴】、女性は【比翼付き黒留袖】です。
これは仲人さんと同じです。
【兄弟姉妹・甥姪】の場合。
男性の場合、和装することは殆どありません。
女性の場合、既婚なら【黒留袖】、未婚なら【振袖】もしくは【紋付き訪問着】です。年齢や結婚式の規模によっては【色留袖】や【紋付き礼装用色無地】でも構いません。
一般招待客よりは、やや格が高い装いがよいでしょう。「振袖」以外は【紋付き】が望ましいです。(「黒留袖」以外は、一つ紋もしくは三つ紋)
「黒留袖」以外において、色柄はあまり派手にならない方がよいでしょう。特に新郎側の姉妹や姪の場合、新婦側よりも抑え気味にするケースが多いです。……なんのかんので、結婚式は「新婦側が、派手さにおいて優位」だったりするんですよね、理不尽ですが。
例えば『叔父さん大好き!な姪っ子』や『ブラコン全開な妹(姉でも可)』キャラに、《花嫁衣装もかくや!》と言わんばかりの派手な黒系の大振袖を着せたりすると……ちょっとばかり(?)新婦側の目が厳しくなることでしょう。それもまた、定番のドラマですよね。昼メロの世界です。
結婚式だって、創作世界ではシチュエーションの一つ。
衣装一つで、ヒューマンドラマが盛り上がりますよ。
【伯父母・叔父母・従兄弟姉妹】の場合。
やはり男性側が和装することは殆ど無いでしょう。キャラ設定として『伝統芸能などに携わる』なんて立場なら別ですが。
女性の場合、伯・叔母の場合は【黒留袖】か【色留袖】でしょう。【紋付き訪問着】でも構いませんが、パターン的には『新郎新婦の父母と同じ格好』が無難です。
従姉妹の場合は、未婚なら【振袖】、既婚なら【訪問着】が無難ですね。結婚式の規模によっては【紋付き色無地】でも大丈夫です。
一般的に、親族席はどうしても『黒系の衣装』が多くなります。男性陣は黒の礼服、女性陣も黒留袖ですので。よって、「従姉妹」には“色つき”の和装を求めてくるケースがあります。
おめでたい席ですので、テーブルの彩りとして【華やかな色の振袖や訪問着】を着用すると、きっと喜ばれることでしょう。……ただ、姉妹・姪と同じく、花嫁側よりはちょっと控えめに。
ところで、姉妹間における『着物比べ』は意外とシビアに存在します。
特に昭和の年代の方ならば、『花嫁道具として、留袖を婚家に持っていく』のが定番だったこともあり、レンタルではなく自前で持っているケースが多いのです。
その結果……『お姉ちゃん/妹の方が、よい留袖を準備して貰ってズルい!』という、二~三十年経ってなお再燃する【姉妹間の愚痴】が、結婚披露宴の控え室では散見されます……ええ、女性のファッションに対する恨み、恐ろしや。
新郎新婦ほったらかしで、末席親族テーブルや控え室で突如巻き起こる『その留袖、ズルい!』という年甲斐のない争い。結構“リアル”かも知れませんよ?




