[5.2]【結納・結婚式編】[参列者]その弐:色柄・振る舞いなど
“不穏”と言えば、気をつけたいのが「色柄」のお話。
[4.2](浴衣編の色柄説明)において一部お話済みですが、和装の世界は「柄」に煩い世界です。
復習を兼ねますが、大原則として「季節は少し先取りし、基本的に季節を過ぎた柄は着用しない」というルールです。花鳥柄など、ボタニカルなものの場合、特に厳しくなります。
しかしながら。礼装の場合は、それほど厳しくなりません。
というのも、もともと「礼装用の訪問着」などは『あまり季節を気にしなくても良い柄』が描かれることが多いからです。逆に『季節を選ぶ、写実的な柄』の訪問着は「洒落訪問着」などと呼ばれ「礼装扱い」されないことが多くなります。
礼装シーンで着用する訪問着などの絵柄は、多くが【吉祥柄】(吉祥文様)と呼ばれる『あまり季節を問わない、おめでたい縁起物の柄』です。代表的なものとしては「鶴亀」「松竹梅」「七宝柄」「鴛鴦」「四君子」などです。
そのうち、結婚式などの慶事により一層相応しいものとしては、夫婦和合(夫婦が仲良く過ごす)の象徴である『鴛鴦』や、長寿の象徴である『鶴亀』などです。とはいえ、大抵の振袖や訪問着などの柄は「慶事向け」の柄ですので、基本的に無問題です。
器物などでは「宝尽くし」や「御所車」「檜扇」「熨斗」などが定番です。
和装文様の多くは大陸伝来のモノですが、日本独自のモノも幾つかあります。拘りたいならば、花木なら『橘』、器物なら『御所車』あたりが日本固有の吉祥文様の代表格です。
それぞれの「吉祥文様」について語り出すとキリが無いので、逆に『要注意』『NG』な柄についてだけお話します。
訪問着の場合、気をつけていただきたいのが「写実的な花柄」の場合です。
先に述べた通り『季節を外さない』というルールは、写実的な柄の場合厳しくなります。同じ「桜の花」柄であっても、文様のようにデザイン化されていれば「国花の通年柄」として年中着用できますが、写実的な桜の場合、春先のみの着用です。
「写実的」な柄として存在しやすいのは、桜・梅・菊・百合・薔薇あたりでしょうか。このあたりは油断大敵です。
だからといって、写実的な柄があればNGという訳でもありません。染め方の一つである「加賀友禅」などは『写実的である』ことをウリにしていますが、留袖や訪問着においては定番の染め。矛盾します。
花木や花鳥柄の場合、「花の種類はいくつある?」という点に注目しましょう。
複数の花が描き出されている場合、多くは『異なる季節の花木』です。例えば「桜と菊」「牡丹と梅」などは定番です。吉祥柄の代表格である「四君子」も、梅・菊・蘭・竹の四花木の柄です。
これらに代表されるように「四季草花」と呼ばれる『あらゆる季節の花木を盛り込んだ柄』の場合は、着用季節を問いません。複数の花木が描かれていれば『どれか一つでも季節にあっていればOK』だからです。ラッキー!
そのため、着用時期が限定されない「結婚式用の礼装」ならば、これら四季草花柄が無難でしょう。
特に柄に拘りがないシーンで描写に困ったなら、『吉祥文様の着物』や『古典文様の着物』などと描写しておけば問題ないでしょう。帯も同じで『有職文様の帯』などと記しておけばOKです。
逆に、特定の花木だけを描いた訪問着や留袖は、ある意味『気合いが入った装い』です。
ちょっとアクの強いキャラや、思い入れのある花を着物の柄で登場させたい時などにお薦めです。ただし、季節にはお気を付けて。
なお、季節を問わず結婚式などの慶事でNGなのは「椿」柄です。
これは、花が落ちる風情が『首が落ちるようだ』ということで、江戸期以降は『めでたい席には相応しくない』とされています。
(本当は「夏椿」は別なのですが、素人には分かりにくいので、椿はまとめてNGにしておくのが無難です、はい)
また花木ではありませんが、「流水柄」(水が流れる風情を描いたもの)は『縁が流れる』ということで、これも避けることが多くなります。
なお、洋装の場合なにかと問題になる『白色』について。
和装の場合、『白無垢』という「全て真っ白」の装いでなければ、無問題です。白地に柄の入った振袖や訪問着はOKです。
* * *
最後に「結婚式の一般参列者」としてキャラを登場させる場合の『ネタ』になりそうな話題を幾つか。
自前であるにせよレンタル着物であるにせよ、礼装の場合は『着付け』を専門家にお任せすることが多くなります。生々しいネタになりますが、この『着付け』の依頼に関わるトラブルは、現実的に多いのも事実。
披露宴会場のホテル内美容室などで着付けて貰うのが一番「楽」ですが、混み合う日程などですと「空き」がないために随分と早い時間の予約になったり断られることもあります。
気の利いた(?)新郎新婦なら、出席者にあらかじめお伺いを立ててホテル内美容室の予約を入れてくれる場合もあります。なお、このケースの場合、多くは『着付け代は新郎新婦側が負担』することが多いです。そのため、参列者側はやや多めに御祝儀を包んだりします。
一方で、新郎新婦側が『場を華やかにしたいから』という理由で「和装(主に振袖)」での出席を依頼しておきながら、着付けの手間やそれに係る費用などを一切考慮しないなどの対応をとって、後々の不和の種になることも……。
また、結婚式参列の場合、「慣れない和装姿でのフォーマルな飲食」となります。そのため、会食シーンでのトラブルも起きやすいのです。
動作に関するものとしては『袖が邪魔をする』パターン。グラスを倒してしまったり、袖を皿上の料理で汚してしまったり、ナイフ・フォークなどのカトラリー扱いがぎこちなくなったり。
『微笑ましい』シーンにも出来ますが、どちらかというと『トラブル』シーンとして活用しやすいでしょう。
また着付けの都合上、和装は胸元が締め付けられます。締めるのはもっぱらウエストより上の部分なので、多くの場合「ちょうど胃のあたり」です。そのため、『美味しい料理が、思ったより食べられない!』という悲しい事態も発生しやすいですね。
あと、振袖の場合。
着席スタイルですと、袖が床についてしまいます。腿の下に少しだけ挟み込むようにすると良いのですが、慣れない人には難しいです。
その結果、写真を撮りに行くシーンなどで椅子を動かした際に『椅子で袖を踏んづけてしまって、すっ転ぶ』というトラブルや、『キャンドルサービスで回ってきた新郎新婦に袖を踏まれる』なんてことも……。
また、会食の場ですので、飲み物や食べ物で汚される懸念も多くなります。
『グラスを持ったままぶつかって飲み物をこぼす』や、『お酒を注ごうとして、こぼす』という失敗は実際にも数多くあります。
一方で、基本的に「礼装」ですからお値段もそれなりの衣装が多いので『弁償問題』にもなりやすいですね。
特に、長着の場合はクリーニング(悉皆)で何とかなる場合もありますが、帯の場合はそもそも「丸洗い」が出来ませんので、派手な汚れはお手上げです。そして、一般的に長着より帯の方が高価だったりするので、弁償となると六桁の話になりがちです。(礼装の袋帯の場合、七桁も珍しくありませんので……)
特に帯の場合にありがちですが、「織り」のため「何かに引っかけて、糸がほつれる」ことがあります。周囲が和装だけならあまり心配ありませんが、洋装が混じる場ですと『洋装の方の装飾品に引っかけられる』ケースが多々あります。特に指輪が危険ですね。
それほど親しくない『新婦友人・同僚席のメンバー』の着物を汚してしまう/汚されてしまうトラブル……せっかくのハレの場で新婦に心配かけたくないと我慢したり、無知故に相手の理不尽な要求をのんでしまったり……などといった「不穏なシーン」にも活用できます。
(そこで、新郎側の和装男子が、知識アドバイスの助けの手を入れてくれたりしたら、一気に恋が芽生えることでしょう!! ……え? お手軽すぎますか?)
「残念」エピソードに応用できそうなものとしては、『せっかく素敵な相手に誘われたのに、着物姿が苦しくてまともに相手できなかった』とか、『二次会までの時間つぶしに誘われたのに、着替えのために同席できなかった』なんてのもあります。
和装は、品良く目立つことが出来ますが、着用前も着用後も何かと手間がかかるのですよ……。
結婚式で“ハンター”になる場合は、長短をご検討下さい。
次回は[身内・主賓編]の予定です。
その後、[花嫁(+花婿)編]です。




