[5.1]【結納・結婚式編】[参列者]その壱:参列者の和装
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【情景・シチュエーション別の具体的な話】の第二弾です。
冠婚葬祭に関する「しきたり」は、時代差・地域差が激しいので、あくまで「一般的な例」としてご確認下さい。特に【現実社会での結婚式】にそのまま当てはめるには、地域によっては不適切な事例もあります。ご注意下さい。
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皆さまの魅力的な作中人物達に『着物を着せてみよう!』と思った際、「夏祭り」に次いで出番が多いのは【冠婚葬祭】、特に【結婚式】ではないでしょうか。
恋愛モノに限らず、現代物においての一大イベントの一つ。また女性キャラの場合、ごくごく自然なシチュエーションとして『和装』させることができるイベントです。
せっかくの機会。素敵なフォーマルドレスで装うのも素敵ですが、ちょっと趣向を変えて「和装」させてみませんか?
今回も『こんなシチュエーション(状況)なら、キャラはどんな和装をするか?』を土台に、様々な和装描写ポイントを紹介したいと思います。
今回は特に「どのような立場で関わるか?」で大きく分けて、
・キャラに着せる和装の傾向・特徴・NG事項
・和装描写に必要な、事物や動きの用語・特徴
・『その和装、その状況なら、こんなシーンが素敵!』といった参考描写
などを紹介してゆきたいと思います。
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現代社会において、「一般の人の和装シーン」の多くは【冠婚葬祭】に集中します。
とはいえ、最初は七五三(+関西なら十三参り)に始まり、成人式ときて【冠】は一旦終了しますし、【葬】において「和装」するのはごくごく身近な身内(通常は家族の喪服)くらい。【祭】にいたっては、一般人が「和装」するケースはほとんどないでしょう。
《雑学的余談:【冠婚葬祭】の内訳》
【冠】
:本来は「加冠・裳着」=「元服式」、現代においては「成人式」です。
:現代では多くの場合、「七五三」(髪置・着袴・帯解)や「十三参り」を含めて「冠」の行事と捉えます。要は「成人するまでの各種のセレモニー」です。
【婚】
:「結婚式」です。通常は、婚約(結納)を含む一連の行事全体をさします。
【葬】
:「お葬式」です。「告別式」「通夜」を含む一連の行事で、場合によっては四十九日までの行事を含みます。
【祭】
:本来は「祖先を祀る行事」を指します。「お祭り」ではありません。
:現代では、「法事」および「お盆」「彼岸」などの宗教行事をさします。
《余談おわり》
となると、一般人にとって最も『和装が身近』であるのは【婚】――結婚式です。
ということで、今回は「結婚式のシーンでキャラに和装させるには?」について、ご紹介して参ります。
なお「婚」を含む【式】においては、何よりも【伝統と格式】が重要視されます。そのため、七面倒な「決まり」がありますし、それらを無視したり外したりすることは「重大なマナー違反」と捉えられてしまいます。
一方、これらの「慣例・マナー」は、地域差・時代差も激しく、身内や一族間でのルールの違いなどもありますので、全体的な標準化は難しいところもあります。
今回は、あくまで「小説執筆の参考として」という観点から、【全国的にある程度標準化されている=一般常識と捉えられ、マナー本などでの説明ブレが少ない】範囲での紹介にとどめたいと思います。
また、どのような立場で関わるかによって着用する和装は異なりますので、それぞれの立場別にまとめて紹介してゆきます。
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◆一般参列者の立場で「結婚式」に参列する場合の和装は、どんなの?
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まず、「結婚式」とまとめてご紹介しますが、メインは「披露宴」です。
現代の「結婚式」事情は多様化しており、標準化するのは難しいのですが、今回想定するのは「ホテル、もしくは専用式場での結婚披露宴」の事例を主体とします。ゲストハウスなどでのハウスウェディング、レストランなどでのカジュアルウェディング、はたまた古風な自宅や料亭での披露宴などは、若干事情が異なりますので、その都度補足してゆきたいと思います。
また、「一般参列者」という立場ですが、いわゆる「新郎・新婦の友人・知人・同僚・直近上司や部下」という立場を想定します。従姉妹などは「身内」、主賓的立場の上司などは、また別にご紹介します。
さて、本題。
まず現代における大前提として「一般参列者として出席する際に和装する」のは、ほとんど【女性】です。残念ながら(?)、男性が和装で出席することはまずないでしょう。
「男性参列者が和装する」ケースとして考えられるのは、本人が伝統芸能などに携わる場合くらいでしょうか。(例:習い事のお師匠や先輩など)
一般参列者の立場で【男性が和装】する場合、着用するのは【紋付き羽織袴】です。
ただし、第一礼装である【黒紋付き羽織袴】はやめましょう。これは新郎および媒酌人(いわゆる仲人)、新郎新婦の父親の衣装ですので、一段下がる必要があります。「主賓クラス」で招待されていないならば、黒紋付きは「格が高すぎる」装いです。
よって、通常は「色羽二重」と呼ぶ、「黒以外の色に染めた、無地の羽二重生地」もしくは「無地の御召」の長着と、その共布(同じ種類の反物から仕立てること)の羽織、仙台平とよぶ光沢ある縦縞の織りの生地か無地の御召の袴です。紋は三つ紋(背中と後ろの両肩)か一つ紋(背中だけ)です。
足下は「白足袋」+「畳表の草履(雪駄)」がベスト。羽織紐も「房付き」です。また可能な限り「扇子」を差しましょう。この扇子は仰ぐのには使いません。基本的に、帯に差したまま取り出さないで下さい。末広(白扇:竹骨の白い扇)である必要はありませんが、小さい茶扇子ではなく京扇子です。
格式としては「略礼装」にあたります。よって、【紋付き】であることが重要です。ハウスウェディング程度のカジュアルウェディングならば、紋無しでもOKです。少なくとも「媒酌人」がいるような結婚式なら「紋付き」にしましょう。
少し「格を上げたい」場合、例えば主賓ではないけれど、恩師や部長級などの準主賓クラスならば「羽織だけ五つ紋の黒紋付き」にするのもアリです。この場合、必ず小物類は「白房の羽織紐」「白足袋」「白扇」にします。
また、伝統芸能に関わる人ならば、上記に関係なく「黒紋付き羽織袴」で参列してもおかしくはありません。彼らは「芸事のユニフォーム」が「黒紋付き」ですので。高校生が制服で出席するようなものです。
披露宴の席では、新郎側はどうしても「礼服」ばかり、つまり黒一色になります。よって、そこに「色つき」が混ざると大変目立ちます。これが「礼服ではないカラージャケット」なら悪目立ちするだけですが、あら不思議、「和装の色」ならば何故か「品がある」ように見られるモノです。
あなたの男性キャラを『品良く自然と目立たせたい』なら、和装はうってつけですね。新婦側の出席者の視線を、自然と独り占めできることでしょう。モテ期、到来??
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では、女性の場合は?
現代ではカラードレスが主流で、和装参列は少数派ですね。だからこそ、キャラが引き立つとも言えます。ということで、男性と同じく『品良く自然と目立たせる』ために、女性キャラにも和装で出席していただきましょう。
まず、女性の和装を語る場合に避けて通れない「格」のお話から。
女性参列者の場合、「準礼装」もしくは「略礼装」の格式が基本です。
具体的には「一つ紋付きの訪問着か色無地」「紋無しの訪問着」です。付下げでも構いませんが、華やかな席なので色柄が華麗な訪問着の方が相応しいです。色無地の場合は、原則として慶事向きの地紋(地模様)が入った生地で明るい色の染めにしましょう。
帯は原則「礼装用の(金銀の入った)袋帯」で、結び方は「二重太鼓」(+そのバリエーション)です。名古屋帯は格式として相応しくありませんが、どうしても必要な場合は必ず「織り」で金銀の入ったものにしましょう。長着が紋付きの場合は袋帯です。
また、新婦より若い未婚女性の場合は「第一礼装」である「振袖」がベストです。
男性側は被りますが、女性の場合「花嫁」の衣装と「第一礼装」は異なるものになるので、無問題です。例えば、白無垢でなくても花嫁の打ち掛け姿と振袖は異なる作りですし、大振り袖だったとしても着付け方が異なります。
なお、一般的な「礼儀」として、新郎側出席者として未婚女性が参列するのは避けられますが、やむを得ず参列する場合「振袖」はやめておきましょう。あらぬ誤解を、なお一層加速させます……。
新婦より年上の未婚女性の場合、二〇代までならば振袖でも問題ありませんが、一般的に避けることが多くなります。その場合は、華やかな色柄の訪問着が良いでしょう。総柄だと「振袖」と同じほど華やかでありながら、一歩引いた立場を示せます。
既婚の友人、同僚や知人の妻という立場など、既婚者ならば訪問着が基本です。年齢や新郎新婦との親しさに応じて、華やかさを押さえてゆくとよいでしょう。「直属の上司の妻」程度のあまり面識のない相手なら、色無地くらいでいいかも知れません。
既婚女性の礼装としては「留袖」と「色留袖」がありますが、「(黒)留袖」は媒酌人と親族以外は着用しないものです。「色留袖」は、準主賓クラスのやや年配の方ならば、格式としては相応しいでしょう。しかし“留袖”は上半身に模様が入らないので、着席スタイルでは地味になります。せっかくのハレの場、華やかな方がよいかと思います。
ハウスウェディングなどのカジュアルな結婚式ならば、礼装ではない「小紋」「紬」もアリです。できれば「飛び柄小紋」で少し格を上げるか、吉祥柄の華やかな柄付けのものにして、帯は最低限名古屋帯の変わり結びにしましょう。
また洒落着ならともかく、レースの半襟を使うなどの現代的な着こなしは避けるべきです。結婚式は、参列者のファッションショーの場ではありません。「飾りモノ」として相応しい華やかさと落ち着きを持ちましょう。
逆を言えば、そんな「悪目立ちする着こなし」で登場させれば、結婚パーティの場を“ちょっと不穏な気配”に持っていくことも出来ますね。
残念ながら「参列者の装いや振る舞い」は、そのまま『新郎/新婦への評価』に直結するのが現実。
『嫌がらせ』の手段として「相応しくない装いで参列する」行動は、和洋装の区別無く『有効な手段』でもあるのです。自暴自棄、自爆覚悟のキャラならアリですね。




