新しい家族②
いつものように湯を沸かしてカップとポットを温め、棚から紅茶缶を取り出す。
ずっと集めるばかりでなかなか減らなかった茶葉も、クライブやフォレスター夫妻、リルカやルード、近衛騎士たち……と、お茶を振る舞う相手が増えたことで、無くなるペースが速くなっているのが、なんだか嬉しい。
「あうー」
セレナがおしゃべりをするように声をあげて、クライブが「これが欲しいのか?」なんて、セレナをだっこしながら本棚に手を伸ばしているのが見える。
クライブが手にとった本に、ぴくりと身体が震えた。
なんでよりによって、あの本……っ!
「お待ち下さい!」
慌てて声をあげるけれど、時すでに遅し。
クライブは本を手に取り、運悪く中からするりと一枚、厚紙が落ちてしまった。
「これは……ひまわり?」
クライブは落ちた紙を拾い上げて首をかしげる。
真っ白な厚紙に貼られているのは、ひまわりの押し花だ。
かつてクライブがくれた小さなひまわりの花を、私は庭師のアンディに頼んで押し花にしてもらい、しおりに変えてもらっていたのだ。
セレナはひまわりが気になるようで手を伸ばしていたけれど『壊されてはいけない』とでも思ったのか、クライブはセレナに取られないような位置にしおりを動かしながら眺めている。
気づかれませんように、と願うけれど、勘のいいクライブ相手には無理な相談だったようで、クライブは私を見て、にやりと目を細めた。
「これ、もしかして……」
「……もしかしなくても、そうですよっ!」
恥ずかしさのあまり、顔が見られない。
いまはともかく、あの頃は想いが通じ合っていなかったし、クライブはいずれ私と離婚をする気でいた。
一方の私もクライブに対して『王妃は仕事みたいなもので、夜は業務時間外』なんて、つっかかっていたわけで。
クライブが気まぐれにくれた花を後生大事にとっていたなんて、そんな乙女のような行動を知られたくなかったのだ。
「あの頃は、ティアから嫌われているものだと思っていたが」
クライブは感慨深そうにしおりを眺めて、セレナはしおりを催促するようにクライブの顔をペシペシと叩いている。
「綺麗だったから、枯らすのがもったいなかったんですよ」
理由なんて他にもいろいろあるんだけど、照れてしまって言えないまま。
けれど、クライブは優しく微笑んで「確かにあのひまわり畑は美しかったな」なんて、しおりを見ながら懐かしそうに言い、何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ、ティア。ひまわり畑を見に行かないか? ちょうど時期だし、セレナも気になっているようだから」
クライブは私にしおりを手渡して、私はそれを受け取りながらにこりと微笑む。
「わぁ、いいですね! 私もちょうど仕事が少ない時期ですし、ぜひ行きたいです。それで、いつ頃がいいですか?」
「いますぐにでも」
クライブは、くすりと笑いながら言う。
なんだか覚えのある流れに、私も笑った。
◇
マリノにも家族でゆっくりしてほしくて休みを出し、付き添いは近衛兵のハロルドとオーウェンに頼むことにした。
こんなところまで、あの日のようだ。
軽食やシートの準備、馬車の手配は、侍従のルードと侍女のリルカに依頼する。
優しくて穏やかなルードと世話焼きで明るいリルカは気が合うようで、密かに付き合っているらしい。
可愛らしくてお似合いな二人は、あれもこれもと楽しそうに準備を進めてくれた。
三人で四階に降りると、近衛兵のハロルドと目が合う。
「姫様、かんわいい〜!」
ハロルドは駆け寄って、私に抱っこされているセレナに満面の笑みを見せる。
もう一人の近衛兵オーウェンも「ひまわり色ですね、よくお似合いです」と柔らかく目を細めた。
せっかくだからおめかしを、と、セレナには軽いふわふわした生地のドレスを着せたのだ。
黄色のドレスに茶色のベルトを合わせたのは、ひまわりの花を意識してのこと。
リルカの指導の成果もあって、服選びのセンスが地味と言われた私もこうやっておしゃれを楽しむようになっていた。
セレナは「あうあう」と喃語を話しながら二人に手を伸ばしている。
「なんだか、ありがとう、って言ってるようにも見えるわね。よかったら握手してあげて」
近衛兵二人はクライブの命令もあったようで、いつもわたしたちに気軽に話しかけてくれる。
けれど、他の兵たちと同じように決して一線は越えず、王族に気安くに触れたりはしない。
セレナに触れる許可を出すと、二人はきらきらと目を輝かせて「ヤバい、可愛すぎて俺、萌え死にそ……」「赤ちゃんの手って、こんなに小さいんですか……⁉」なんて小声で言いながら、セレナと握手をしていた。
明日の朝で完結です!




