新しい家族①
子どもが生まれたあとのお話が気になる、とリクエストをいただけましたので、電子書籍の最終巻発売の記念も兼ねて、番外編を書きました!
(最終巻は2023/8/22配信予定です。よろしくお願いします!!)
おかげさまで最終巻まで出すことができました。
応援ありがとうございます!
また、読者さまからのリクエストがなければ、ティアとクライブの子どものお話も生まれていなかったと思いますし、二人の子のお披露目もできなかったと思います。
リクエスト、ありがとうございましたー!!
「セレナ、だめよ待って! 危ないっ!」
慌ててベビーベッドに駆け寄り、可愛い我が子を抱き上げる。
支度をしようと鏡台前に腰掛けたとき、寝ていたはずの娘がベビーベッドから身を乗り出しているのが鏡に映って見えたのだ。
好奇心旺盛な娘は起きたらじっとしていられないようで、こうやってすぐに冒険を始めようとしてしまうから、本当に心臓に悪い。
「冒険は、ママの見ているときにしてね」
目線を合わせて伝えるけれど、セレナはきゃいきゃいと無邪気に笑うだけ。
こんなに私を振り回すなんて、まったく誰に似たのかしら、なんて呆れ笑いを浮かべた。
セレナはクライブと私の初めての子どもで、生後八ヶ月の女の子。
後継者となる男の子ではなかったし、がっかりされてしまうかなと思いきや、セレナ・イグニット誕生の知らせに城内も城下も大いに沸き立ち、二ヶ月近くもお祝いムードが続くほどだった。
なんでも、ノースランドでは女の子が一番に生まれるのはとても縁起がいいことなのだとか。
ノースランドの第一王女として生まれたセレナのくりっとした目は、クライブと同じ綺麗な赤色。
柔らかくて指通りのいい髪は、私と同じ金色。
零れ落ちそうなほっぺたも、ふかふかと柔らかくてミルクの香りがする温かい身体も、全部が可愛くて愛しくてたまらない。
小さくて丸っこくて、妖精みたい、と頬を擦り寄せていると、執務室のドアをノックする音がして、いつもの穏やかな声が聞こえた。
「おはようございます。マリノ・フォレスターでございます」
「鍵は開けてあるわ、どうぞ」
「失礼いたします」
私の侍女件護衛のマリノが扉を開けて一礼する。
背中には、セレナより二ヶ月あとに生まれた男の子のアンセルが、おんぶ紐の中で気持ちよさそうに眠っていた。
「アンセルは本当によく寝るわね、羨ましい」
アンディと同じ金髪の男の子の顔を覗き込む。
マリノによく似たタレ目が可愛い男の子なのだけれど、すやすやと寝息をたてていて、目を開ける気配が全くない。
「姫様や大切な者たちをお守りできるほどに強く、と願いを込めて、アンセルという名にしましたが、姫様のほうがたくましくていらっしゃいますね」
マリノはにこりと微笑んで、手を伸ばしているセレナの小さな手を優しく握った。
「でも、将来はステキなナイトになっているかもしれないわ。だって、マリノとアンディの子だもの。これからが楽しみね。そうそう、マリノ。セレナってどんどん陛下に似てきていると思わない? 朝一番から私を振り回すところとか特に」
くすくすと笑いながら、ノースランドに嫁いできたばかりの頃のことを思い出して言う。
あの頃のクライブは、私の部屋に毎朝嫌味を言いにきて、私たちはケンカばかりしていたんだっけ。
まぁ、セレナが生まれてからもずっと、クライブに振り回されてばかりなのは変わらないのだけれど。
「そうかもしれませんね。ですが、おてんばなところは、ティア王妃殿下のお小さかった頃にそっくりですよ」
「おてんば……?」
私のどこが? と、言おうとしたけれどすぐにその言葉を飲み込んだ。
兵士たちの静止も聞かず、城下町で遊び回っていた私は、おてんばと言われて当然だから。
この子は間違いなく私たちの子だわ、と笑った。
マリノは私のヘアセットをしたあと退室し、私はセレナと二人でクライブが来るのを待つ。
クライブはいまも、毎朝と毎夜、私の部屋に来るのが日課になっているのだ。
それどころか、少しでも時間ができたらセレナに会いに来て、面倒を見てくれていたりする。
貴族の子は一般的に、乳母や家庭教師、義母が育てるものなのだけれど、私たちは前王妃サリア様と同様、それをよしとしなかった。
仕事もあるため、乳母にセレナを預けることももちろんあるけれど、できる限り自分たちの力でこの子を育てていこうと決めたのだ。
子育ては予想外なことの連続だし、大変なことも想像していた以上に多い。
それでも、セレナの成長を間近で見守ることができる喜びや、家族三人で過ごせる時間がとれることのほうが幸せだった。
クライブ、早く来ないかな……なんて、ドアをぼんやり見つめているとノックの音が響く。
「パパが来たよ」と、絨毯の上でおもちゃで遊ぶセレナを抱き上げて、ドアを開けた。
「おはようございます、陛下。ほら、セレナもご挨拶は?」
娘に顔を擦り寄せて言うと、セレナは手に持ったおもちゃを振り回し「あうあうー」と言葉にならない声を出していた。
「ティア、セレナ、二人ともおはよう」
クライブは身体をかがませて、私の唇にそっと口づけをする。
毎日の日課になっているとはいえ、やっぱりキスは少し照れてしまう。
「お茶を淹れましょう。何かご希望はありますか?」
「頼む。ティアがよければ、一昨日と同じのがいい」
クライブは私からセレナを受け取り、抱っこをしたままセレナの頬を優しく撫でている。
セレナはくすぐったかったのか、きゃいきゃいと楽しそうに笑っていて。
クライブの愛おしげに細められた瞳と柔らかな微笑みに、幸せで胸がいっぱいになってしまった。




