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【電子書籍3巻完結】鈍感な王妃と不器用な国王  作者: 星影さき
最終章 愛を知った王妃   
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ヘレナの過去

 お母様がノースランドの前王キール様を好きだった? お父様でも、不倫相手の貴族でもなく?


 はじめて打ち明けられた想いに、動揺を隠せず言葉を失う。


 おろおろとうろたえる私に気がつかないのか、それとも興味すらないのか、お母様は再び口を開いた。


「十四、五の頃だったでしょうか? わたくしの誕生パーティーではじめてキールに会った時、美しく精悍な容姿と誠実さ、優しさに心惹かれ、すぐに恋に落ちました。ですが、わたくしはずっと、恋心を明かすことなく胸に秘め続けた……王太女だったわたくしは、ノースランドの王太子と結ばれることは決してないからです」


 お母様は小さくため息をついて視線を落とし、苦しげに頭を抱えて言葉を続けた。


「わたくしはこう思ったわ。叶わぬ恋ならばせめて、ロゼッタでは到底敵わぬような強大な国の姫と結ばれてほしいと。それなのにキールは……」


 キール様は、敗戦して滅亡した国の姫サリア様に一目ぼれをし、周囲の反対を押し切って妻に娶った。


「ティア、クライブ王。よりによって国を失くし、奴隷にまで堕ちかけていた姫が相手だなんて、あんまりだと思いませんか? 本当に悔しくて、悲しくて、キールに似た貴族と不倫を続けていたけれど、それでも心は満たされなかった。ティア、貴女はわたくしを軽蔑しているでしょう? ジュドに懐いていたものね」


 寂しげな瞳を向けるお母様を、肯定も否定もしないまま見つめた。

 お父様を裏切った過去は絶対に許せないけれど、軽蔑して罵倒するなんて私にできるはずもない。


 私は、自分の恋が実らなかった時の苦しさも、 恋した人が他人を愛している姿を見るつらさも、身をもって知っているから。


 反応のない私に、お母様は小さくため息をついて自嘲気味に笑い、朗読でもするかのように話を続けた。


「自分がつらい思いをしたぶん、第一王女という哀しい運命を背負ったロザリアを、うんと甘やかして育てました。そして、成人したら地位の低い男でも小国の王子でも、一国の王以外なら誰でも構わないから、愛した男と結婚させようと考えていた。そのためにもわたくしは、死にものぐるいでロゼッタを強大な国へと発展させたのです」


 優しく穏やかな笑みを浮かべていたお母さまは、ふっと表情を陰らせ静かに口を開いた。


「ですが、ロザリアはノースランドから帰国したあとわたくしに、こう言ってきました。『お母様、私はノースランドのクライブ王と結婚するわ。ロゼッタはもう、いらない。私には必要のないものだから』と」


 お母様の言葉にクライブは表情を険しく一変させた。王として、ノースランドを守るため身を粉にして働き続けたクライブにとって、国と民を蔑ろにした言葉は不愉快極まりなかったのだろう。


「愚かな……」

 眉を寄せながら呟くクライブに、お母様も苦虫を噛みつぶしたような顔を見せてくる。


「ええ。返す言葉もありませんわ。わたくしも正直なところ、恐ろしいと思いました。国や民を自身の所有物のように扱い、不要だからとゴミのように捨てようとする。とても、王太女の発言とは思えなかったのです」


 お母様はネックレスについた緑の玉を右手で、ぎゅっとすがるように握ってうつむいた。


 あの玉、見覚えがある……

 確か、お父様の剣についていたエメラルドの飾りだ。


「甘やかしはロザリアのためにならないとジュドは言い張っていたけれど、彼の言うとおりだったわ。亡くしてから、あの人の存在の大きさがわかって、もう二度と会えないのに恋しくてしかたなくなった。愚かな自分に気づいたけれど、もう遅すぎたわね。おまけに次代の女王の育てかたまでも失敗して、滑稽ね……」


 お母様は同意を求めるように視線を向けてくるけれど、クライブはそれには答えず、さらに問いを問いで返す。


「それで、ティアを王太女にしようと?」


「そう。貴方たち夫婦として上手くいっていないのでしょう? 寝室だって相当離れていたとロザリアから聞いたわ。クライブ王、ティアを愛していないのならわたくしに返してちょうだい。それが双方の国のためになりますから」


 ズキンと胸が痛む。『わたくしに返して』だなんて、お母様は私をなんだと思っているのだろう。


 何も言えないまま唇を噛んでうつむくと、隣から当てつけのような深く長いため息が聞こえてきた。


「……滑稽にもほどがあります。ティアは貴女の道具ではないし、いま貴女が聞くべきなのは俺の意見ではなくて、娘であるティアの想いなのでは?」


「何を馬鹿なことを……いいから早く返せと言っているのです!」

 クライブの言葉に救われ、すぐにまたお母様の言葉に傷つけられる。お母様はやはり、私を自分の意のままに動かせる駒のように思っているのだろう。


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