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【電子書籍3巻完結】鈍感な王妃と不器用な国王  作者: 星影さき
最終章 愛を知った王妃   
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勇気を生む言葉

「ティア、マリノ、付いてこい」


 そう言ってクライブがドアを開けると、数人の兵士がぐったりと伸びており、ぎょっとして目を見開いた。


 死んでしまったのではないかと心配したけれど、全員気を失っているだけで、ちゃんと呼吸をしていて胸を撫で下ろした。


「問題ない、(さや)でやっただけだ。行こう、ハロルドとオーウェンが先に道を作ってくれている」


 クライブは左手で抜き身の剣を、右手で鞘をつかんで歩き出す。


「陛下、こんなことをして大丈夫なのですか? ロゼッタとノースランドは同盟国なのに……」


 弱気な私に、クライブは振り返ってきて不敵に笑う。


「対話を拒んだのは向こうだろう。それに俺は親子げんかに巻き込まれただけで、妻を取り戻しに来ただけだ。今後ロゼッタとの交流を断つ気もないし、問題はない」


 半ば言いわけじみた心強い言葉に、心の奥のつかえがとれたような気がして、にこりと笑みを浮かべた。


「陛下、ありがとうございます」


 まだそこまで大きな騒ぎになっていないのか、誰にも会うことなく階段までたどり着く。


 あとは、ここを降りて近衛兵二人と、私の護衛をしてくれていたノースランド王国兵と合流し、ノースランドへ帰国するだけだ。


 それなのにクライブは階段を見上げ、一段ずつ昇りはじめた。


「陛下、そちらに出口はありませんよ!」

 慌てて止めるけれど、クライブは怪訝(けげん)な顔をして私たちを見おろしてきた。


「ここで逃げていいのか?」

 はっと息を飲んで、視線を落とす。


 何も言えなくなってしまった私に、クライブは言葉を続けてきた。


「ヘレナ女王とまだ話せていないのだろう? アナベルという侍女が俺にそう言ってきた」


「アナベルが……?」

 クライブはこくりとうなずいたあと、わずかに視線を落とし、私の瞳をまっすぐに見つめてきた。


「俺はもう、両親とけんかもできないし感謝の言葉も伝えられない。だが、お前は違うだろ」


「……ですが、お母様は聞く耳を持ってくれません」


 娘に会おうともしないし、私の想いを聞く気もない。

 さらには、言伝で全てを済ませようとする。そんなお母様に何を言ったって無駄な気がする。


「実際にやってみなければわからない。このまま母と祖国に別れを告げていいのか?」


 言葉がぐさりと胸に突き刺さり、強くこぶしを握った。


 このまま逃げるように国を離れたら、二度とロゼッタの地を踏むことはないだろう。

 思い出がたくさん詰まった、大切な、大好きな祖国なのに。


 そしてさらには、唯一の姉であるロザリア姉様や、私を育ててくれたお母様にも二度と会えなくなる。


 そんなのは、嫌だ。でも……


「心配することは一つもない。俺が隣にいる。マリノや、信頼できる兵たちもいる。みすみすお前をロゼッタに渡すような真似はしない。それに何より、ノースランドの民がティアの帰りを待っているんだ。お前は一人で戦っているわけじゃない」


 クライブは階段を一段下りて、私に手を差し伸べてくる。


 勇気づけられて奮起した私は大きくうなずき、骨ばった手を取り握る。


「マリノはすまないが、ハロルドとオーウェンの援護に回ってくれ。そろそろ騒がしくなる頃だろうから」

「承知いたしました。陛下、ティア王妃殿下をよろしくお願いいたします」


 マリノは一礼したあと、太もものベルトについていた短剣を二本取り出して両手に携え、軽やかに階段を駆け下りていったのだった。



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