第二王女は楽じゃない
「だけど、それなら姉様も同じように慕われているはずよ。姉様は頭もいいし、誰もが見惚れる美人だから。薔薇の姫と呼ばれているの、マリノも知っているでしょ? それほどに愛されているのよ」
負けじと言い返したけれどマリノの表情は変わらず、首を横に振ってきた。
「薔薇の姫。じつは、それが皮肉だったというのはご存知ですか?」
「皮肉? そんなわけないじゃない。薔薇は、ロゼッタの国花なのよ」
「薔薇というのは棘がありますでしょう? ロザリア殿下も同じように、美しいのに棘が多すぎて周りが傷つくんです。その上、薔薇のようにきちんと手をかけてお膳立てしてやらないと、咲くことさえできない。手のかかる王女だという皮肉が込められていたんです」
思わず目を見開いた。
姉様は皆から愛されて、尊敬され、憧れられている存在だとずっと思っていたのに、そんな厳しい立場にいたのか。
言葉をなくしてしまった私に構わず、マリノは話を続けてくる。
「知力や武力、美貌、これらはあるに越したことはありませんが、王族に必要なものはそこではないと私は思います」
「上に立つ者としての器……人望、ってことね」
マリノはこくりとうなずく。
「おっしゃるとおりです。臣下がこのお方のためなら戦ってもいい、死んでもいいと思えるような王・女王でないと、民は支持してくれません」
「……そうね。十年ほど前、民を蔑ろにし続けてきたガジュダ王国が怒れる国民たちの挙兵によって滅び、王城は焼け落ちて、王族全員、縛り首で門の前に吊るされたって話は有名だもの」
王族が市民に殺されるなんて想像すらしたことがなかったのに、飛び込んできたガジュダ王国崩壊の知らせに怯えて、しばらく眠れなかったことをいまも覚えている。
「民がロザリア殿下をどう思っているかはわかりませんが、城内の者からの信頼はすでに失っているでしょうね。皆がティア様を王太女にと願っているのは明白です。ですので、ティア様が首を縦に振るまでは、逃がすような真似はしてくれないでしょう」
希望の見えない言葉を聞いて、がっくりと肩を落として途方に暮れた。
もしも私がクライブではない男性と結婚していたのなら、ぶつくさ文句を言いながら、離婚も王太女の提案もすぐさま受け入れたことだろう。
だけど、いまの私は、これまでの私とは違う。
ロゼッタ城内の者がいくら私を次期女王にしたい、と願っていても、お母様が離婚の命令をしてきても、その想いに応えることなんかできない。
本当の恋を知ったんだ。
一緒に生きていきたいと思える男が見つかったんだ。
ノースランドの土地と民を心から愛しいと思いはじめたんだ。
この恋を諦めたくないし、大切な自分の居場所を失いたくなんかない。
ああ、こうやってまた『第二王女』の地位が邪魔をして、未だ恋慕う人へ想いを伝えることも許されず、私の全てを奪っていこうとする。
どうして、中途半端なこの地位は、私に苦難ばかり押しつけてくるのよ……
心がぎゅっと締め付けられたかのように苦しくなって下唇を噛み締めると、微かに血の味が広がったのだった。




