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【電子書籍3巻完結】鈍感な王妃と不器用な国王  作者: 星影さき
第七章 渦巻く野望と王妃の恋
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引っ越し計画

「ちょっとマリノ! なんであなたたち、急にいなくなったのよ!」

 クライブと別れて隣の執務室に入り、声を荒らげた。


「お邪魔かなと思いまして」

 にこりと微笑むマリノに、むっと口を曲げる。


「あなたたちがいてくれないから、大変な目に遭ったのよ!」


「大変な目、ですか。どうされたんです?」


「そ、それは……」

 一気に勢いをそがれ、顔が熱くなりうつむいた。クライブからキスをされてしまった、なんて言えるわけがない。


 しかも逃げようと思えば逃げられたのに、なぜかその場にとどまって受け入れてしまったなんて、口が裂けても言えない。


「ティア様、お顔がまっかですよ」

 勢いを失った私を見て、マリノは幸せそうにくすくすと笑う。

 ひょっとしたら私のことなんて、マリノは全てお見通しなのかもしれない。


 姉様と昼食を終えて、クライブと二人、庭に出て空を見上げる。


 朝から様々な事件が起こって私の心は乱れに乱れているというのに、空だけはいつものように晴れ渡り、どこまでも澄んでいた。


 出立の準備を済ませた姉様は堂々と馬車の前まで歩き、クライブを見つめて優雅に微笑んだ。


「数々のおもてなし、感謝いたします。貴国を訪問できたこと、心から嬉しく思います。いつかロゼッタにもいらしてくださいね」


「ええ、ぜひ伺いたいものです」

 クライブが礼をすると、姉様はふふと微笑む。


「ティア、あなたが無事で本当によかったわ。これからもロゼッタ女王国第二王女としての誇りを胸に、恥ずかしくないふるまいをなさってね」


 姉様はにこりと笑顔を見せてきたけれど、どこか違和感がある。


 ああ、そうか。目が笑っていないんだ……


「それでは、ごきげんよう」

 民衆に笑顔を向けて姉様は真っ白な馬車に乗り、盛大な見送りを受けながら国へ帰っていった。


「さぁ、戻るか」

 クライブは踵を返すけれど、私はその場で立ちつくして呟くように尋ねる。


「陛下は……姉様のこと、どうお思いですか」


「どういうことだ」


「姉様が私を手にかけようとしたか、ということです」

 本当はこんなこと考えたくはなかったし、口に出すのも嫌だった。


 けれど、姉様がクライブに恋をしたこと、私を邪魔者扱いしてきたこと、一番でないと気が済まないこと、私を殺そうとした者たちが姉様を首謀者だと言ったことを踏まえると、姉様も犯人の可能性があるように思えてしまったのだ。


 ぎゅっとドレスを握ってクライブの返答を待つと、クライブは姉様が消えていった新市街を見つめて小さく息を吐き出した。


「なんらかの形で関わっているだろうとは思うが、正直、幼なじみが犯人だとは思いたくない。いまも、何か裏があったのではないかと考えていたところだ」


「そうおっしゃってくださり、ありがとうございます。私にとってたった一人のきょうだいなので……」


 殺そうとしてきたなんて思いたくない、そう言おうとしたのに、のどが詰まって言葉が出てこない。


 ああ、いま声に出したら、泣いてしまいそうだ。


 ぐ、と目をつぶってうつむくと、頭に何かが触れてくる。


 クライブはうつむく私の頭をゆっくりと優しく撫でてくれていて。

 その手のひらの温かさに、ずっとこらえていた涙が一すじ流れ、地面に小さな丸い染みができた。



 クライブとメインエントランスで別れて自分の部屋に戻ろうとすると、廊下にある異様な光景に目を疑う。


「あら? 私の荷物が……」

 鏡台に本、ティーセット、それにドレスやアクセサリーもなぜか外に運び出されている。


 速足で部屋に向かうと、中から荷物を持ったマリノが飛び出してきた。


「あ! ティア様、お帰りなさいませ」


「ねぇ、マリノ。これはどういうこと?」


 部屋をのぞくと、アンディや侍女のリルカ、それにクライブが雇ったダリルの元使用人ルードまでもが部屋の荷物の整理と運び出しを行っている。


 マリノは私の靴を廊下へ出して、それを置くと汗をぬぐって明るく笑った。


「今回の一件で、やはり防犯面でこのお部屋は危険だと思ったのです。それに作戦とはいえ、ならず者を二人もお部屋に入れて汚してしまいましたし」


「全然答えになっていないのだけれど」

 苦笑いをしながら言うと、マリノはこてんと首をかしげてきた。


「お伝えしませんでしたか? これから、ティア様のお部屋の移動をいたします。今朝がた、陛下が相談に来てくださり、意見が一致いたしましたのでそう決まりました」


 マリノは仕事に関しては完璧なのに、こういうことになるとなぜかうっかりミスが格段に増える。


 なんだかもう、あきれてしまってため息しかでてこない。


「そんなの一度も聞いてないわよ……それで、私の部屋はどこになったの?」


「陛下のお隣のお部屋です。ちなみに私とアンディも一つ下の階の四階へ移動します」


 マリノは右手をクライブの部屋のある方向に向けて、はっきりとした口調で言ってきた。


 聞き間違いを疑う余地もないくらいに、はっきりと、だ。


「はぁ!?」

 なんですって! 私の部屋がクライブの隣!? 昨日の今日で、今朝はあれだし、そんなの絶対に無理!


「隣には陛下のお部屋。下の階には私たちの部屋で、ティア様の安全は約束されたようなものです」


 満足そうにマリノは言ってくるけれど、私にしてみればたまったものじゃない。


「お願いだからそういうことは勝手に決めないでよ! 陛下に取りやめてもらえるように言ってくる。マリノ、ついてきて」


 こぶしを握りしめて上階を睨みつけると、マリノはとぼけたような声を出してくる。


「うーん、無駄だと思いますけど」


「何か言った?」

 勢いよく振り返ると、マリノは何度も首を横に振った。


「いいえ、何も」

 鋭い目で睨まれているというのに、マリノはなぜかくすくすと笑っていたのだった。


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