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【電子書籍3巻完結】鈍感な王妃と不器用な国王  作者: 星影さき
第七章 渦巻く野望と王妃の恋
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貴方はずるい

 むっと口を曲げてドアを睨みつけていると、クライブの声が静かに響く。


「ティア。もしかしてお前……」


 まずい、クライブは変に鋭いところがある。

 理由を当てられて問い詰められでもしたら、うまく隠し通せる自信がない。


 冷や汗を垂らしながらおそるおそる顔を上げると、深紅の瞳と視線が重なった。


「俺に嫌われたくなかった?」

 不敵に笑うクライブに、不覚にもどきりとしてしまう。


 ……ああ、最悪だ。ピタリ賞だ。図星を突かれてしまった。


 私はこの距離感が好きで。

 クライブとくだらない話をして笑いあって、たまにケンカして……そんな毎日がずっと続いてくれればそれでよかったのに。


 どうしてクライブは私を好きになってしまって、私もクライブをこれまでと同じように見られないのだろう。


 好きだの嫌いだの、そんなくだらないことで傷つくのはもう耐えられないし、恋愛のことなんか考えたくもないのに。


「私が陛下に嫌われたくないと思っている? うぬぼれないでくださるかしら?」


 図星を突かれた動揺と混乱とを無理やりごまかしながらクライブに近づき、必死に虚勢を張って睨み上げた。


 いつものように嫌われる行動をすれば誤魔化せると思っていたのだ。


 だけど、クライブは不敵な笑みを少しも崩してはくれなかった。


「少しは昨日の効果があったかな」


「効果って、なんです?」

 眉を寄せて問うと、クライブはにやりと意地悪な笑みを浮かべてきて……


「うぬぼれるなと言いつつ、声がうわずっている。なにより左まぶたのそれ、自分でも気づいているんじゃないか?」


 ひくつく左目を慌てて隠すけれど、明らかに手遅れだろう。


 しまった、変に虚勢を張るからこういうことになるんだ。

 別の話題で誤魔化して、とっとと逃げればよかったのに。

 今日ほど、自分の素直すぎる左まぶたを恨んだ日はない。


「そもそも、そんな瞳で見つめられたら、うぬぼれてしまって当然だと思わないか?」


 左目を隠す私の手に、クライブは優しく触れてくる。


 クライブの手は大きく、私の手を包み込んでしまう。

 じんわりと温かさが広がって、おかしな感情が私の全てを支配してくる。


「――ッ」

 慌てて手を振り払って逃げようとすると、手首をつかまれ強引に壁へと追いやられた。


「……逃げるなよ」

 深紅の瞳が獲物を狙う動物のように鋭くて、ぞくりと身体が粟立ち、身をすくめた。


 クライブは頭の上に腕をついてきて、私をさらに壁へと追いやってくる。


 逃げるなと言いながらも、こうやってわざと逃げられる時間をくれるクライブは、ずるい。


 何度逃げようと思っても、その炎のような瞳は私を逃がしてくれなかったくせに。


 息をかすめるほどに距離が近づく。


 あまりの恥ずかしさと鼓動の激しさに怖くなり、強くまぶたを閉じたとたん、唇に柔らかなものが重ねられ、全身がぴくりと震えた。


 ファーストキスはレモンみたいな甘酸っぱい味がするのよ、なんてロゼッタ城下町にいたエミリーは言っていたけれど、そんなのは嘘だ。


 恥ずかしさと動揺でいっぱいで、味なんかにまで気が回らない。


 そんなことを思っていると、クライブの香りが鼻をくすぐってきてまた大きく鼓動が跳ね、頭が真っ白になってしまう。


 逃げないことを肯定と受け取ったのか、口づけは次第に食むようなものへと変化する。


 唇を通して、クライブの想いが真っ直ぐに伝わってきて、心臓がうるさいくらいに脈を打つ。 


 めまいに似たくらつきと、胸に走る甘い痛みとが怖くて、思わずクライブの胸元をぎゅうと掴んだ。


 時間としてはきっと長くはないのだろうけれど、緊張しているからかやけに長く感じて、息が苦しくて。


 クライブの胸を何度も押し返すと、名残惜しそうに軽い音を立てて唇が離れていく。


 私を見つめてくる瞳は熱く濡れて熱に浮かされたようで、やけに艶っぽく見えてしまい、また切なく胸が締めつけられた。


「い、一週間……」

 無音だった部屋に私の声が静かに響く。


「は?」

 この反応は当然だろう。

 初めてキスをしたあとに出る単語では、きっとない。


「昨晩のお返事、一週間待ってください」

 寝たふりをしている最中に言われた『愛している』の言葉。


 過去のことが怖くて、いまの関係が崩れるのが怖くて、考えるのをずっと避けてきたけれど、このまま逃げ続けるわけにはいかない。


 ちゃんと、クライブの気持ちに向き合わないと。


「好きとか、嫌いとか、そういうのを考えるのが怖くて……まだよくわからない、んです。でも、ちゃんと答え、出しますから」


「ああ、わかった。ありがとう」

 言いたいことは言えたものの、しばらくはクライブの顔をまともに見られなかった。


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