企む夫婦
姉様に続いて兵たちも部屋を去り、最後には私とクライブ、マリノとアンディの四人だけが残された。
私の部屋でとんでもない事件が起こっていたなんて、とてもじゃないが信じられない。
もしも昨晩この部屋で眠っていたら、殺されていたのかもしれなかったなんて……
急に背すじが寒くなり、ぶるりと震えた。
だけど、そういえばなぜ私は昨晩クライブの部屋にいたのだろう。
「ねぇ、マリノ。昨日は私の部屋で護衛をしてくれていたわけじゃなかったの? 起きたら自分の部屋じゃないからびっくりしたのよ」
理由を尋ねると、マリノはいつものように優しく微笑みかけてきた。
「驚かれましたよね、説明できないままになってしまい、申し訳ありません。昨晩のことは、陛下の策でそうさせていただいたのですよ」
「策?」
「私一人が護衛をすれば、敵はどうにかして王妃殿下に近づこうとしますでしょう? ですので、ティア王妃殿下は安全な陛下のお部屋へ移動し、私とアンディだけがお部屋に残ったのです」
「どうしてそんな危ないことを!」
なぜクライブは二人にそんな危険なことをさせたのだろうと怒りと悲しさがこみ上げてきたけれど、マリノは「違いますよ」と首を横に振ってきた。
「犯人を野放しにするほうが危険です。いつ、どこでどのように襲われるかわかりませんから」
なるほどとうなずく。
言われてみれば確かにそうかもしれない。私を守りながらでは、マリノも戦いづらいだろうし。
「そして、陛下の読みどおり、昨晩ロザリア王女殿下の侍女から『犯人を共に探せ』と、無理やり連れ出されました。ティア王妃殿下には代わりの護衛をつけるから、ノースランドをよく知るお前も来い、と」
マリノは困ったように小さくため息をつき、続いてアンディが口を開いた。
「それでマリノがいなくなったあと、俺がティア王妃殿下のふりをして部屋に残っていたところ、あいつらが短剣を持ってやってきた、というわけです」
「そうだったのね、やっと全部理解できたわ」
ただ、私の身代わりがアンディというのだけは無理がある気がするのは私だけだろうか。まぁ、暗闇だからできた作戦だったのかもしれない。
「それで、どこからが作戦だったの?」
「全部、ですね」
マリノは当然のことのように答えてくる。
「全部ってどこからよ」
マリノが護衛をやめて、犯人捜しをしろと言われたところから?
そんなことを考えていると、今度はクライブが口を開いた。
「井戸の前で、俺が帰ったところから全部だ」
クライブが帰ったところからって、私を突き放してきたあの声も、言葉も全部演技だったってわけ!?
「私を置いて帰られたのは、避け続ける私に愛想が尽きたからではなかったのですか?」
思わず声に出して尋ねると、クライブは眉を寄せて怪訝な顔をしてくる。
「なぜ?」
「なぜって、手を跳ねのけてしまいましたし、本気で拒んでしまったものですから」
触るなとか来るなとか言ってしまったし、てっきりクライブは私を嫌いになったのだろうと思っていたのだけれど。
「そんなの日常茶飯事だっただろうが。どうして今更そんなことを気にするようになった」
ふんと鼻で笑われながら問われて、確かにそうだと思い返す。
ノースランドに来てからずっと、私はクライブをひたすら、拒んで拒んで拒み続けてきた。
でも、いまはあの頃のような態度をとりたいとは思わない……というか、とれない気がする。
でもその理由なんか考えたくないし、こういうときははぐらかしてマリノに助けてもらうに限るわ。
「そういえば、マリノ……ってどうしていなくなってるのよ!」
振り返ると、マリノもアンディも退室していて、部屋には私とクライブしかいない状態にされていた。
……あの夫婦、覚えていなさいよ。




