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【電子書籍3巻完結】鈍感な王妃と不器用な国王  作者: 星影さき
第七章 渦巻く野望と王妃の恋
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思わぬ味方

「ロザリア、お前は何を考えている……」


 成り行きを見ていたクライブはぽつりと呟き、再び口を開いた。


「やめよ! ここはノースランドの管轄下だ。二人の処分は俺に任せてもらおうか」


 部屋はしんと静まり返り、続いてクライブはハロルドとオーウェンに視線を送る。

 二人は承知しましたとばかりにうなずいて、ドアのほうへ歩みはじめた。


「なぁダリル、そんなところにいないで入ってきたらどうだ?」


 クライブの声を合図に、ハロルドとオーウェンが駆けだした。


 ダリルは人混みに紛れて逃げようとしたのだろう。

 けれどそれは叶わなかったようで、すぐに大声で怒鳴る声が聞こえてきた。


「王族の俺を拘束するなど、許されると思っているのか、これは命令だ、離せ!」


 続いて、ハロルドとオーウェンの声がする。


「俺たちのあるじは、クライブ陛下なのでぇ」

「その命令は聞けませんね」


「くそッ!」

 観念したのか舌打ちが聞こえ、ダリルは私たちの前に突き出された。


「俺の妻を井戸に落としたのは、お前か?」

 クライブが冷たい瞳で尋ねると、ダリルはぶるりと震え、視線をそらす。


「俺が王妃を殺そうとするわけがない!」


「どうだ、ティア」

「いいえ、ダリル様が私を手にかけようとしたのは間違いありません」


 ただ、私を井戸に落としたのはダリルじゃない。もう一人の犯人は、いまもわからないまま。

 聞いたことのある声だったけれど、あれは誰だったのだろう。


「失礼ながら、王妃殿下お一人のお言葉を証拠になさるのは、危険ではないかと」

 穏やかな声に、びくりと身体が震えた。


 どこか冷たくねっとりとまとわりつくようなこの声を、私はよく知っている。

 私を井戸に落としてきたのは……この男だ。


「グリント卿、何が言いたい」

 不機嫌そうなクライブの前に、理知的な外見をした男が現れて深々と一礼した。


 グリント卿とはほとんど話したことはないけれど、作りもののような微笑みを崩さずどこか得体のしれない彼をヘビのように感じていた。


 そんなヘビ男は全員に聞こえるような通る声で、堂々と語りはじめる。


「皆様もご存知のように、昨晩、王妃殿下は気が動転しておいででした。そのような状態では正常な判断ができなくて当然。無礼なことに、ダリル殿下が王座を狙っているという根も葉もない噂が出回っているようですし、勘違いをされていてもしかたがないでしょう?」


「一理あるわね」

 納得したような姉様の声も聞こえてくる。


 顔を上げると、周りの兵士たちも私を疑うような顔をしていた。


 いけない、このままではダリルとグリント卿に逃げられる。


 冷や汗を垂らしながらこぶしを握りしめるけれど、名案は何も浮かばず、打つ手がない。

 どうしたらいいの……


 うつむいたとたん、震える大きな声が部屋中に響き渡る。


「王妃殿下は思い違いなどしておられません! 井戸の前に王妃殿下をお呼びしたのは、ダリル殿下なのですから」


「貴方は昨日の……?」

 がくがくと足を震わせながら大声を出していたのは、昨日私に伝言を伝えてきた少年、ルードだった。


「ルード・アドラー、貴様何を言う!」

 ダリルが目を見開いて怒鳴ると、ルードは「ひっ」と小さく息を吸って、身を縮こまらせた。


「ノースランドの未来についてあるじがお話ししたいとのことで、庭の井戸のそばまで来てくださいませんかと、僕は昨晩王妃殿下にお伝えしました。ダリル殿下の伝言で、です」


 両のこぶしをぐっと握り、涙目になりながらルードは必死に声をあげ続ける。


「ルード。それは、アドラー家に誓って言えるのか? ……もう一度聞くぞ、思い違いではないのか」


 皆の視線がルードに注がれる。あるじ……しかも王族の命令となれば逆らうことは許されない。

 家の命運も握っているルードはきっと、口をつぐむだろう。


 そう思っていたのに、ルードは首を横に振った。


「……いいえ、思い違いではありません。僕は、お優しいティア王妃殿下を、裏切ることなどできません」


 ルードは背後から肩を叩かれて、怯えたように顔を上げる。彼の隣では、クライブが満足そうに口角を上げていた。


「よく言ってくれた。ちょうど書類の整理役が欲しいと思っていたんだ。お前は俺が雇う」


「陛下……! ありがたき幸せです。精一杯働かせていただきます!」


 嬉し涙を浮かべながら何度も礼をするルードを見て、マリノも優しく笑う。


「ティア様、これでもう安心ですね」


「いいえ。私を落としてきた犯人はもう一人いるの」


「どういうことだ」


 クライブの言葉に、私は大きく一歩前へと出る。


「暗くて顔は見えなかったけれど、声はよく覚えています。私を井戸へ落としたのは、この方でした」


 全員がその人を見つめて言葉を失う中、指を差されたグリント卿だけはにこやかな笑みを浮かべ、声をあげて笑った。


「私が、ですか? 顔も見えていないとおっしゃっていたのに? とばっちりは勘弁願いますよ」


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