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【電子書籍3巻完結】鈍感な王妃と不器用な国王  作者: 星影さき
第七章 渦巻く野望と王妃の恋
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動揺

 さっき、ここに触れてきたのは……唇?


 クライブが寝室を出ていったことを確認して起き上がり、頬にそっと触れる。


 ――愛している 


 先ほどの告白を思い出したとたん胸が暴れてどうにもならず、手繰り寄せた布団に顔をうずめた。


 低くて甘い声に、あたたかな唇。優しく触れてきた骨ばったたくましい手。

 クライブの全てが、こんなにも私の心をかき乱す。


 助けて、マリノ。このままだと私の心臓が破裂してしまう。



 そのあとは寝たり起きたりを繰り返し、気がついたらカーテンの隙間から朝日が射し込んでいた。


 隣から美味しそうな匂いがする。

 おなか、へったな……


 食欲をそそる香りにつられて起き上がりドアへ向かう。

 すぐにでも食べに行きたいけれど、昨夜あんなことがあったばかりで、私はどんな顔をしてクライブに会えばいいのだろう。


 ぐぅとお腹が鳴り、それを止めようとして身体を動かすとドアに手が当たり、物音が立った。


「ティア?」

 向こうから私を呼ぶ声が聞こえてくる。


 しまった……。頭のてっぺんから足元へ、さぁっと血が落ちていく感覚がした。


 こういう時、どんなふうに返すのが正解なの? 私はいままでどういうふうに話しかけていた?

 もういつもと同じようには見られないし、わからないよ……


 ドアの前で混乱していると、向こうから声が聞こえてくる。


「入っておいで。朝食はここで食べよう」

 警戒するネコを呼ぶような穏やかな声に緊張が薄れて、ほっと息を吐き出した。


「申し訳ございません。お邪魔させていただきます」


 おそるおそる隣の部屋に入ると、驚いたように目を丸く見開いて、言葉を無くしているクライブと視線が重なる。


「あの、陛下?」

 おかしな様子に首をかしげると、クライブはあからさまに大きなため息をついて立ち上がった。


「お前、その格好……」

「格好? うわぁっ!?」


 自分の身体を見て、飛び上がる。

 本当にどうしようもないくらいにうっかりしていた。


 疲労と寝不足とで頭が回らず、ネグリジェ一枚しか着ていないことを失念していたのだ。


「以前から思ってはいたが……」

 少しずつ近づいてくるクライブに、じりじりとあとずさりをする。


 きっと『王妃なのだから、慎みを持て』だとか、『はしたない』だとか、怒られる……!


 壁に背があたってついに後退できなくなり、寝室へのドアが目に入ってそちらに逃げようとすると、手を伸ばされて退路が塞がれた。


「寝不足なもので、ついうっかりしていました。申し訳ありません」


 へらっとごまかし笑いをするけれど、クライブは真顔のままで、深紅の瞳には強い怒りの感情が宿っているように見えた。


「……お前はいつも無防備過ぎる。その気がないのなら、自衛しろ」


 一気に距離が近づいて、耳元で棘のある声がしたとたん、首に顔をうずめられて、すぐにチリと甘い痛みが走った。


 全身が切なくしびれて、めまいのように視界がくらつく。


「……ッ!」

 異常な感覚に慌てて顔を背けると、あごをつかまれ無理やり上を向かされた。


「俺相手なら、何をしても襲われたりはしないと思っていたのか?」


「ちがッ、違う、違うの」


 何が違うのか自分でもよくわからないけれど、ひたすら言葉を繰り返す。

 普段と様子が異なるクライブも、自分自身のおかしな反応も、何もかもがよくわからなくて怖くて、じんわりと涙が浮かぶ。


「違うけど、怖いの……」

 思わず飛び出た本音にクライブは一歩離れてドアを開け、そっと私だけを寝室に戻してきた。


 ドアの前で崩れるように座りこみ、声も出せずに静かに泣いた。


 昨日を境に変わってしまったクライブのことも、それにいちいち反応する自分の身体のおかしさも、こんな気持ちになることも、怖くて怖くてしかたがない。


「……悪かった」

 向こうから呟くような声が聞こえてきて、返事もできないまま静かにうなずいた。



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