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【電子書籍3巻完結】鈍感な王妃と不器用な国王  作者: 星影さき
第七章 渦巻く野望と王妃の恋
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ここはどこ?

 ここは、どこだろう……

 まどろみながら闇を漂う。

 ふと、温かな光が見えた気がして、思いきり手を伸ばした。


「ん……」

 小さく(うな)ってまぶたを開けると、暖かなベッドの中にいた。

 井戸の中で必死にもがいたせいか、身体中が痛い。

どうやら生きているみたいだ。


 ほっと息を吐いて、あたりを見回した。


 私の寝室にそっくりなのに、読んだ覚えのない本があったり違う絵が飾ってあったり、イスに男物の羽織がかけられたりしている。

 とりわけ不思議だったのは、微かに香る温かみのある爽やかな香りで。


 もしかしてここは……

 いや、もしかしなくてもそうだ。


 あの本も絵も、看病の時に見てきたからわかる。

 ここは、クライブの寝室だ。


 だけど、どうして私がクライブのベッドで眠っていたの?


 確かマリノが私に付き添ってくれていたはずで、クライブは部屋に帰ったように思ったのだけど……


 身体を見るとかすり傷程度で大きな怪我はなく、ネグリジェをまとっていて、壁にはネイビーのドレスがかけられていた。


 お借りしたサリア様のドレスは無事かしらと探すけれど、ここには置いていないようだ。

 ほかに女性用のもので置いてあったのは、髪飾りとネックレス、化粧道具だけ。


 私のアクセサリーの収納場所はマリノしか知らないし、ドレスもアクセサリーも普段より華やかで、似合うからとよくマリノがすすめてくるものだ。


 ということはつまり、マリノも私がここにいるのを知っているということになるけれど、いったいなんのために移動を……?


 頭を抱えていると、隣の部屋から寂しげな女性の声が聞こえてきた。


「私……怖いの。一人じゃ眠れそうにないわ」

 これは、姉様の声?


「ずいぶん多くの兵や侍女を連れて来ていたし、あれだけいれば怖くもないだろう」

 今度のあきれたような声は、クライブだ。


「兵たちはいま、ティアを落とした犯人を探しているからいないの、だから……」


 姉様は頼りなげな声で話している。


 井戸に落とされたと思ったらマリノとアンディに助けられ、自室で寝ていると思ったら、そこはクライブの寝室で、そのクライブの部屋に姉様が訪ねてきている。


 何もかもが理解できない。いったいこれは、どういうことなの……!?


 状況を把握するため扉の前に移動し、耳を澄ませて隣の部屋の様子をうかがった。


「一人ぼっちは怖い……次に狙われるのは、私かもしれないわ」

 ドアの向こうからは、ロザリア姉様の潤んだ声が聞こえ、続いて小さなため息が聞こえてきた。


「ロザリアは、恐ろしい思いをした(ティア)のそばにいてやりたいとは思わないのか?」

 いつも冷静沈着なクライブにしてはめずらしく、いらついたような声だ。


「私はあの子に嫌われているし、あの子にはマリノがいる。だけど、私には幼なじみの貴方しかいないの」


 少しだけ様子を見ようと静かにドアを開けてみると、姉様がクライブに抱きついているのが目に飛び込んできて、慌てて閉めた。


 密着する二人に、胸が刺されたように痛くて苦しい。


 どうやったって、最悪な未来しか想像できなくて呼吸が乱れ、血の気がひいた。


「ロザリア、舞踏会の時からどうした? 不意に口づけしようとしてきたり、夜に妹の夫の部屋を訪れたり、俺にはお前のしていることがわからない」


 困惑したようなクライブの声に、姉様は声を荒らげる。


「私からすれば、貴方のすることがわからないわ! 舞踏会では誘いを断ってくるし、キスを避け、いまだって私を遠ざけてきたのはどうして? それに昼間伝えたでしょう。ロザリアではなくロザリーと呼んで!」


 姉様はきっと、私が『リム湖のほとり』のロザリンデが好きなことを知っていて、私の心を傷つけるために呼び名の提案をしたのだろう。


 『リム湖のほとり』が好きだと話してから、姉様はずっと当てつけのように自分をロザリーと男の子たちから呼ばせていたから……


 大好きだった姉様からいじめられる悲しさと、気に入ったあだ名を盗られそうになる寂しさとにうつむくと、クライブの声がした。


「ロザリア、すまないがその愛称では呼べない。旧市街にロザリーという(ひと)がいて、ほかをそう呼ぶ気にはなれないんだ。不思議とその愛称を気に入っているようだったしな」


 旧市街でロザリーって……もしかして、私?


 穏やかな声で紡がれたクライブの言葉に、大切な何かが守られたような気がして、胸がじんわりと温かくなる。


 けれど、そんな気持ちは長くは続かない。


 姉様がいらついたように深く息を吐き出したのだ。


「またはぐらかそうとするのなら、単刀直入に言うわ。どうして私を()らそうとするの? 今夜は私を胸に抱いて、甘いキスをして。貴方のことが好きなのよ!」


 衝撃的な告白に、身体が硬直して目の前が暗転したような気がした。


 血の繋がった姉が(わたし)の夫とノースランド王妃という私の居場所を奪おうとしているなんて、悪夢よりもよっぽどひどい。


 残酷な返事なんて聞きたくなくて、ベッドにもぐりこんで丸くなった。


 きっと、クライブの答えはイエスだ。

 姉様は誰よりも美しく可憐で、賢くて、地位もあって、皆の憧れで……こんな私なんかじゃ、到底かなわない。


 きっと、このあとは私が追い出されて、代わりに姉様が招き入れられるのだろう。


 そう思っていたのに。


「悪いが、その想いには答えられない」

 寝具にくるまりながら、目を見開いた。


 クライブ……どうして?


「私が次期ロゼッタ女王で、自分が結婚しているから断るの? ティアとは別れればいいじゃない。後継もいない貴方たちが結婚を解消するのは何もおかしなことではないし、私のほうがティアより地位も上なのだから、周りも文句はないはずよ」


「……いや、既婚だとか、次期女王だとか、そういうことではないんだ」


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