第36 迫る双月
深夜。私たち四人は、追手を警戒しながら森の中を進んでいた。蒼月と紅月の光が木々の間から差し込み、不思議な陰影を作り出している。
突然、前方の空気が歪んだ。
銀白色の髪が夜風に揺れ、紅い瞳が暗闇で妖しく光る。ゼファーだった。
カイゼル、アルテミシア、ミラベル、それと私、四人とも腰を落して武器を構える。
「お前たちに残された時間は少ない」
その声は、千年の時を経た者特有の重みを帯びていた。カイゼルが私を庇うように立つ。
「何の用だ、ゼファー」
「用? ふん、我が計画の最終段階を告げに来たまでよ」
「計画だと?」
ゼファーは両腕を広げ、天を仰いだ。双月が雲間から顔を覗かせる。
「我が望みは、来る『双月の夜』に、永遠花とルナの魂の欠片……つまりお前の魂を使って、愛する人を蘇らせることだと言ったはずだ。双月の夜まで、あと七日」
ゼファーの宣告が、夜の森に響き渡る。七日。それが、私たちに残された時間。
「お前には二つの選択肢がある。自ら我が元に来るか、それとも――」
ゼファーの姿が霧のように薄れていく。
「世界が滅びるのを見届けるか、だ」
完全に姿を消す直前、彼の声だけが風に乗って届いた。
「王都の惨状、実に滑稽だ。もっと面白くしてやろう」
森に静寂が戻る。カイゼルが振り返り、私の目を見つめる。
「大丈夫か?」
「……七日」
私は震える声で呟いた。死者の蘇生はとめなければならない。世界の運命がかっている。その重さに、膝が震えた。




